橋下知事が掲げる「大阪都構想」の問題点を東西の地方自治の研究者が検証するシンポジウム「大阪都構想を越えて~問われる日本の民主主義と地方自治」が2月11日、大阪自治体問題研究所の主催で大阪市内で開催されました。会場には約470人の府民や報道関係者が参加して超満員となり、廊下に人があふれるほどの熱気となりました。
主催者あいさつに立った鶴田廣巳・関西大学教授(大阪自治体問題研究所理事長)は「大阪都構想は集権化による大規模なインフラ整備が最大の目的。福祉行政は基礎自治体におしつけるが、財源なき分権であり、行政責任の転嫁に過ぎない。世論調査では、府民は大阪都構想について『説明不足だ』と感じながらも、なんとなく賛成している人も多い。シンポジウムでは、東西の地方自治の専門家による議論で、大阪都構想の問題点を明らかにしたい」とのべました。
大阪停滞の原因は府市制度にはない
コーディネーターを担当した重森暁・大阪経済大学教授は、「大阪都構想は、大阪の歴史的な経過や法制度などを踏まえて検討・熟慮された形跡はなく、当面の選挙にむけたワンフレーズ・ポリテックスとしての思いつきといった性格が強い。府と市の無用の対立を引き起こし、大阪経済の地盤沈下に拍車をかけるのでないか」とコメントしました。宮本憲一・大阪立大学名誉教授は「大阪都構想は、大阪市・堺市を破壊する以外は改革の目的が不明確だ。大阪が抱えている問題は、大阪都構想でなくても府と市がしっかり協議すれば解決できる問題ばかりだ。大阪市のような大都市には経済や文化の集積がある。その大都市を簡単になくしてしまうのは許せない。蓄積された資産、人材を生かして大阪を発展させる基本方針をもつべきだ」と指摘しました。
木村收・元阪南大学教授(元大阪市財政局長)は、「大阪では1960年代からの急激な人口増により衛星都市で発生した様々な都市問題を府政がカバーする役割を担ってきた。橋下知事は『大阪府と大阪市は二重行政でムダだ』と言うが、府と市の図書館、体育館はどれも利用率は高く、市民にとってはムダでもなく問題はない」と指摘しました。
加茂利男・立命館大学教授は「政令指定都市は大阪だけでなく首都圏や中京圏にもある。全国で大阪だけが停滞していることを行政制度で説明できるのか。大阪の衰退は行政制度にあるのでなく、企業が東京や海外に移ったなど経済的な理由によるものとしか考えられない。病気の原因を間違えると、誤った薬を飲ませることになる」と指摘しました。また橋下知事が自ら代表となる地域政党「大阪維新の会」の運動についても「知事による府内市町村の自治に対する政治的な殴り込みだ。声の大きなリーダーが地方政治を好きなように牛耳り『仁義なき闘い』の世界になってしまう。お互いの自治を尊重しあう地方自治のルールや作法を崩壊させることになりかねない。橋下流の政治手法はファッショ的な気がする。見ようによっては日本の地方自治の危機だともいえる」と指摘しました。
大阪都になれば、財政危機が進む
1970年代に美濃部東京都政で企画調整局長を務めた柴田徳衛・東京都立大学名誉教授は「大阪都にすれば財政もうまくいくと言うが、国から5千億円ぐらいの交付金を受けなければもたない。しかし国からそのような交付金が出るかも不明であるし、都と特別区の間での財源の配分方法もはっきりしていない。東京都と大阪では財政規模も違う。もっと冷静に考えるべきだ」と指摘しました。政府の地方分権推進委員会専門委員などを歴任した大森彌・東京大学名誉教授は「東京都は大企業が集中しているから財源が豊かであり、都から特別区にお金をまわすことができるが、財政が厳しい大阪ではその条件はない。もともと東京の都区制度は、戦時体制下で東京府が当時の東京市を吸収してつくった集権体制だ。特別区の自治が市町村よりも制約されるなど問題点が多い。最終的に都区制度は廃止される運命にある。橋下知事は東京をまねて都区制度をつくろうとしているが、時代錯誤だ」とのべました。また「大阪の指揮官を一人にする」という大阪都構想のねらいについても、「東京では都知事と特別区の区長は対立することも多い。特別区と東京都は対等な立場で協議して様々なことを決めている。都になれば司令塔が一本になると言うのも幻想だ」と指摘しました。
森裕之・立命館大学教授は、東京の都区制度をモデルに大阪都構想の財政シミュレーションを示して発言。「大阪は東京と違って税収が少なく、国からの交付税がなければ行政サービスができない。大阪都になれば、大阪市から約2700億円、堺市から約440億円の税収と地方交付税分が都に吸いあげられ、特別区に入る財源がさらに少なくなる。財政危機がさらに進み、住民サービスの低下は必至だ」と指摘しました。