ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

スリー・サウンズ/ムーズ

2024-07-06 12:43:51 | ジャズ(ピアノ)

本日はザ・スリー・サウンズです。ジーン・ハリス(ピアノ)、アンドリュー・シンプキンス(ベース)、ビル・ダウディ(ドラム)から成るトリオでブルーノートが誇る人気トリオでしたが、その割に日本のジャズファンの間では昔からあまり評価は高くありません。かくいう私はどうかと言うと、以前ルー・ドナルドソンの「LD+3」で書いたとおり、ジーン・ハリスのピアニストとしての技量は純粋に凄いと思いますが、一方で彼らの代表作である「イントロデューシング・ザ・スリー・サウンズ」や「ボトムズ・アップ!」あたりは選曲がややベタ過ぎてあまり評価していません。"O Sole Mio"や"Besame Mucho"なんかは聴いていて小っ恥ずかしくなるんですよね。

同じく彼らの代表作であるこの「ムーズ」も聴く前は正直あまり期待していなかったのですが、意外と悪くないぞ、むしろ良いかも?と思える内容です。ちなみにこのアルバム、ジャケットが気になりますよね。ブルーノートと言えばリード・マイルスが手掛けたダークトーンのシブいデザインのジャケットが有名ですが、そんな中では珍しいカラフルかつ妖艶なジャケットです。ブルーノートも60年代半ば以降は時代を反映したのかヒッピーな感じの美女ジャケが主流になりますが、本作が吹き込まれた1960年の時点では異例中の異例です。黒髪が艶やかなこの女性、ブルーノートで広報を務めていたルース・メイソンと言う人らしいです。アイク・ケベックの「ソウル・サンバ」(こちらは白黒ですが)も彼女とのこと。後にブルーノート社長のアルフレッド・ライオン夫人となる彼女ですが(結婚は1966年)、この時点で特別な関係にあったのでは?と想像しちゃいますよね。

肝心の内容ですが、前半3曲は有名スタンダード中心で良くも悪くもスリー・サウンズらしい内容。1曲目"Love For Sale"、3曲目"On Green Dolphin Street"とアレンジに工夫を凝らしたラウンジ風の演奏です。ただ、2曲目のエリントン・ナンバー”Things Ain't What They Used To Be"はジーン・ハリスのブルース・フィーリングが溢れ出ていてなかなか良いです。注目は4曲目以降で、歌モノではなく他のジャズマンのカバーが目白押しです。まずは4曲目の"Loose Walk"。またの名を”The Blues Walk"と言い、ブラウン&ローチ・クインテットの演奏で有名です。アップテンポの曲とあってジーン・ハリスのファンキーなピアノソロが炸裂します。続く”Li'l Darlin'"は一転してスローバラード。ニール・ヘフティがカウント・ベイシーの名盤「アトミック・ベイシー」のために書いた曲です。6曲目のエリントン・ナンバー”I'm Beginning To See The Light"は手拍子入りのノリノリノリのアレンジ。7曲目”Tammy's Breeze"はジーン・ハリスのオリジナルで、まるでアントニオ・カルロス・ジョビンが書いたかのようなボサノバ調の美しい曲です。アメリカのジャズマン達がこぞってボサノバを取り上げるのはこの数年後のことですが、まるでその先取りをしたような曲ですね。個人的には本作のベストトラックに押します。ラストの"Sandu"はクリフォード・ブラウン作で「スタディ・イン・ブラウン」に収録されていたバップナンバーです。以上、硬派ジャズファンからは無視されがちなスリー・サウンズですがたまに気分転換で聴くのも悪くないぞ、と思わせる1枚です。

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