ジャズ界には兄弟プレイヤーはたくさんいます。ジョーンズ3兄弟(ハンク、サド、エルヴィン)、ヒース3兄弟(パーシー、ジミー、アルバート)、アダレイ兄弟(キャノンボール、ナット)、ブレッカー兄弟(ランディ、マイケル)が有名ですが、他にもまだまだいますよね。タレンタイン兄弟もそのうちの1組で、兄がトランぺッターのトミー、6歳下の弟がテナーのスタンリーです。ただ、この兄弟に関しては他の兄弟と違い、弟の方が圧倒的にメジャーですよね。60年代ブルーノートの顔と言っても良いスタンリーに対し、弟の方はサイドマンとしての録音はそれなりにあるものの、あくまで脇役的存在です。今日ご紹介する「トミー・タレンタイン」はそんな彼が残した最初にして最後のリーダー作です。発売元はタイム・レコード。1950年代末から60年代初頭にかけて短期間存在したマイナーレーベルですが、本ブログでも紹介したケニー・ドーハムの「ショウボート」「ジャズ・コンテンポラリー」、ソニー・クラークのトリオ盤等の通好みの作品が揃っており、侮れないレーベルです。
録音は1959年12月18日。メンバーは弟のスタンリー(テナー)、ジュリアン・プリースター(トロンボーン)、ホレス・パーラン(ピアノ)、ボブ・ボスウェル(ベース)、マックス・ローチ(ドラム)です。実はこのメンバーはパーランを除いて当時のマックス・ローチ・クインテットのメンバーそのものです。おそらくボスのローチがトミーのためにリーダーの名義を貸してあげたのではないでしょうか?なお、当時のローチ・クインテットは通常ピアノレスでしたので、タレンタイン兄弟と同じピッツバーグ出身のパーランが加わっています。パーランとタレンタイン兄弟は相当仲良しだったようで、ブルーノートにも共演作をいくつも残しています。(スタンリー・タレンタイン「カミン・ユア・ウェイ」、ホレス・パーラン「オン・ザ・スパー・オヴ・サ・モーメント」etc)
全7曲。歌モノスタンダードは1曲もなしの意欲的な構成です。1曲目は"Gunga Din"。一風変わったタイトルですが、昔のハリウッドの冒険映画でそう言う名前の作品があったようです。解説書ではタレンタインのオリジナルとされていますが、実はこの曲、1957年のフィル・ウッズ「ウォーム・ウッズ」で既に演奏されており、そこではジェリー・カミンスキーと言う人の作曲となっています。真の作者は誰なのか謎ですが、曲自体はマイナーキーの佳曲で、スタンリー→トミー→パーランと魅力的なソロをリレーします。2曲目”Webb City"はバド・パウエルが書いたバップチューン。アート・ペッパーも「ジ・アート・オヴ・ペッパー」で取り上げていた曲です。この曲からプリースターのトロンボーンも入った3管編成で軽快に料理していきます。後半にはローチのドラムソロもあります。
3曲目からは正真正銘トミーの自作曲が続きます。”Time's Up"”Long As You're Leaving"はどちらもマイナーキーのブルースですが少し地味な印象は拭えません。”Too Clean"がなかなかドライブ感溢れるハードバップと言う感じで良いですね。続く"Two, Three, One, Oh!"はいかにも即興で付けましたと言うようなタイトルですが、内容的には似たような感じです。最後の”Blues For J.P."はホレス・パーランの作曲。この曲はパーランのお気に入りで彼が参加したルー・ドナルドソン「サニー・サイド・アップ」やデイヴ・ベイリー「ゲッティン・イントゥ・サムシン」でも演奏されていますが、初出はおそらく本作です。youtubeでは意外なところでウディ・ハーマン・ビッグバンドの演奏も出てきましたが、それがまたカッコいい。なかなか魅力的なファンキーチューンです。
なお、タイム・レコードには翌月の1960年1月に弟のスタンリーもデビュー作「ザ・マン」を吹き込みますが、それがアルフレッド・ライオンの目に留まったのか、その後間を置かずしてスタンリーはブルーノートと契約。デビュー作「ルック・アウト」を皮切りに「ブルー・アワー」「アップ・アット・ミントンズ」と凄まじい勢いでリーダー作を発表し、一躍ブルーノートの看板スターとなります。一方、兄のトミーはその後ついにリーダー作の機会は回って来ず。ただし、サイドマンとしての彼は弟スタンリーとたびたび共演するだけでなく、ジャッキー・マクリーン「ア・フィックル・ソーナンス」、ソニー・クラーク「リーピン・アンド・ローピン」、ルー・ドナルドソン「ザ・ナチュラル・ソウル」等で魅力的なトランペットを聴かせてくれます。スターにはなれませんでしたが、名バイプレイヤーとして確かな足跡を残したと言って良いでしょう。
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