図書館から借りていた、葉室麟著 「山桜記(やまざくらき)」(文藝春秋)を読み終えた。本書には、戦国時代、江戸時代の女性、夫婦の旧来の像に、著者独自の新鮮な解釈を投げかけた、「汐の恋文」「氷雨降る」「花の陰」「ぎんぎんじょ」「くのないように」「牡丹咲くころ」「天草の賦」の、「オール読物」に掲載された、7篇の短編時代小説が収録されている。
読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう老脳。
読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも、
その都度、備忘録として、ブログ・カテゴリー「読書記」に、書き留め置くことにしている。
「汐の恋文」
▢主な登場人物
瀬川采女・菊子、
豊臣秀吉・広子(広沢局)、山中山城守長俊、
梅北国謙・爽子、
▢あらすじ等
豊臣秀吉による朝鮮征伐の前半・文禄の頃、一通の文箱が博多の津に打ち上げられ、
秀吉の許に届けられたが、中の手紙は朝鮮半島に渡った夫瀬川采女を思う妻菊子のものだった。
興味を持った秀吉は、菊子を名護屋城に呼び出し、采女を帰国させ、あわや・・・・、
「氷雨降る」
▢主な登場人物
有馬晴信・ジュスタ、
岡本喜八、徳川家康、
▢あらすじ等
京の公家中山親綱の娘(キリシタンで洗礼名ジュスタ)娘が、島原半島に四万石を領する
有馬晴信(キリシタンで洗礼名ドン・ジョアン)のもとに腰入れするが、関ケ原の合戦後、
領地問題に巻き込まれ、有馬家存続のために右往左往する晴信とジュスタの間には、
大きな溝が生じ・・・、
「大御所様はわたしのことを愚か者だと笑われたそうであるが、まことにそうだな」
「まことに愚かでありましたのは、殿のお心を慮ることなく、デウス様の御名ばかり口に
していたわたくしかもしれません」
「上意である」
有馬晴信は遺書を書き終え、行水して身を清め、処刑の場に臨んだ。
ジュスタは、髪を剪り、二人の娘とともに実家の中山家に戻り、幕府がキリシタン迫害を
強める中、宣教師達に潜む場所を与える等尽力した。
「花の陰」
▢主な登場人物
細川忠隆(休無)・千世(ちよ)、
細川忠興・玉子(ガラシャ)、
前田利長、芳春院(まつ)、村井又兵衛・長次、
▢あらすじ等
関ヶ原の戦の前、大坂方の人質になるのを拒み、辞世の和歌「ちりぬべき 時知りてこそ
世の中は 花も花なれ人も人なれ」を残し、火を放って果てた細川忠興の妻玉子(ガラシャ)、
その嫁である嫡男忠隆の妻千世は、ガラシャと死を共にせず生き残る。
細川忠興は、忠隆に、千世との離縁を迫ったが、忠隆はそれに背き、廃嫡されてしまう。
その忠隆と、千世の生き様を描いている。
千世は、加賀前田利家の七女、母は芳春院(まつ)。
「ぎんぎんじょ」
▢主な登場人物
鍋島信昌(鍋島直茂)・彦鶴(ひこつる、石井大輔常延の娘)・千鶴、
鍋島清房・慶誾尼(けいぎんに、竜禅寺隆信の生母)、竜禅寺隆信、大友宗麟、
▢あらすじ等
肥前の大名鍋島直茂の継母、慶誾尼が死去し、末期を看取った直茂の正室、彦鶴に、
黒漆塗りの文箱が遺された。中には一通の書状が入っており、
「誾慶誾如也(ぎんぎんじょなり)」と書かれており・・。
「慶誾尼様、わたしはできの悪い嫁でございましたなあ」
九州で、島津家、大友家、竜禅寺家が覇権を争っていた時代、
名護屋城の豊臣秀吉から呼び出された彦鶴は・・・、
竜禅寺家と鍋島家の存亡が絡み合い・・・、
「くのないように」
▢主な登場人物
加藤清正・かな(清浄院)・八十姫(やそひめ)、
徳川頼宣(徳川家康の十男)、安藤直次、
松平伊豆守信綱、由比正雪、丸橋忠弥、
▢あらすじ等
加藤清正とかなの娘、八十姫は、駿府城主徳川頼宣に嫁ぐが、輿入れ道具の中に、
父親清正が愛用した、片鎌槍が入っており?、
「母上、これは・・・」
八と十の間の九がないということで「八十(やそ)」、「苦のない生涯がおくれるように」と
いう願いが込められていた「八十姫」だったが・・・。
「わたしは、どうすればいいのだろう」
頼宜は、紀伊和歌山に55万5千石となり、大国の大名夫婦となったが・・・、
由比正雪、丸橋忠弥に関わり、謀反の嫌疑がかかり窮地に陥る。
幕閣の詮議を撥ねつけた頼信、八十姫の間には子宝が恵まれかったが、
八十姫は、側室が生んだ光貞の継母として養育、その光貞の四男が、
のちに八代将軍徳川吉宗となる。
「牡丹咲くころ」
▢主な登場人物
立花鑑虎(あきとら)、立花宗茂・立花忠茂、
立花忠茂(好雪)・鍋姫(貞照院)
伊達政宗・伊達忠宗、伊達綱宗、伊達兵部宗勝、
原田甲斐(宗輔)
酒井忠清(老中)
▢あらすじ等
仙台藩62万石伊達政宗の孫娘、鍋姫が、家格の低い柳川藩11万石藩主立花忠茂に嫁ぐ画策を
した男がいた。その深い理由は?、
後に「伊達騒動」が起き、義を貫いた、原田甲斐、立花忠之、
「花の美しさを守ろうとする人の心を、花は知らずともよいのではないか」
穏やかな笑みを浮かべて、忠茂はやさしく声をかけた。貞照は静かに目を閉じた。
「天草の賦」
▢主な登場人物
黒田忠之・浦姫、
黒田直之、夏野、万
黒田美作、
倉十太夫、
益田四郎時貞(天草四郎)、益田甚兵衛、
松平伊豆守信綱、
▢あらすじ等
寛永14年(1637年)、肥前島原と肥後天草で、過酷な年貢取り立てに苦しむ農民、
禁教令により弾圧されるキリシタン、取り潰し等で主家を失った浪人等、
およそ2万8千人が蜂起した。島原の乱である。
黒田藩主黒田忠之は、一揆鎮圧は、5年前の「黒田騒動」の汚名返上のチャンスとばかり、
在勤中の江戸から、現地に馳せ参じるが・・・・。
そこに、「陣借り」と称して、倉十太夫と、天草四郎の命を救おうとする若い女、万が
現れ・・、果たして・・・、