以前「トゥー・ギターズ」のところでも述べましたが、50年代のプレスティッジには同一楽器の競演作がやたらめったらあります。ロリンズとコルトレーンの「テナー・マッドネス」、マクリーンとジョン・ジェンキンズの「アルト・マッドネス」等々です。テナーとアルトと来ればトランペットももちろんあり、それが今日ご紹介する「トゥー・トランペッツ」です。ジャケットはおそらくトランペットがデフォルメされて"2"と言う文字を表しているのでしょう。
競演するのはアート・ファーマーとドナルド・バード。録音は1956年8月3日に行われましたが、ファーマーはこの時点で「ホエン・ファーマー・メット・グライス」「イヴニング・イン・カサブランカ」等の傑作をプレスティッジに残し、同レーベルの看板トランぺッターの1人でした。後年もっぱらフリューゲルホルンを吹くようになり、演奏もソフトになりますがこの頃はバリバリのハードバッパーです。一方のドナルド・バードは前年にデトロイトから出てきたばかりですが、一躍トランペットのニュースターとしてあちこちのセッションに引っ張りだこになっていた頃です。年齢はファーマーが27歳、バード23歳ですのでキャリア的にも年齢的にもファーマーが先輩になりますが、演奏の方はまさにがっぷり四つという感じで、2人とも熱のこもった演奏を繰り広げます。メンバーはこの2人に加え、アルトのジャッキー・マクリーンが加わり、リズムセクションはバリー・ハリス(ピアノ)、ダグ・ワトキンス(ベース)、アート・テイラー(ドラム)。いずれ劣らぬビッグネーム揃いですが、彼らもこの時は全員20代。まさにプレスティッジが誇る若き俊英達によるオールスターセッションですね。
全5曲。1曲ずつ紹介しましょう。オープニングトラックはドナルド・バードが書いた"The Third"。この曲、ジャズ・メッセンジャーズのパシフィック・ジャズ盤に収録された"Little T"と同じ曲と思われますが、なぜか違うタイトルです。マイナーキーの香り高きハードバップで、まず作曲者のバードがソロを取り、マクリーン→ファーマー→ハリス→ワトキンスとソロをリレーします。2曲目はケニー・ドリュー作の名曲”Contour"。ジャッキー・マクリーンの「4、5&6」のバージョンが有名ですが、本作も負けず劣らずの名演です。この曲はファーマーが先発で、マクリーンを挟んでバード→ハリスと軽快にソロを回します。3曲目はスタンダードの”When Your Lover Has Gone"。この曲はバードもマクリーンも抜けて、ファーマーがワンホーンでじっくりバラードを聴かせます。
4曲目はマイルス・デイヴィスの名曲”Dig"。14分を超える大曲で個人的には本作のハイライトと思います。ソロ先発はバリー・ハリスで彼ならではの玉転がしタッチの軽快なピアノソロを披露し、続いてマクリーン→ワトキンスのベースソロ→テイラーのドラムソロが続きます。ようやくトランペットが登場するのは6分過ぎでここからファーマー→バードの順で2周にわたってエネルギッシュなソロの応酬を5分近くにわたって繰り広げます。一旦マクリーンの短いソロを挟みながら、再び最後まで両者の熾烈なトランペットバトルで盛り上げます。なかなか満腹感のある曲ですね。ラストはセロニアス・モンクの”'Round Midnight"。今度はバードがワンホーンでじっくり歌い上げます。トランぺッターの”'Round Midnight"と言えば誰もがマイルス・デイヴィスを思い浮かべますが、この演奏もなかなか良いと思います。この企画の評判が良かったのか、プレスティッジは翌年にこの2人にさらにイドリース・スリーマンを加えた「スリー・トランペッツ」を吹き込みます。こちらも充実した内容ですので、本作と合わせて聴くことをおススメします。
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