猪熊佳子・橋村誠聖人二人展
江嵜企画代表・Ken
日本画家、猪熊佳子・木具師 橋村誠聖人二人展が、高島屋京都店(075-221-8811)で2月5日まで、開催されている。橋村先生の木具に、猪熊先生の絵を添えるという、画期的な試みが実現した作品を、一刻も早く見たいと朝一番で会場に駆けつけた。
猪熊佳子先生に日本画の手ほどきを受けている生徒が、一人また一人と会場に顔を見せた。猪熊先生は、久しぶりの着物姿で、教え子たちと楽しそうに、話を交わしておられた。
会場の様子をいつものように、軽く、スケッチした。
猪熊先生は、本来、決してひけらかして物を言わない。その同じ人が、今回の展覧会には、なにか期するところがあったようで、是非、展覧会を見に来て欲しいと、「教室」でも、かねてから話しておられた。猪熊先生は、 美しい木肌に筆を入れる緊張は大変だったと述懐しておられた。
会場で、橋村誠人さんとも親しくお話を聞くことが出来幸いだった。樹齢数百年の杉の木が製材されたあと、数年乾燥させる。そのあとで制作にかかる。木の60%、70%は水分である。それが抜けるまで乾燥させる。気の遠くなるような世界である。
今回の作品では、木肌が薄紅色の秋田杉の銘木と、赤みのある吉野杉を使ったそうだ。吉野杉は、淡山神社のご神木をわざわざ分けてもらったものだと言うからすごい。
橋村さんから会場で、面白い話が聞けた。木の研磨材に木賊(とくさ)の茎を使う。木賊を、広辞苑で引くと、砥草の意とあるから、本来は、物を研ぐときに、とくさが使われたことがわかる。普通の研磨紙は、表面に石を使っている。当然、木肌に傷をつける。だから使えない。木肌を傷めないように植物を使う。理にかなっているではないかと、妙に感心した。
話はこれで終わらなかった。木賊で磨いた後、椋(むく)の葉で仕上げするのだという。広辞苑によれば、椋の葉は、葉の表面がざらざらしていて、物を磨くのに用いると書いてある。何も知らなかった自分自身が恥ずかしくなった。
極め付きはうさぎの話である。うさぎはねずみと同じで、ほっておくと、歯がどんどん伸びて物が食べられなくなる。そのため、うさぎは、自分の歯を削るために木賊(とくさ)を食べるのだそうだ。ひとはうさぎから学んだのだろうか。木具に命をかけておられる方の話は違う。知れば知るほど、自然の智恵の奥の深さに改めて思い致した次第である。
猪熊佳子先生は、1956年京都で生まれた。現在、日展中心に精力的な作画活動を続けておられる。先日は、京都のさる子供センターに森の絵の大作を寄贈された。ご自身3人の子を持つ親でもあるが、子供のときから絵に対して親しみを、一人でも多くの人に持ってもらいたいとの想いから出ている。
橋村誠人先生は、1959年、当代萬象の長男として京都で生まれた。ご自身絵にも書にも造詣が深い。橋村本家は、平安遷都のとき、奈良より皇室のお共をして京都に移住してきたという。今年、3月、晴れて萬象を襲名される。5月には個展開催の予定である。(了)