万博水上アクセス実現に高い波 採算面ネック、富裕層取り込みカギ
2025年大阪・関西万博に向けて、来場者を会場の人工島・夢洲(大阪市此花区)に運ぶ水上航路を整備する動きがある。経済団体や自治体は「水都・大阪」をアピールする機会として期待し、万博のレガシー(遺産)として閉幕後は西日本一円の水上交通ネットワークを形成する構想もある。まずは万博での成功が不可欠だが、採算面などから実現の難しさも指摘されており、富裕層の取り込みがカギを握りそうだ。
■IR視野に街づくり
「船の乗り場がある中之島(大阪市)のテラスで朝食を取り、周囲に手を振ってもらいながら出航。1時間半かけて昼前に万博会場に到着して場内を楽しみ、夜は鉄道かバスで市内に戻ってもらう」
19日、船舶や観光の事業者を対象に開かれた水上航路の説明会。万博の運営主体、日本国際博覧会協会(万博協会)の淡中泰雄交通部長は、試乗経験をもとに万博会場を船で訪れる人の行動イメージを語った。
夢洲の船の受け入れ態勢も整える予定で、北岸に大阪港湾局がすでに設置している小型船(全長40メートルまで、乗客150人程度まで)用の桟橋に加え、万博協会が中型船(全長50メートルまで、乗客400人程度まで)の桟橋を需要に応じて最大2つ新設する。船で夢洲に到着した来場者は、約2キロ離れた会場入り口まで、シャトルバスで約10分かけて向かうことになる。
帰路について、協会が鉄道やバスを想定しているのは、桟橋の運用を「日没まで」としているためだ。夜間も運用するには安全に作業ができる強力な照明が必要となるが、協会は万博開催の半年間のために設置するのはコストに見合わないとして見送る方針を示す。
中型船用桟橋は万博開催期間の暫定的な運用になるが、小型船用は恒久的な施設としている。夢洲ではIR(カジノを含む統合型リゾート施設)が設置される予定があることから、港湾局の担当者は「万博後の街づくりを見据えて、北岸は有望なアクセス拠点になると考えている」と話す。
■実現に採算の壁
万博開催期間中の想定来場者は約2820万人で、1日あたり最大20万人超を見込む。協会は、地下鉄とJR、阪神高速「淀川左岸線」の3つを会場への主要経路と位置付けており、5月に示した「来場者輸送具体方針」には水上航路も記しているが、来場者輸送全体に占める割合はごくわずかとみている。
運航団体が存在することなどを根拠に、協会が水上航路として示しているのは、いずれも夢洲とを結ぶ①神戸港・神戸空港②淡路島(兵庫県)③大阪市中心部からと、④夢洲発着の大阪湾遊覧-となっている。⑤堺旧港⑥淀川から夢洲のルートは①~④に比べると実現性が落ちるとみている。
インバウンド(訪日外国人客)を取り込むため関西国際空港-夢洲ルートも検討されてきたが、協会関係者は「やろうと言っている人(自治体や事業者)がいないので、かなり実現性は低い」と明かす。他のルートについても「確定するのは事業者が見つかったとき」という状況だ。
19日の水上航路の説明会にはオンラインも含めて270人以上が参加し、事業者の関心の高さがうかがえたが、参入のハードルは高い。協会も「出航時間を決めた万博期間中の定期運航は、採算ベースでは不可能に近いと事業者から聞いている」としており、旅行会社がツアーを組むなどの観光商品として売り出すことを期待している。
協会の淡中氏は「他の観光地とのセットとし、船はチャーター便として不定期運航でやるのが現実的な運航への近道であり、答えだと見えてきた」と語る。
■西日本一円でネット構築
それでも経済団体や自治体も協力して水上航路の整備を進めるのは、海に囲まれた万博会場の立地を生かした観光商品開発や、万博後を見据えた航路開拓、西日本一円の水上交通ネットワーク構築といった狙いがあるためだ。
大阪商工会議所は6月、大阪府市や関西経済連合会などとともに、政府に対し水上航路実現に向けた要望活動を実施。大商の玉川弘子地域振興部長は「万博を誘致したのは、開催後の地域発展につなげるためだ。水都・大阪で万博を契機に航路の整備が進み、水上交通が盛んになるのが望ましい姿」と話す。
一方で大阪府は、大阪市内を流れる安治川左岸(同市西区)に、万博の水上航路での活用も視野に入れた船着き場「中之島GATEサウスピア」の整備を進めている。府は6月、管理運営やにぎわい施設の整備などを行う民間事業者の優先交渉権者に、神奈川県のマリーナ運営事業者を公募で選定したと発表。府の担当者は「川船と海船を乗り換える水上交通の結節点になる。建物にはレストランやグランピング施設も入る予定だ」と話す。
地元経済団体や府市は、令和12年の実現目標として、夢洲から瀬戸内海や太平洋を通って、中四国や九州を結ぶ関西・西日本エリアの水上交通ネットワーク構築を目指すとしている。
実現に向けた一歩として、万博での水上航路を成功させる必要がある。日本総合研究所関西経済研究センターの藤山光雄副所長は、海外の富裕層を取り込むことが重要との認識を示し、「サービスや乗り心地などで質の高い船を用意できれば、富裕層向けの観光ルートとして高価格で売り出すことができるのでは」と推測。その上で「インバウンド需要をうまく取り込むため、より付加価値の高いものを相応の価格で提供していく姿勢が欠かせない」と指摘している。(井上浩平)
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