近大進出が起死回生となるか
大阪府の堺市と和泉市にまたがる泉北ニュータウンの人口減少が止まらない。大阪難波と結ぶ泉北高速鉄道は利用者の減少が続き、親会社・南海電鉄の将来に暗い影を落とす。
大型クレーンが並ぶなか、工事用車両が出入りを繰り返す。建設中の大型施設はその全貌が次第に見えてきた。10月末に訪れた泉北ニュータウンの中心・泉北高速鉄道泉ケ丘駅(堺市南区)前。堺市立泉ヶ丘プールなどの跡地で2025年秋のオープンに向け、近畿大新キャンパスの工事が続く。
施設は病院の外来棟や診療棟、大学の研究棟、講義・実習棟など10を超す。延べ床面積は計約14万平方メートル。スーパーの「ロピア」などが入る商業施設のジョイパーク泉ヶ丘、高島屋が入るパンジョ、大型児童館の堺市立ビッグバンなど大型施設が並ぶ泉ケ丘駅前で群を抜く規模だ。
新キャンパスには大阪狭山市から医学部と付属病院が移転するほか、看護学部新設が計画されている。医学、看護の両学部で学生定員は約1100人。堺市は教職員や病院スタッフらを含め、来街者が
「1万人規模」
で増える可能性があると見ている。人口減少が続く泉北ニュータウン活性化の起死回生策になるかもしれない。
泉北ニュータウンは堺市南区と一部和泉市の丘陵地帯に大阪府が開発した。開発面積は西日本最大級の約1560ha。泉ヶ丘、栂(とが)、光明池の3地区に16住区が設けられ、高度経済成長期の1967(昭和42)年に街開きした。
65歳以上「38%」の現実
だが、人口は1992(平成4)年、計画人口18万人に迫る約16.5万人に達したあと、減少に転じた。2023年末は約11万人(33%減)。その結果、住宅戸数の約半数を占める公営賃貸は空き部屋が続出している。住民の高齢化も深刻。泉北ニュータウン全体で65歳以上の高齢者が全人口の
「37.5%」
を占める。竹城台など5住区は過疎地域並みの40%を超えた。
団地の1階などに設けられた商業スペースは店舗撤退が続き、建物自体が取り壊されたところも。泉北ニュータウン内は路線バスが走るが、起伏の多い丘陵地帯はバス停留所までの短い移動も高齢者に負担が大きい。移動販売が命綱の高齢者も増える一方だ。
茶山台で暮らす70代の女性は、
「子どもたちが就職してから夫婦ふたり暮らし。近所もよく似た状況で、ニュータウンが老人ホームになった」
北摂の千里ニュータウン(大阪府吹田市、豊中市)のように人口減少を克服した事例もあるが、あくまで例外。泉北ニュータウンは大多数のニュータウンと同様に人口減少と高齢化の波に飲み込まれている。
官民挙げてあの手この手の対策
府や堺市、南海電鉄などは魅力ある街に変え、人口減少を食い止めようと懸命の努力を続けている。府は建て替え時期を迎えた建物が増えてきたのを受け、建物の高層化で生まれる空地に地域から求められる施設を整備する方針。大阪都市計画局は
「地域のまちづくりに合う施設を検討したい」
としている。
堺市は若い世代の定住促進に力を入れる。自然に恵まれた泉北ニュータウンの魅力を満載したウェブサイトを開設したほか、11月に入って「まちの参観日」と銘打った定住促進イベントを次々に開催中だ。堺市泉北ニューデザイン推進室は
「若い世代に魅力をアピールし、高齢化に歯止めを掛けたい」
と述べた。
南海電鉄はAI(人工知能)を活用したオンデマンドバスの実証運行を続けている。定員8人のワンボックス車が事前予約を基に最適ルートを判断して運行する仕組み。南海電鉄は
「持続的な運行を模索し、サステナブルな街を目指したい」
と説明した。
槇塚台では、地域コミュニティーに大阪公立大やNPO法人などが協力する「泉北ほっとけないネットワーク」が、府営住宅の空き部屋や戸建ての空き家を改修し、生活支援住宅やグループホームなどへ福祉転用している。
実態を調査した大阪公立大大学院生活科学研究科の加登遼講師らは10月、
「改修が他地区へ広がることで泉北ニュータウンがオールドタウンから変容する可能性が示唆された」
とする論文を国際学術誌「ハビタット・インターナショナル」に寄稿した。
南海電鉄の鉄道事業分社化にも影響
泉北ニュータウンの人口減少は泉北高速鉄道の親会社・南海電鉄の経営と無関係ではない。南海電鉄は2025年4月、泉北高速鉄道を吸収合併し、路線名も南海泉北線に変える。さらに、2026年4月には鉄道部門を分社する。鉄道事業を取り巻く環境の悪化が理由の一つだ。
泉ケ丘駅の1日平均乗降客数は2022年で約3万5000人。南海電鉄グループのなかでは
・難波駅(大阪市中央区、浪速区)
・天下茶屋駅(大阪市西成区)
・新今宮駅(同)
に次いで多い。栂・美木多駅は約1万7000人、光明池駅も約2万6000人とそれなりの乗降客がある。
泉北高速鉄道は2024年3月期決算で約47億円の純利益を出すなど、コロナ禍を除いて
「毎年30億円前後の利益」
を出してきた。南海沿線の南大阪や和歌山県は大半の市町村が人口減少にあえいでいる。そんななか、泉北高速鉄道は関西空港(大阪府泉佐野市など)線と並ぶ優良路線だ。
しかし、泉ケ丘駅の乗降客数を1991(平成3)年の約6万9000人と比較すると、ほぼ半減している。泉北ニュータウンの人口減少と高齢化が影響したことは間違いない。この間、南大阪から大阪市中心部、北摂へ向かう人の流れが続いてきた。このまま人口減少が続けば、南海電鉄の鉄道収入がさらに先細りする。
南海電鉄は鉄道分社化の理由として、「事業ごとに迅速な経営判断を下せる体制」の構築を挙げたが、優良路線の将来に陰りが見えるなか、
「鉄道に頼らない成長」
を目指さざるを得ない苦しい胸の内がうかがえる。