ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ビル・エヴァンス/カリフォルニア・ヒア・アイ・カム

2016-12-17 23:50:55 | ジャズ(ピアノ)

ニューヨークにヴィレッジ・ヴァンガードというジャズクラブがあります。モダンジャズの全盛期、ニューヨークには他にもバードランド、カフェ・ボヘミア、ファイヴ・スポット等のクラブがありましたが、それらが時代とともに閉店していったのに対し、このヴィレッジ・ヴァンガードだけは現在でも営業を続けている希有なクラブです。かく言う私も1999年にニューヨークを旅行した際に、このクラブを訪れました。ビル・エヴァンス、ソニー・ロリンズ、コルトレーンらジャズの巨人達が名演を残した伝説の場所に足を踏み入れることに興奮していた私ですが、実際に入店してみるとまずは店の狭さにびっくり。地下室のような場所に小さなテーブルと椅子がぎっしり並べられていて、一緒に行った友人達と3人で身を寄せ合うようにして聴いたのを覚えています。その分ステージが近くて臨場感あふれるのは良いのですが、たまたまその夜に出演していたのが名前も聞いたことないディキシーランド系ジャズバンドで、僕の趣味とも合わず、やや落胆して帰った記憶があります。いきなり話が脱線しましたが、今日ご紹介するのはビル・エヴァンスが1967年8月に同クラブで行ったライヴの模様を記録したものです。エヴァンスとヴィレッジ・ヴァンガードと言えば、何と言っても1961年の「ワルツ・フォー・デビー」「サンデー・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード」の2枚がジャズ史上に残る名盤として有名ですが、本作もなかなかのクオリティですよ。メンバーはベースがエディ・ゴメス、ドラムがフィリー・ジョー・ジョーンズです。



収録曲は全15曲。うちスタンダード曲の“Polka Dots And Moonbeams”“Stella By Starlight”“On Green Dolphin Street”“Wrap Your Troubles In Drams”等半分以上の曲はそれ以前のスタジオ録音やライブ音源等で演奏済みです。もちろんそれらの曲も演奏そのものはとても水準の高いものですが、やはりこのアルバムならではの収録曲に注目したいところです。まずはアルバムタイトルにもなっている“California Here I Come”。もともとはアル・ジョルソンという1920年代の人気歌手の曲らしいですが、オリジナルをYouTubeで聞いたところ他愛もないポップソングです。それがエヴァンスの手にかかると、まるで魔法のようにリリカルなメロディの名曲に変貌するんですよね。アンドレ・プレヴィンが作曲してシナトラも歌った“You're Gonna Hear From Me”も原曲のメロディを残しつつも、まさにエヴァンス節としか言いようがないロマンチックな演奏に仕上がっています。他では有名スタンダードの“Gone With The Wind”、バート・バカラックのポップ曲“Alfie”、ジョニー・マンデル作の静謐なバラード“Emily”も上々の仕上がりです。また、エヴァンスは作曲者としても大変優れており、本作でも“Turn Out The Stars”“G Waltz”“Very Early”と3曲の自作曲を取り上げていますが、どれもエヴァンスならではの叙情性をたたえた美しい曲ばかりです。ゴメス&フィリー・ジョーのサポート陣もバラードでは寄り添うように、アップテンポの曲では迫力あるベースとドラミングでガンガンとエヴァンスのピアノを盛り立てます。全部で1時間を超える長尺のアルバムですが、曲良し演奏良しの大名盤と言ってよいでしょう。

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