本日は謎のピアニスト、ドド・マーマローサをご紹介します。本名はマイケル・マーマローサと言い、ピッツバーグ生まれのイタリア系アメリカ人らしいです。ドドとは変わった名前ですが、Wikipedia情報によると子供の頃に頭が大きく胴が短いところが絶滅した大型の鳥”ドードー”に似ているという理由で付けられたあだ名らしいです。いや、それってイジメちゃうん?と思ってしまいますが、そのまま芸名にしたということは意外と本人も気に入ってたのでしょうね・・・となるとカタカナ表記はドードー・マーマローサとすべきなのか?と言う疑問も湧きますが、ドドで進めましょう。
話が脱線しましたが、このドド・マーマローサ、CDで入手可能なリーダー作はおそらく本作のみという幻のピアニストなのですが、1940年代のビバップ期にはかなり活躍したらしいです。そう言われればチャーリー・パーカーの伝説のダイヤル・セッションのうち9曲に名を連ねています。"Moose The Mooche"や"Ornithology"のバックでピアノを弾いているのがドドですね。ただ、1950年代はほぼ活動しておらず、シーンから姿を消してしまいました。原因の一端はお決まりの麻薬のようですが、それだけではなく私生活でも離婚したりといろいろトラブルを抱えていたようですね。1960年代に入ると再び演奏活動を再開し、1961年5月にシカゴのレコード会社であるアーゴ・レコードに復帰作として吹き込まれたのがこの作品です。なお、リズムセクションはシカゴを拠点にしていたリチャード・エヴァンス(ベース)とマーシャル・トンプソン(ドラム)が務めています。
全10曲。アルバムはまずドドのオリジナル曲”Mellow Mood”で幕を開けます。タイトル通りまさにメロウな雰囲気を持ったミディアムテンポの曲で、まるでスタンダードのような魅力的なメロディです。こう言った事前知識のない作品は1曲目でつまずくと2曲目以降を聴く気が失せるのですが、摑みはがっちりですね。ちなみにドドのオリジナルはもう1曲あり、9曲目”Tracy's Blues"がそうですが、残念ながらこちらはあまり印象に残りません。
その他の8曲は全て歌モノスタンダード。"Cottage For Sale""Everything Happens To Me""On Green Dolphin Street""Why Do I Love You?""I Thought About You"と定番スタンダードがずらりと並びます。ある意味ベタな選曲で、演奏が平凡だとつまらない作品になりがちなところですが、ドドの抜群のテクニックに裏打ちされた見事な演奏のおかげで十分に聴き応えのある内容となっています。中でもおススメは"On Green Dolphin Street"で、ウィントン・ケリーやビル・エヴァンスの名演で知られるスタンダードを全く遜色のないクオリティで弾き切っています。普段あまり耳にしない"Me And My Shadow"や"You Call It Madness"と言った曲も良いです。これだけの実力を持ちながら、結局ドドはメジャーな存在にはなれず、シカゴでしばらく演奏活動を行った後、故郷のピッツバーグで決して幸福とは言えない余生を過ごしたそうです。ジャズの世界で身を立てるのは厳しいというのをあらためて痛感しますが、このアルバム自体は数年前にもCDで再発売されましたし、半世紀以上たった今も聴き継がれているのはジャズマンとしては幸せなことなのかもしれません。