倒産相次ぐラーメン業界…人気チェーン店をM&Aする大手企業の思惑
M&Aクラウドの源道直です。今回はクリエイト・レストランツ・ホールディングス(以下、CRH)による一幻フードカンパニーのM&Aをピックアップし、その背景を解説するとともに、ラーメン業界の今後の動向を読み解きます。
■案件概要
買い手:クリエイト・レストランツ・ホールディングス
売り手:一幻フードカンパニー
発表日:2024年9月6日(10月1日付で全株式を取得)
譲渡価格:算定中につき未公表
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個性的なラーメン店が外食大手傘下に
今回のテーマは、ラーメン業界のM&Aです。ラーメン業界は「町田商店」を展開するギフトホールディングスや「一風堂」を展開する力の源ホールディングス、直近では2023年12月に魁力屋が上場しているように、IPOして拡大を続ける企業もあります。一方で、倒産する企業も少なくありません。東京商工リサーチの調査によると、2024年1-9月のラーメン店の倒産件数はこの15年間で最多となっており、非常に厳しい状況であることも示唆されています。
そうした環境下において発表されたのがCRHによる一幻フードカンパニーのM&Aです。2024年10月1日付で全株式取得となったこの案件は、近年活発化するラーメン業界の事業再編の一つとして注目を集めています。
一幻フードカンパニーは、甘エビの頭部を煮込んだ独特のスープで知られる札幌発祥のラーメンチェーン「えびそば一幻」の運営企業です。国内外で11店舗を展開し、2024年4月期には売上高10億円(前期比16%増)、純利益1億4300万円(同12%増)と堅調な業績を示しています。同社は店舗運営に加え、土産用ラーメンの販売も手がけており、複数の収益源を確立しているようです。
CRHは1997年に創業し、2010年に持株会社体制へと移行してからは「グループ連邦経営」を掲げ、本格的にM&Aによって成長。現在では231ブランドを運営し、1109のグループ店舗数を持つ外食大手企業です。同社は日常使いされる飲食ブランドの買収戦略を推進しており、直近では2022年12月にはベーカリーチェーンの「サンジェルマン」を傘下に収めています。ラーメン店のM&Aは、2014年に「つけめんTETSU」を運営するYUNARI以来です。
CRHは今回のM&Aのシナジーについて、「日常食である麺カテゴリー事業の更なる深化、ネクストコアブランドの育成によるブランドポートフォリオの強化、更にはグループ内フランチャイズ等によるシナジーの創出」を発表時に表明しています。つまり、一幻フードカンパニーの既存店舗の収益力強化を当面の目標としつつ、CRHの物件開発力を活用した国内外での店舗展開を視野に入れているということになります。
活発化するラーメン業界のM&A
ラーメン店のビジネスは、他の外食メニューと比べたときに、リピート率の高さが挙げられます。そうした魅力もあり、個性的なラーメン店のM&Aが目立ちます。
大手外食企業による有名ラーメン店のM&Aには、2016年には「せたが屋」が吉野家ホールディングスに、2021年には「横濱一品香」がイートアンドホールディングスにグループ入りした事例などがあります。
近年増えているのは異業種のラーメン業界参入です。2023年6月には、「らあめん花月嵐」を運営するグロービートを人材派遣・紹介業のフルキャストホールディングスが、今年7月にはソラノイロを食品スーパーマーケット「ロピア」を運営するOICグループがM&Aしました。OICグループの場合、グループ内外のネットワークとソラノイロ代表の宮崎千尋氏の企画・プロデュース力を組み合わせ、PB商品の開発も視野に入れたラーメン事業の展開を構想しているようです。
もちろん、外食産業はトレンドに業績が左右される傾向が強いものです。ラーメンにはトレンドはもちろんのこと、コラボ商品などの影響で店舗の客足が変化することもあります。とはいえ、冒頭でも話したようにラーメン店の倒産が増えているのはトレンドの影響だけではなく、コロナ禍後の環境変化に由来する点が大きいようです。
コロナ禍では来店客の減少などで苦しんだものの、国のコロナ関連支援策もあり、それほど倒産に至る企業は増えませんでした。しかし、そうした支援がなくなったあとに、物価高、光熱費や人件費の上昇に見舞われているのが現状です。そうしたタイミングで、成長基調にありながら次の道を模索し、買い手を探すのは一つの戦略であると言えるでしょう。大手企業の傘下であれば、調達力や資金力も向上しますし、競合優位性が高まることになります。
買い手となる企業にとっても、チェーン展開をする際にコアなファンを持つラーメン店は大きな武器になります。つまり、ラーメン店のM&Aは単なる救済や事業承継ではなく、重要な成長戦略として位置付けられることになります。
事業承継できないこともある…「デュアルトラック」も視野に入れよう
もちろん、M&Aともう一つの成長戦略として、魁力屋やギフトホールディングスに続くようなIPOを目指すという選択肢もあります。IPO、M&Aのいずれのケースでも成功事例がありますから、デュアルトラック・プロセス(スタートアップのExitにおいてM&AとIPOを併走させる手法)を活用することにも適した業態と言えるでしょう。
たとえばIPOした魁力屋を例にとってみても、IPOをせずに事業承継をするというのも一つのExitの形だったと思います。しかし、「味」を継承するにはまったく関係のない人でもいけません。ただ、会社が大きくなり、従業員では株式を買い取るには相当の金額が必要になってしまい、渡すことができなくなってしまうこともままあります。
その解決策として、大手企業が創業者を含めた形で会社を買い取り、その後従業員に経営を委ねることもできます。海外進出にしても、親会社がすでに海外進出していれば、難易度はぐっとさがります。
ただ、そのケースで相続もないという場合、IPOは一つの出口になりえます。また、海外進出のためのお金が必要な場合も、IPOを目指す必要はあるでしょう。
ラーメン業界は、厳しい経営環境のなかで構造的な変革期を迎えています。今回の一幻フードサービスの買収は、独自性の高いブランドが大手企業の傘下で新たな成長を目指す一つのモデルケースとなるでしょう。今後は、各事業者が自社の強みと市場環境を見極めながら、IPO、M&A、あるいはデュアルトラック戦略など、最適な成長戦略を選択していくことが求められていきそうです。