輸送用機器メーカーS社の株主総会風景
江嵜企画代表・Ken
今年2月に創業100周年を迎えた関西発祥の老舗、輸送用機器メーカーShinMaywa(新明和工業)の株主総会が6月29日午前10時から当社本社5階の大会議室で開かれ楽しみにして出かけた。
当社の株主になった動機は、母校の神戸市立本庄小学校とゼロ式戦闘機「紫電改」メーカーとして名を馳せた旧川西航空機,現新明和工業甲南工場が道一つ隔てて建っていたことに始まる。当時小学校1年の筆者は、戦争に負けた昭和20年(1945)12月に約9ケ月間過ごした縁故疎開先から神戸の自宅に戻ってきた。小学校校庭の片隅に焼夷弾の残骸が積み上げられていた光景が今も目に焼き付いている。母校は空爆を受けた旧川西航空機工場の巻き添えを食ったと思われる。
敗戦後75年の今年、新型コロナウイルスが当社に襲い掛かった。コロナ前の当社の3月末までの業績は売上高、2,272億円(前期比4.6%増)、営業利益、128億円(同19.9%増)、経常利益、124億円(同18.6%増)、当期純利益、74億円(同5.5%増)と創業100周年にふさわしい業績を上げていた。あらかじめ株主に配布された当社事業報告書によれば「2021年3月期の通期業績予想は、新型コロナウイルス感染の影響度が現時点では算定されておらず未定と出ていた。
本社入り口で検温合格、この日2番目に会場に入った。「3密」を恐れたのか、総会開始時点になっても20人いたかいないかの異例の少なさだった。こんな時に何故わざわざ株主総会に出かけるのか。社長さんの生の声を聞きたいからだ。
お目当ての五十川社長が登壇、型どうり第96期事業報告を終えた後、質問の時間に入った。「それでは質問に移ります。」との社長さんの言葉が終わるか終わらないかのタイミングで筆者は手を挙げた。
株主になった経緯を「枕」に入れたあと「御社は新型コロナウイルスによる攻撃に直接晒されている。特に航空機業界が厳しいと伝えられる。第一に、社長さんが新型コロナ感染を初めて耳にされたときの印象、次に、その後どのように対応されたのか。最後に、ポストコロナに向けてのご見解をお聞かせ願いたい。」と質問した。
五十川社長は「まず当社の従業員の無事を確認、安全と健康を考えた。手洗い、うがいの励行を徹底することから始めた。現時点で当社に一人の感染者も出ていない。ありがたいことだと感謝している。」と話した後「アメリカでのコロナ感染者の爆発的増加で、ボーイング787型機の主要部分を製造納入先の工場が閉鎖されたため影響を抑える対策を日々打っているが影響は長期化すると見ている。」と冒頭話した。「当社は、いままでいろいろな危機に直面した。しかし、今回のコロナ危機は世界全体で同時に被害が出ている点で従来と大きく異なる。今まであった社会の仕組み、生活スタイルそのものをすっかり変えてしまう可能性が出てきた。デジタル技術の活用・既存技術からの置き換えに積極的に取り組む。」と話を続けた。「次に新型コロナウイルとの闘いは世界および国内ともに長期戦になる。従来以上に「長期の目線」が求められる。そのためにも、お客さん、取引先さん、そして当社従業員、その家族の健康と安全第一に考え感染防止に努めることが欠かせない」と話した。
二番目に「御社の知名度は極めて低い。水陸両用の飛行艇の実力が知られていない。工場見学会を開催したらどうか」と質問した。五十川社長は「当社は地味な会社としての歴史は長い。一人でも多くの人に新明和をアッピールしたい」と約束した。
三番目に手を挙げた株主は「米国のアマゾンの配当はわずかしかないが株価は高い。自社株買いが株価の魅力を高めているからだ。御社の経営者はもっと株主目線で経営してほしい。」と指摘した。五十川社長は「ご質問の趣旨は十分承知している。今回の総会で取締役への報酬制限を緩和したのもそのためだ。」と答えた。
WHOテドロス事務局長は「感染拡大は始まったばかりだ。」と29日 発言した。従来に増した長期的視点が経営者に求められそうだ。(了)