雀の手箱

折々の記録と墨彩画

薪能 「葵上」古式

2018年10月16日 | できごと


 久しぶりの薪能でした。福岡シンフォニーホールのコンサートホールに設定された能舞台で、照明を落とした暗がりに篝火(ガス)を焚いての演能です。
 先ず狂言の「千鳥」が上演され、シテの太郎冠者を人間国宝の山本東次郎師が、アドの酒屋を山本則俊師が演じられましたが高齢のご両所の動きは軽く、よく通る声にも張りがあり、シテの何とかしてあるじの使いを果たさんものと津島祭の話を取り上げ子供たちが千鳥を捕る様子や、流鏑馬の仕草、など調子よく囃しながら隙を狙って酒樽を持ち去ろうとする物まね芸が見ごたえがありました。
 休憩を挟んで、火入れ式があり、以後は篝火の灯りのもと、「葵上」の上演でした。源氏物語に題材を取った幽玄の世界は、優美高雅なものが多い中で。この曲目は趣を異にし、六条御息所という貴婦人の凄惨な嫉妬を写した曲です。
 光源氏の正妻葵上が物の怪に苦しんでいる枕辺に、照る日の巫女の呪文と、梓の音に導かれて現れ出たのは御息所の生霊でした。華やかであった昔も今は衰え、源氏の君との仲も途絶えた恨みの数々を述べ、巫女の制止を振り切り病臥した葵上を扇で打ち、さらに連れ去ろうとして姿を消します。 中入りの後、豪華な壷折の衣装は鬼女の面と三角鱗に緋の袴に変わり錫杖を手に、召された横川の小聖の加持と渡り合い、やがて五大明王の名を唱えての祈りに打ち伏せられて、さすがの怨霊も心を和らげて成仏して立ち去るという変化に富んだ筋書きです。
 古式で上演されるのを拝見するのは初めてでした。葵の上を象徴する赤の小袖が正面に述べられるのは定式どおりですが、御息所を深く傷つけたかつての賀茂の葵祭の折の「車争い」の場面の破れ車の作り物が出ることと、御息所に青女房のツレが出るのは初めてでした。観世元正師や、梅若六郎師の御息所とはまた違った若い背の高い観世喜正師のシテのこれからが楽しみです。夢見心地で博多を後にしました。








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