第119回「酒蔵文化道場
江嵜企画代表・Ken
東大寺長老、筒井寛昭氏を講師に迎えて8月28日午後4時からの第119回「酒蔵文化道場」が開かれ楽しみにして出かけた。「3密」を防ぐため大きなテーブルに2人。開演10分前に会場に着いたが30人近いひとでほぼ満席だった。隅っこに幸い席がひとつあり、会場の様子を筒井長老を入れてスケッチを仕上げた。
会場で配布されたレジメに筒井長老の僧歴に、入寺9歳、昭和30年7月、得度12歳、平成28年5月東大寺長老就任、お生まれは昭和21年4月とあった。
今、新型コロナが世界を襲っているが、聖武天皇の御代、今から1,300年前、疫病で何十万もの人が亡くなった。聖武天皇は「どうしたらいいか。」となった。僧、行基が活躍した。設計図を自ら書き、全国で60か所のお寺を造った。それが国分寺である。仏の教えを説き、勉強をする一方、堂内で病人を治療した。ため池を作って洪水を防いだ。
1300年もの長い間今に至るまで一つの国としてつながっている国は他にはない。日本と言う国は素晴らしい国なんですよと伝えたいと色々な機会に話をしている。今、日本はぎすぎすした国になった。どこに原因があるのか。素晴らしい日本の歴史や文化が、明治に変えられてしまった。当時、日本の文化は遅れており、役に立たないと教えた。廃仏毀釈です。仏を廃し、釈迦の教えを壊す意味です。島津藩は全てのお寺をつぶした。
筒井長老はここまで一気に喋った。
「本講演のタイトルを「ものの見方と心の持ち方」としました。物の「みかた」には「見方」と「観方」があります。ものの「みかた」(1)は「肉眼」での「見方」、物の「みかた」(2)は華厳教の「心眼」による。「観方」と書きます。観世音菩薩の「心眼」です。心の目でみること。物事の本質を観察することです」と筒井長老の話は核心に入ってきた。
「いま社会で起こっている問題は心の問題です。年間3万人以上の人が自殺者です。「いじめ」や犯罪が増えてきています。これらは単独での問題ではありません。全て我々の「心の持ち方」が原因なのです」と筒井長老は話を進めた。
「お天気のことでは、雨が降る日は、天気が悪いと言います。人に害を及ぼすから害虫と呼び排除します。人に役に立つ虫を益虫と呼びます。保護します。人間の判断が虫たちの命を支配しているのです」と力を込めた。
かぐや姫や浦島太郎の物語はいま子供の絵本として広く読まれています。実は大人の読み物だったのです。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」に出てくるカンダタは「この蜘蛛の糸は己のものだ。お前たちはいったい誰に聞いて登ってきた。下りろ。」といいます。自分だけが助かりたいのです。心の持ち方次第で、この世は地獄にもなり極楽にもなる。本人次第。私たちは、自分の考えが一番正しいと思い込んでいる。偏らない心を持つこと。正しく真実を見ることが大切なのです。」と筒井長老は話を結んだ。
質問では最初に手を挙げた方は「安楽死」に関連して「そろそろ終活の年になった。お言葉をいただければありがたい」と聞いた。筒井長老は「釈迦は死後の話を語っていません。死期が近づいたようだとひとこと触れた後亡くなられた。極楽、地獄の話があるが、現世で生きることを大事に送るために仮に作られた話です」と答えた。
今一人は英オックスフオード大の学生に「日本人は仏教、キリスト教など厭わない」と聞かれたと問いかけた。筒井長老は「仏教が表だって布教を始めたのは鎌倉時代の法然、親鸞時代以降に過ぎない。それまでは仏の教えは階級制度の為政者には都合が悪く抑えられた。神道の物部は残った。仏教の曽我は滅びた。明治になったとたん仏教は何もかもだめだとなった。江戸時代以前の仏の教え、釈迦の教えをひとりでも多くの方に語り伝えたいと答えた。
4時から始まって質問時間入れて午後6時10分にお開きとなった。恒例により今年一番のお酒ですと大型のグイ飲み一杯の冷酒が参加者全員にふるまわれた。空き腹での一杯は五臓六腑に染み渡る。ご機嫌で帰路についた。貴重な機会をご用意いただいた神戸酒心館の安福会長にひたすら感謝である。(了)