続いて読んだのが、芥川龍之介著の『河童・或阿呆の一生』です。
この本の半分くらいで時間切れとなって、今自宅で続きを読んでいます。
これもたぶん中学の時の課題図書で、芥川氏の代表作のひとつである『河童』が
それに指定されていたと思われます。もちろん河童も面白いのですが、私としては
この短編集に収録されている中では最後の『歯車』に強く惹かれた記憶があって、
基本収録順に読み進める私も、今回は歯車から読み始めました。
この本は再読した記憶がありませんから、それ以来の読み返しです。歯車も
目の前をぐるぐる歯車が回っているという描写に強いインパクトがあったものの、
詳しいストーリーなどはほとんど覚えていませんでした。というか、この物語自体
元来ストーリーがないというか、散文というか、芥川氏が自死する寸前に書かれただけあって
神経が病んでいるからなのか、あるいはそれを治めるのに睡眠薬を乱用したための
副作用なのか、妄想、幻覚が見える症状が(そのまま?)文章に散りばめられているようで、
筋を追うのがかなり大変です。死後発表されたということで、手直し、校正などが
ほとんど行われていないからなのかもしれません。
今読んでも、私の頭のレベルではこの文章を読み解くことはかなり困難ですが、
中学生の当時はさらに難解な小説であったことは間違いありません。しかしよくわからなかった
当時ですらこの小説に強く惹かれたのは、死を予感して本能、心のうちをむき出しにして
迫ってくるような文体に、心揺さぶられたのでしょう。
当時から今日まで、この小説のことは常に頭の片隅にあって、いつか読み直したいと
願ってきましたが、ようやく今回実現したのです。そんな多い分量でなく、読もうと思えば
せいぜい数時間あれば事足りるので、いつでもその機会はあったのでしょうが、
やはり何か「怯え」のようなものを感じとっていたのかもしれません。死の臭い、あるいは
それへの誘いみたいなものがぷんぷん漂ってますからね。
それから長く生き延びてきて、私の心持もずいぶん病んでしまっていると思われるのに、
この文章を読み返してもわからないことだらけだということは、まだまだ健全な部分も
多く残っているのかもしれません。なかなかこの世の中を正常な神経のまま生きるのって
大変なことですよね。目の前をぐるぐる歯車が回りだしたら、その時またこの小説を
読み直したいと思います。
~誰か僕の眠っているうちにそっと絞め殺してくれるものはないか?~
この小説の最後の一節でした。
♪ 透き通る悲しみの 水の底で
かたかたと回り出す 夢の歯車
わたしは動いて わたしは生きてる
そして笑ってる 心なしでも
思い出す あれはもう遠い昔
でもほんの5分前 そんな気もする
誰よりいとしいあなたの心が
ドアを閉めるのを わたしは見てた
静かに 日は傾いて
夕暮れ 明け方 そしてまた夜が来る
わたしだけみつめてと 言えば言うほど
遠ざかるその距離を キスで埋めてた
時があなたを変えたわけじゃない
たぶんはじめから ひとりだっただけ
淋しいと 淋しいと 夜風が言う
淋しいと 淋しいと 波が答える
だけどわたしは なんにも言わない
誰もいないから 言うことがない
世界が 色をなくして
凍えたまつげに 触れる月の指先
打ち寄せる水の音 近く遠く
かたかたと回ってる 夢の歯車
わたしは動いて わたしは生きてる
そして笑ってる あなたなしでも
わたしは動いて わたしは生きてる
そして笑ってる あなたなしでも
(夢の歯車/詩:谷山浩子)
谷山さんは芥川氏の小説からインスパイアされて書いたわけではないのでしょうが、
どうにも私には小説とだぶって聞こえて仕方のない曲で、いわゆる「黒・谷山」の中でも
とりわけお気に入りの一曲です。しかしご本人はあまりお気に召していないらしくて、
これまで一度もベスト的なアルバムには選曲されていません。詩もメロディもすばらしい
隠れた名曲だと私は思うのですが、あまりにも世界観が暗すぎるからかなあ。
(つづく)