ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ドナルド・バード/オフ・トゥ・ザ・レイシズ

2025-02-03 19:09:24 | ジャズ(ハードバップ)

本日はドナルド・バードの記念すべきブルーノート第1作「オフ・トゥ・ザ・レイシズ」をご紹介します。バードについては先日「バード・イン・パリ」で述べたように、デビューしてから数年は主にサイドマンとしての活動で多忙を極めていました。ブルーノートとも関係は深く、1956年と57年の2年間だけでポール・チェンバース「ウィムズ・オヴ・チェンバース」「ポール・チェンバース・クインテット」、ホレス・シルヴァー「シックス・ピーシズ・オヴ・シルヴァー」、「ソニー・ロリンズVol.1」、ルー・ドナルドソン「ウェイリング・ウィズ・ルー」「ルー・テイクス・オフ」、ハンク・モブレー「ハンク」、ソニー・クラーク「ソニーズ・クリブ」等に参加し、時には主役を食うほどの素晴らしいトランペットを聴かせてくれます。これほど重宝されていたのにリーダー作が1枚もなかったのは不思議ですが、この頃のバードはとにかく多忙で、プレスティッジやサヴォイ、リヴァーサイド等レーベルを問わずあちこちのセッションに顔を出していましたので、一つ所に腰を落ち着けるよりフリーランスで活動することを本人が選んでいたのかもしれません。

ただ、そんなバードも1958年にブルーノートと専属契約を締結。12月21日録音の本作を皮切りに60年代から70年代にかけて合計25枚ものリーダー作を同レーベルから発表します。反面、他レーベルでの録音やサイドマンとしての活動は相対的に減っていきますので、ある意味ブルーノートで"身を固めた"と言う表現がピッタリくるかもしれません。

本作のメンバーはまず白人バリトンサックス奏者のペッパー・アダムス。バードとはデトロイト時代からの盟友で、ブルーノート含め多くの作品で共演しています。一方、他レーベルのアダムス名義の作品にはバードがサイドマンとして参加していますので、実質は2人の双頭コンボだったと言って良いでしょう。本作にはさらにアルトのジャッキー・マクリーンも参加。バードとマクリーンもジョージ・ウォーリントン・クインテット時代からの旧知の仲ですね。リズムセクションはウィントン・ケリー(ピアノ)、サム・ジョーンズ(ベース)、アート・テイラー(ドラム)。バードのブルーノート初リーダー作にふさわしい豪華メンバーが名を連ねています。

全6曲。うち4曲がバードのオリジナル、残りが歌モノとバップスタンダードが1曲ずつです。オープニングは有名スタンダードの"Lover, Come Back To Me"。日本でも"ラバカン"の愛称で親しまれる超定番曲をバードらは高速テンポで料理します。高らかに鳴り響くバードのトランペット、重低音をブリブリ吹き鳴らすアダムスのバリトン、いつもながらの独特のマクリーン節を聴かせるマクリーン、そして彼らを後ろから煽り立てるウィントン・ケリー・トリオ。これぞブルーノート・ハードバップとでも言うべき名演ですね。

続く2曲目ですが、私の持っている日本版CDの解説書にはアイナー・アーロン・スワン作曲のスタンダード”When Your Lover Has Gone"と記載されています。この曲も有名なスタンダード曲なんですが、う~ん、どう考えてもメロディが全然違いますよね?おっかしいなあと思って原文のライナーノーツを読むとLoverではなくてLoveで、バード自身が作曲した"When Your Love Has Gone"と書いてあります。解説書いた人しっかりしろよ!と言いたくなりますね(ちなみにWikipediaも全く同じ間違いをしています)。なお、曲自体は哀愁漂うバラードで、バードがワンホーンで吹いています。3曲目は”Sudwest Funk"で、バード自作のファンキーチューン。sudwestとはフランス語でsouthwestの意味です。バードは翌年にファンキー色の強い「フエゴ」を発表しますので、その前触れかな?

B面1曲目はソニー・ロリンズの名曲"Paul's Pal"。バードは「バード・イン・パリ」でもこの曲を演奏していたのでお気に入りだったんでしょうね。演奏も素晴らしく、特にバードとケリーが最高です。続くタイトルトラックの”Off To The Races"も「バード・イン・パリ」収録曲で、そこでは”At This Time”と言う曲名でした。同じ58年発表のペッパー・アダムス「10・トゥ・4・アット・ザ・ファイヴ・スポット」では”The Long Two/Four"と言う曲名になっていますが、全て同じ曲です。マーチ風のファンキーチューンでアート・テイラーのドラムが重要な役割を果たしています。ラストは再びコテコテのファンキージャズ”Down Tempo"で締めくくり。以上、バードの栄光のブルーノート時代の幕開けを飾るにふさわしい充実の1枚です。


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