棕櫚の花
江嵜企画代表・Ken
棕櫚の花が、今年も暦どおりに今や遅しと躍動し始めた。遠目ではよく見えないが木の根元に近づくと、大きな房に包まれてまさにこぼれんばかりに花を咲かすべく出番を待っていることが分かった。
スケッチをしていると「ご主人、ご主人」という声が道端から聞こえた。振り返るとお年を召したさる紳士がフェンスの外に立っていた。
何かなと思って近づくと「きれいなチユーリップを今年も楽しませてもらいました。」と言うのである。「それは、それは」とそっけなく相槌を打ってスケッチをまた、はじめようとしたら、話好きの御仁と見えて話がとまらない。
「絵心のある方はうらやましいですなあ。」と続ける。「ところで、ご主人はおいくつですか」と聞くではないか。
「81です。いつまで続けられるか自信はありませんがね。」とお茶を濁してスケッチを再開しょうとした。
話は、終わらなかった。「81ですか。」と一呼吸置いたあと「81は日本の男性の平均寿命です。国は平均寿命で収支ゼロになるように年金を計算してますんや。これから先の年金は丸まるいただきとなりますから、長生きせんとあきまへんで。」と力を込めた。
なるほどそういう考え方もあるものかと改めて感心した。
いつものようにヤフーのブログで棕櫚の花言葉を調べた。「勝利」、「不変の友」と出ていた。花期は5~6月。ボリュームのある房が雄花、雌花は少し小ぶり。めしべは一本しかないと出ていた。
目の前にある棕櫚は三代目である。初代は祖母が祖父と所帯を持ち、家を建てるとき元家から持ってきた。25年前の阪神淡路大震災で切り倒された。
二代目は実家の家の陰に隠れていたが、全壊した家が取り払われて更地になったせいもあり、天日を目いっぱい浴びて一気に大きくなったが10年ほど前の強風で倒れた。
三代目は二代目が倒れたあと、まるで親からの申し送りを聞き届けていたかのように芽を出し、今や、空にせり出した葉先まで入れると10メートルはあるかと思えるまで成長した。
時に三代目の足もとに高さ20センチほどまで成長した四代目ひ孫が待機している。
棕櫚はおびただしい数の種を毎年落とすが決して毎年成木にならない。
先の老紳士の話もあるが、四代目のひ孫の木が僕のためにも長生きしろよと無言で筆者に話しかけてくれているような気がして、大いに元気をもらった次第である。(了)