ウェストコーストジャズと言えば白人中心のジャズと言うのが一般的な認識かと思います。確かにパッと思い浮かぶのはアート・ペッパー、チェット・ベイカー、バド・シャンク、ショーティ・ロジャース、バーニー・ケッセルら白人ばかりですが、彼らを陰で支える黒人ジャズマンが多くいたことも忘れてはいけません。特にリズムセクションには黒人が多く、ピアノのカール・パーキンス、ドラムのローレンス・マラブル、フランク・バトラー、ベースのカーティス・カウンス、ベン・タッカー、ジミー・ボンド、そして今日ご紹介するリロイ・ヴィネガーがウェストコーストジャズの屋台骨を支えていました。
ヴィネガーはもともとインディアナ出身ですが、50年代に西海岸に移住し、ウォーキングベースの名手として多くのジャズ名盤に名を連ねています。代表的なものだけでもスタン・ゲッツ「ウェスト・コースト・ジャズ」、コンテ・カンドリ「ウェスト・コースト・ウェイラーズ」、デクスター・ゴードン「ダディ・プレイズ・ザ・ホーン」、アート・ペッパー「ザ・リターン・オヴ・アート・ペッパー」、シェリー・マン「マイ・フェア・レディ」、ベニー・カーター「ジャズ・ジャイアント」、ソニー・ロリンズ「コンテンポラリー・リーダーズ」等で、他にもまだまだあります。
本作はそんなヴィネガーのリーダー作として1957年にコンテンポラリー・レコードに吹き込まれた1枚です。2管編成にヴァイブを足したセクステットで、ジェラルド・ウィルソン(トランペット)、テディ・エドワーズ(テナー)、ヴィクター・フェルドマン(ヴァイブ)、カール・パーキンス(ピアノ)、ヴィネガー、トニー・バズリー(ドラム)と言うラインナップです。ヴィクター・フェルドマンのみ英国出身の白人ですが、他は全員ウェストコーストで活躍していた黒人で、特にハロルド・ランドと西海岸黒人テナーの双璧を成すテディ・エドワーズの参加が目を引きますね。ジェラルド・ウィルソンは後年アレンジャーとして大成し、パシフィック・ジャズに何枚もビッグバンド作品を残していますが、本盤はトランペッターとしての参加です。
全7曲、ウォーキングベースの名手ヴィネガーにあやかって、全てwalkにちなんだ曲が選ばれています。1曲目"Walk On"はヴィネガーのオリジナル曲で、ズンズンとリズムを刻むヴィネガーのベースをバックに、エドワーズのソウルフルなテナー、フェルドマンのクールなヴァイブ→ウィルソンのミュートトランペット→パーキンスのピアノソロとリレーして行きます。続く”Would You Like To Take A Walk?"は一転してハリー・ウォーレン作のバラード。トランペットとテナーは抜きで、フェルドマンのヴァイブとパーキンスのピアノで美しいメロディを紡いで行きます。3曲目"On The Sunny Side Of The Street"は厳密に言うと曲名にwalkは入っていませんが、streetなのでOKということでしょうか?お馴染みのスタンダードを快適なミディアムチューンに仕上げています。
後半(レコードのB面)はマイルスの名演で有名な"Walkin'"、ミディアム調のスタンダード”Walkin' My Baby Back Home"、ダイナ・ショアやナンシー・ウィルソンの名唱で知られるバラード"I'll Walk Alone"と続き、最後はスインギーな名曲"Walkin' By The River"を快調に演奏して締めくくります。
共演陣では何と言ってもテディ・エドワーズのソウルフルなテナーが素晴らしいですね。この人は西海岸を拠点にしていたため過小評価されていますが、同世代のジョニー・グリフィンに負けない実力の持ち主と思います。一方、ジェラルド・ウィルソンはマイルスを意識したのか全てミュートトランペットを吹いていますが、こちらは正直イマイチ。アレンジャーに転身したのは正解かもしれません。その他ではカール・パーキンスはいつもながら安定の仕事ぶりですし、ヴィクター・フェルドマンのヴァイブも良いアクセントになっています。リーダーのヴィネガーは"I'll Walk Alone"で多めにソロを取るぐらいで、それ以外ではことさら自分の技を見せつけるでもなくいつもと同じように堅実にリズムを刻んでいます。
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