この女盗賊らしきもの、『冒険の衣服』のオサガメに酷似している。頭部、肩のいかつさ、尾ひれのような足先・・・。
『冒険の衣服』も、女とオサガメの登場である。
オサガメのようなものは冥界の使者なのだろうか。とすると、女が両手を挙げているのは冥界へ連れて行ってほしいと懇願しているポーズなのかもしれない。
『女盗賊』の壁面は平面というより不穏な空気感に満ちているどこまでも突き抜けていくような重層な密度を感じる。
しっかりと箱(棺?)を抑えているが、その手は肩のいかつさに比して優しい。腕の長さに力を感じ、決して開かないように抑えているが、どこか愛情を感じる温もりがある。
つまり攻撃ではなく守護の印象である。
『女盗賊』は、現世から死人を冥界に運ぶ盗人であり、このいかつさは防衛のためであるのかもしれない。木箱の横に置かれた二つの箱は副葬品だと思う。
(写真は新国立美術館『マグリット』展/図録より)
ずうつと遠くのくらいところでは
鶯もごろごろ啼いてゐる
その透明な群青のうぐひすが
(ほんたうの鶯の方はドイツ読本の
ハンスがうぐひすではないよと云った)
☆掩(隠れた)往(人の死)の体(ありさま)は等しい。
冥(死の世界)の群(集まり)は照(あまねく光が当たる=平等)である。
奥(おくぶかい)法(神仏の教え)を解(理解する)のに翻(形を変えてうつして/作り変えて)運(めぐらせている)。
「あなたがあの娘を つつしみぶかいとおっしゃるのは、勝手ですわ。あなたは、あらゆる女のなかでいちばん恥知らずのあの娘をつつしみぶかいとおっしゃるのね。しかも信じられないことだけど正直にそう考えていらっしゃる。あなたがしらっぱくれていらっしゃるのではないことは、わたしにもわかっているわ。
☆自制しているように見えるかもしれません。あの無恥を自制しているというのですか。信じられないけど誠実にそう思っている、でも、あなたが偽っていないことをわたしは知っています。
『女盗賊』
暗い絵である。ここに人らしきは黒装束のものしかいないが、この人が女盗賊なのだろうか。
女と称するにはあまりに肩幅が広くがっしりしているが、手はどちらとも付かず、腰は女らしい曲線である。長すぎる腕に対し足は短かく、腕には肘があるのに足には膝の暗示がない。
極めて不思議な形態をしているが、その長い両手はしっかり背後の箱を抑えている。《決して開けさせない》という風である。
壁があり床がありレンガも見える。室内の設えは、人(現世)である。
女盗賊の奪おうとしているものは箱の中にある、箱は棺を想起させる。
中には死体があり、この得体の知れない黒装束のものはこの《死/霊魂》を現世ではない異世界(冥府)へ持ち去ろうとしている。暗く不穏な空気の漂う密室。今ここに大きな力が作用しようとしている魔の瞬間である。
(写真は新国立美術館『マグリット』展/図録より)
いまわたくしは歩測のときのやう
しんかい地ふうのたてものは
みんなうしろに片附けた
そしてこここそ畑になつてゐる
黒馬が二ひき汗でぬれ
犁をひいて往つたりきやりする
ひはいろのやはらかな山のこつちがはだ
山ではふしぎに風がふいてゐる
嫩葉がさまざまにひるがへる
☆補(つくろう)則(きまり)の字は変(移りかわる)
二つを将(あるいは/もしかすると)告げている
場(空間/領域)は普く換(入れ替わり)裏(反対側)がある。
央(真ん中)を賛(たたえる)。太陽は普く和解の要である。
「そうですわ」と、フリーダは叫んだ。言葉が彼女の意に反してとびだしてきたのである。Kは彼女がこんなふうに考えかたを変えたのを見て、よろこんだ。彼女は、自分が口に出そうとおもったのとちがったことを言っているのだった。
☆層です、とフリーダは叫んだ。言葉は彼の意に反して出て来たのです。Kは彼女が話をわきに逸らしたのを見て喜んだ。彼女は自分が言おうとしたことの他を言ったのだ。
光のないくらい荒れた空と海、そして難破船。狂暴さ・困苦・窮地・・・真であるが、善や美といった救いのない景である。それでも生きねばならない現世、凄まじい混濁・混沌・激流の嵐。エネルギーの燃焼・葛藤は、戦火が美しいのと同様に異世界から見れば、高揚を誘う景色に映るかもしれない。この暗い嵐を惨状と言い切るのは早計かも知れず、イメージは覆る可能性を秘めたものである。
その観点から前方の景を見れば、必ずしも無風の平和ではなく、無に帰していく崩壊のプロセスの途中であり、各人の個性(暗号化されたカット)も集約されやがて均一化を余儀なくされる時空への入口かもしれない。
条件(密度)の異なる景の接合は、きわめて横暴であり、この摩擦(衝突)には哀愁が漂う。無常と換言できる景の合成にはマグリットの諦念と慟哭が秘められている。
(写真は新国立美術館『マグリット』展/図録より)
ガラス障子はありふれてでこぼこ
わらぢやsun-maidのから函や
夏みかんのあかるいにほい
汽車からおりたひとたちは
さうきたくさんあつたのだが
みんな丘かげの茶褐や
繋あたりへ往くらしい
西にまがつて見えなくなつた
☆章(文章)の詞(言葉)を換(入れ替える)。
化(形、性質を変えて別のものになる)で鬼(死者)の赦(罪や過ちを許す)救いである。
差(違い)を合わせ部((区分けして)絡(すじみち)を判(可否を定めると)奥に済(救い)が現れる。