北へ向かって走る鈍行列車で4時間半、駅に着いて迎えの車に乗って50分。
目的の温泉地は今年も期待通り、静かに雪の中に埋まっていた。
見渡す限りの雪が宿を覆い、人間の腕ほどもあろうかと思われる氷柱(つらら)が鋭利な刃物のように先を尖らして軒先を飾っている。
3月の上旬、里には梅の香りが漂い、春の息吹が感じられるのに、ここはまだ厳冬の寒さが支配し、木々を眠らせ、鳥たちのさえずりもない。
ただひたすら雪の舞い落ちる露天の湯につかる。
時折、松の梢に積もった雪が落ちてきてほてった体を冷やしてくれる。
あまりに豊かになりすぎ、便利になりすぎた私たちの社会が、この見せかけだけの繁栄の中の幸せと引き換えに、失い、犠牲にしてきたものは少なくない。
私たちの先人が築いてきた、幸せを育む社会が、生きずらい社会に傾斜していったのはいつの頃からなのだろう……。
鈍行列車と厳冬の秘湯は、さまざまのことを思い起こさせ、疲れた気持ちをリフリッシュさせてくれる貴重な旅となります。
季節の香り(3)
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