本日はオルガン・ジャズを取り上げたいと思います。先日のジミー・スミス「ザ・チャンプ」の項でも解説しましたが、スミスの登場によりそれまでジャズの世界では日陰者扱いだったオルガンが俄然注目を浴び、各レーベルともスミスに次ぐ新たなオルガン奏者を探し始めます。動きが早かったのはプレスティッジの方で、ジョニー・ハモンド・スミス、ジャック・マクダフ、女流のシャーリー・スコットらと次々と契約。ソウル・ジャズ路線を確立していきます。一方のブルーノートはスミスという安定したドル箱収入があったせいか、しばらくは他のオルガン奏者とは契約せず。スミス以外で初めて契約したのがこのベビーフェイス・ウィレットです。ベビーフェイスと言うのはもちろんニックネームで、本名はローズヴェルト・ウィレット(これはこれでインパクトのある名前ですが・・・)と言い、シカゴでジャズやR&Bを演奏していました。1960年にニューヨークに出て来て、翌年1月にルー・ドナルドソンの「ヒア・ティス」、グラント・グリーンの「グランツ・ファースト・スタンド」に参加。同じ月に自身名義の「フェイス・トゥ・フェイス」、5月に本作「ストップ・アンド・リッスン」を録音します。と、ここまでは怒涛の勢いですが、ブルーノートでの活動はそこでプッツリと途切れ、その後はシカゴに戻ってアーゴ・レーベルから2枚の作品を出しただけで、1971年に37歳の短い生涯を終えます。一瞬の輝きだけを残してシーンから姿を消したウィレットですが、ブルーノートのオルガン・ジャズ路線の先鞭を付けたと言う点では確かな足跡を残したと言えるでしょう。彼に続いてジョン・パットン、フレディ・ローチ、ラリー・ヤング、ロニー・スミス、ルーベン・ウィルソンらが次々と登場し、60年代ポスト・バップ期のブルーノートを支える存在となります。
メンバーはウィレット(オルガン)、グラント・グリーン(ギター)、ベン・ディクソン(ドラム)から成るトリオです。名義上のリーダーが違うだけで「グランツ・ファースト・スタンド」と全く同一メンバーです。特にグリーンとは上記のブルーノート4作品全てで共演しており、完全に”ニコイチ”状態ですね。曲は全7曲で、ウィレットのオリジナルとスタンダードが半々ずつです。歌モノスタンダードは"Willow Weep For Me"と”At Last”の2曲で、特に後者が出色の出来です。”At Last”はもともとミュージカル・ナンバーでグレン・ミラーが好んで演奏していたそうですが、前年にR&B歌手のエタ・ジェイムズがヒットさせており、本アルバムの演奏もそちらを意識したようなソウルフルなバラード演奏です。ジャズ曲だとナット・アダレイのファンキーな”Work Song”、ベニー・ゴルソンの”Blues March”をほぼ丸パクリした”Soul Walk”もキャッチーな出来ですね。自作曲は3曲ですが、中では”Jumpin' Jupiter”が全編ノリノリのファンキー・ナンバーで楽しめます。演奏面ではリーダーであるウィレットのソウルフルなオルガンもさることながら、グラント・グリーンも同じぐらいの存在感を発揮しており、彼のホーンライクなギター・プレイも存分に味わえる1枚です。