最近は「ハト派」という言葉があまり聞かれなくなり、
日本の政界では死語になりつつあるように感じます。
「タカ派とかハト派という区分けは無意味だ」と
言うのは、だいたいかなり右寄りの人が多いです。
「ハト派は『ハト派』と呼ばれることに快感を覚える」
という意味不明の中傷も一部あります。無意味な批判です。
しかし、私は「タカ派」と「ハト派」という区分けは、
政治分析の上で一定の意味があると思っています。
政界を概観し、縦軸に外交安保のタカ派とハト派をとり、
横軸に「小さな政府」と「大きな政府」をとるとすると、
次の4つのカテゴリーに分けることができます。
1)タカ派×小さな政府 = 自民や民主、維新の一部
2)タカ派×大きな政府 = 自民の多数派、民主の一部
3)ハト派×小さな政府 = 自民のごく一部、みんなの多く
4)ハト派×大きな政府 = 社民と共産の全員、自民や民主の一部
1)2)4)のカテゴリーは存在感があります。
しかし、3)のカテゴリーの存在感が薄いです。
1)タカ派×小さな政府
尖閣問題や従軍慰安婦問題で中国や韓国を厳しく批判し、
歳出削減や行革に熱心な「タカ派×小さな政府」は、
自民党、民主党、維新の会に一定数いると思います。
2)タカ派×大きな政府
中国や韓国に厳しい態度をとり、かつ、公共事業拡大に熱心で、
行革に冷淡な「タカ派×大きな政府」も自民党の大勢力です。
最近の衆院選で大幅に勢力を拡大した気がします。
4)ハト派×大きな政府
民主党の一部や共産党、社民党は、憲法9条堅持を主張し、
再分配を重視する「ハト派×大きな政府」です。
長い歴史と草の根の支持がありますが、近年減少傾向です。
この「ハト派×大きな政府」には、後藤田正晴元官房長官や
河野洋平元衆院議長のような自民党のハト派がかつてはいて、
自民党内の一大勢力でしたが、勢力を弱めています。
保守政党内のハト派は絶滅の危機にあるように感じます。
共産党や社民党が議席を減らし、自民党のハト派は激減し、
右と左のハト派が減っているのが、近年の傾向です。
右と左のハト派の弱体化は、日本の将来を危うくします。
前述のカテゴリーでは3)ハト派×小さな政府は目立たず、
政界地図の中ではどこにいるのかわかりにくいと思います。
故宮澤喜一元首相なども、ハト派で財政規律重視派なので、
ある意味で「ハト派×小さな政府」なのかもしれませんが、
霞が関と親和的という意味で「小さな政府」ではありません。
みんなの党は「小さな政府」であり、党内の顔ぶれを見ると
いわゆる「タカ派」的な人はあまり思い浮かびません。
みんなの党は「ハト派×小さな政府」がやや多いと感じます。
「ハト派×小さな政府」は国際協調と自由貿易を重視し、
行政改革や歳出削減にも熱心な政治勢力です。
自民党や民主党にも「ハト派×小さな政府」はいますが、
人数的には決して多くはない印象を受けます。
いまは弱い「ハト派×小さな政府」という政治勢力は、
これからの日本の政治に必要な対抗力だと思います。
「ハト派×小さな政府」はどんな政策を掲げるでしょうか。
それは自由主義と国際協調が二大キーワードだと思います。
自由主義の立場から、経済的自由を尊重し、市場を重視し、
規制改革に取り組む。TPPに参加し自由貿易を推進する。
自由主義は、政治的自由や社会的自由を大事する。
民主主義や人権といった価値観を共有する米国や豪州、
アセアン諸国との連携を強化する。
それでいてハト派の本領として、過去の反省を忘れずに、
偏狭で排他的なナショナリズムをあおらない。
また、自由主義者は、リアリストであるべきです。
非武装中立を唱えたり、自衛隊の存在を否定したりせず、
空想的平和論に逃げない。同時に核武装論も唱えない。
そして、国際政治はいまだ勢力均衡の考え方が支配的であり、
力の空白が生じれば、近隣の大国がそれを埋めようと動く、
という現実を見据えた外交安全保障政策をとる。
穏健な外交・安全保障こそが、日本にふさわしいと考えて、
ソフトな外交と機能する防衛力の両立を目指す。
セオドア・ルーズヴェルト大統領の有名な言葉を借りれば、
「Speak softly, carry a big stick.」という感覚を持ち、
日米同盟を基軸に、一定の防衛力・抑止力を担保する。
自由主義は、国民生活に政府が過剰に介入すること嫌う。
例えば、道徳教育の教科化が話題になってきているが、
憲法で「思想及び良心の自由」が保障されている以上、
文科省という官僚組織が個人の道徳(=良心)に、
どこまで介入すべきか、慎重であるべきと考える。
自由主義的発想に立てば、道徳教育の教科化より、
コンプライアンス教育やシチズンシップ教育という視点で、
社会の中で責任ある市民(国民)として生きていくための
知識・スキルを身に着ける教育に行きつく。
自由主義者にとっては、男女差別や障がい者差別は、
他者の自由の侵害であり、絶対に許容できない。
自由主義は、人々の多様な活動に対し寛容である。
多様性を尊び、全体主義や官僚統制に断固反対する。
自由主義者は、体罰で強制するような教育は認めない。
国民の統合の象徴として天皇を頂く立憲君主国家であることを
積極的・肯定的にとらえる(「元首」ではなく「象徴」がよい)。
「ハト派×小さな政府」は、日本固有の伝統や文化を大事にしつつ、
唯我独尊的なナショナリズムとは一線を画す。
国際社会の平和と安定に積極的に貢献し、一国平和主義ではなく、
グローバルな危機への対処でリーダーシップを発揮する。
減少し過ぎたODAを増額し、海外投資や経済協力を拡大し、
国際社会における日本のプレゼンスの拡大を目指す。
こういった「ハト派×小さな政府」、自由主義と国際協調の
政治勢力を結集することが、政界再編のテーマだと思います。
以上は、すべて私の個人的な見解と印象論であり、
所属する党の立場を代表するものではありません。
言うまでもないとは思いますが。