『旅の想い出』
室内の光景・・・壁にかかった額には亀裂の入った塔が描かれ、それは険しい山中に囲まれているという図である。
初老の紳士、傍らにはライオン、共に生きたまま瞬時の石化、そしてテーブルの上には果実の乗った皿、燭台の明かりは絵の中心に在り周囲を照らしている。
総て石化の質であるのは、時間を超未来の設定、時空の移行である。
初老の紳士は右手に本を左手にハット、着衣はコート、蝶ネクタイ姿であり、それなりの地位と学識の人という感じである。傍らのライオンについては自然界を熟知した老いたライオン(百獣の王)の静謐な姿であり、人類と動物の対峙というより競合の果ての調和、同じ空気に生かされたもの同士である同質(平等)を感じる。しかし、双方の眼差しは真逆にあり、相容れない世界を見つめている。
壁に掛けられた絵については、栄華を極めた城(権力の象徴として)の崩壊、時代の終焉、過酷な状況下にも新しい草木の芽生えが見える、…たぶん循環を示唆しているのではないか。
テーブルの上の果実は食べることは生きることであり、生産と消費、生命活動の要を象徴している。中央の蝋燭は人智により存在を浮上させており、人智(叡智)の照度を仄めかしているのではないか。人類の成果とは、これほどの光でしかなかったのだと。
『旅の想い出』の語り部は誰なのだろう。
人類(動物世界)を俯瞰して見ている永遠なる《神》を想定したのか、あるいは自分自身を超未来に蘇生させ眺めたファンタジーかもしれない。
(写真は国立新美術館『マグリッㇳ』展/図録より)
最新の画像[もっと見る]
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます