アート・ペッパーについては本ブログでもたびたび取り上げてきました。ウェストコーストを代表する天才アルト奏者として高い評価を受けていたペッパーですが、麻薬中毒のため1950年代半ばに一度シーンから姿を消します。1956年に「ザ・リターン・オヴ・アート・ペッパー」でカムバックを果たし、その後は「モダン・アート」「ミーツ・ザ・リズム・セクション」等の代表作を次々と発表し、キャリアの全盛期を迎えますが、その栄光の日々も1960年に一旦ピリオドが打たれます。この年に再び麻薬所持の罪で捕まったペッパーは、その後10年以上にわたって引退同然の状態となります。厳密には1964年や1968年に散発的に復帰して録音も残しているようですが、本格的なカムバックは1975年の「リヴィング・レジェンド」まで待たないといけません。
今日ご紹介する「インテンシティ」は1960年11月にコンテンポラリー・レコードに吹き込まれた1枚で、長期休養前の最後の作品です。ただ、一説ではペッパーは既に入獄していて、仮釈放中に吹き込んだ作品とも言われています。ワンホーン・カルテットでリズムセクションはドロ・コーカー(ピアノ)、ジミー・ボンド(ベース)、フランク・バトラー(ドラム)。全員が当時西海岸でプレイしていた黒人ジャズマンですが、演奏の方は特に黒っぽいと言うことはなく、あくまで主役のペッパーをサポートする役割に徹しています。
全7曲、オリジナル曲は1曲もなく、全てが歌モノスタンダードと言う構成です。しかもそのうちオープニングトラックの"I Can't Believe That You're In Love With Me"や4曲目"Long Ago And Far Away"、7曲目”Too Close For Comfort"はオメガテープ盤「ジ・アート・オヴ・ペッパー」でも演奏されるなど、ペッパー自身何度も取り上げているお馴染みの曲です。それ以外もコール・ポーター”I Love You"はじめ”Come Rain Or Come Shine"”Gone With The Wind"と定番中の定番とも呼べるスタンダード曲がずらりと並んでおり、はっきり言って目新しさは一つもありません。ペッパーは本作の直前に「スマック・アップ」と言う作品を発表しており、そこではオーネット・コールマンの曲を取り上げるなど新たな姿勢を打ち出していたのですが、本作ではあえて原点に立ち戻ったのか、それとも麻薬でヘロヘロでオリジナル曲を作曲する余裕がなかったのか・・・
以上、下手をするとありきたりでつまらない内容になってもおかしくないところを、聴く者を納得させるクオリティに仕上げているのはさすがペッパーと言ったところです。この頃の彼は心身とも麻薬に蝕まれており、コンディション的にはベストとは程遠かったと思うのですが、それでも美しいトーンで閃きに満ちたアドリブを次々と繰り出す様は圧巻ですね。とりわけ高速テンポで仕上げた"Long Ago And Far Away"が出色の出来です。録音の少ないドロ・コーカーも随所でキラリと光るピアノソロを聴かせてくれます。ペッパーの代表作に挙げられることはまずない作品ですが、全盛期の最後の1枚として聴いておいて損はない1枚です。
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