映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

パリ・ブレスト 夢をかなえたスイーツ

2024年12月13日 | 映画(は行)

逆境からの・・・

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22歳でパティスリー世界選手権チャンピオンの座を仕留めた
天才パティシエ、ヤジッド・イシェムラエンの自伝をもとにしています。

母親に育児放棄され、過酷な環境で暮らすアラブ系の少年、ヤジッド。
でも幸いによい里親に巡り会うことができました。
里親の家で団らんしながら、手作りのスイーツを食べることが唯一の楽しみ。
いつしか自分も最高のパティシエになろうと夢見ます。

やがて児童養護施設で暮らし始めたヤジッドは、
パリの高級レストランで見習いとして雇ってもらうことができました。
田舎町エペルネから180キロ離れたパリへ通い始めます。
時には野宿で夜を明かすことも。
そうではありますが、厳しくも愛ある先輩と心許せる仲間もいて、
充実した日々送るヤジッド。
しかし、彼に嫉妬した同僚の策略により、仕事を失ってしまうのです・・・。

フランス作品では、移民系の人物が底辺近くの暮らしから這い上がる
という話はとても多いです。
つまりは、そうした格差や差別が依然としてあって、
なかなか解消には至らないということの裏返しなのでしょう。

そんな中で本作は実話をもとにしているということで、力があります。
一流のパティシエを目指すという物語なら多くあるけれど、
逆境の環境からのスタートというのが又大変さを増します。
よほどの奇跡かもしくは才能がなければならない・・・。

最終の世界大会のシーン、ヤジッドは氷像担当。
つまり、氷を削って造形。
お菓子作りと関係ないじゃん、とつい私は思ってしまいましたが、
手先の器用さと造形センスは、
お菓子作りの重要なスキルであることは確かですものね・・・。
まあその味覚センスも、もちろん保証済みではあります。

次第に見ているだけでは物足りなくなって、
ひたすら食べてみたいなあ・・・と思わせられる、魅惑のスイーツの数々でした!!

<WOWOW視聴にて>

「パリ・ブレスト 夢をかなえたスイーツ」

2023年/フランス/110分

監督:セバスチャン・テュラール

原作:ヤジッド・イシェムラエン

出演:リアド・ベライシュ、ルブナ・アビダル、フェニックス・ブロサール、エスティバン、
   クリスティーヌ・シテイ、パスカル・レジティミュス

魅惑のスイーツ度★★★★☆

這い上がり度★★★★☆

満足度★★★.5


「大江戸綺譚 時代小説傑作選」ちくま文庫

2024年12月11日 | 本(その他)

闇深き江戸の町

 

 

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闇深き江戸の町に現われる、鬼、あやかし、怪異
――妖しくも切なく美しい、豪華時代ホラー・アンソロジー。 

嫁いだ先のお店の離れに潜む何かの気配。
義母から打ち明けられた恐ろしくも切ない秘密とは──(「安達家の鬼」)。

豆腐作りに精を出すお由の前に現れ、日々つけ回してくる見知らぬ老爺。
しかし男はお由をよく知っているという──(「お柄杓」)。

江戸の漆黒の闇を舞台に、名手たちによって浮かび上がるのは人間の悲しき性。
名アンソロジストによる選りすぐりの7編。

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時代小説、しかも名手による怪異を描いたアンソロジー、なかなか洒落た企画です。
宮部みゆきさんのように怪異を描く名シリーズを持つ方もいるように、
古の時代と怪異譚はとても相性が良い。
電気もない時代では、今よりもうんと闇が濃くて、
怪しげなモノたちは私たちのすぐ身近にいたのでしょうね。
本巻は、私の好きな作家さんも多くて、迷わず手に取りました。

収録されているのは・・・

木内昇  「お柄杓」

木下昌輝 「肉ノ人」

杉本苑子 「鶴屋南北の死」

都筑道夫 「暗闇坂心中」

中島要  「かくれ鬼」

皆川博子 「小平次」

宮部みゆき「安達家の鬼」

 

木下昌輝 「肉ノ人」

なんとなんと、新選組の沖田総司登場!! 
人魚の肉を食べてしまったために、沖田総司の身の上に異変が起こります。
人の血肉を欲してしまうという、言ってみればバンパイアに・・・! 
こんな新選組、見たことない。
あせります。
でも史実に沿いながら、沖田総司の最期につながっていくというのはさすがであります。

 

杉本苑子 「鶴屋南北の死」、皆川博子 「小平次」

どちらも、怪異の舞台の話が関係しています。
と来れば、やはり鶴屋南北なんですね。
江戸の怪異譚となれば、外せない。
私は先日見た「八犬伝」の映画に出てきた鶴屋南北が忘れられません。

 

ラストはやっぱり、
宮部みゆきさん「安達家の鬼」

ここに出てくる「鬼」は、恐ろしくはなくて、何やら切ないのです。
こんなあやかしを描けるのはさすがに宮部みゆきさん。
人の方が、よほど恐ろしい・・・。


「大江戸綺譚 時代小説傑作選」ちくま文庫

満足度★★★★☆


侍タイムスリッパー

2024年12月09日 | 映画(さ行)

時を超えて、ここにいる意味

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2024年8月、当初一館のみで封切りされた本作。
東映京都撮影所の特別協力のもと撮影されたという自主制作作品です。
その後、口コミで話題が広まり上演館が増加していきまして、
興味はあったけれどもタイミングが合わずに見逃してしまっていた私も、
やっと見ることができました。

会津藩士、高坂新左衛門(山口馬木也)は、家老から長州藩士を討つよう密命を受け、
標的の男と刃を交えた瞬間、落雷によって気を失ってしまいます。

目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所。
周囲は江戸時代の服装をした人ばかりなので、
新左衛門はしばらくこの異変に気づきません。

が、さすがにここは自分が元いた世界とはまるで異なることに気づきます。
江戸幕府は140年前に滅んだことを知って、愕然とし、
どうして良いのか分らなくなってしまう新左衛門。

でも、心優しい人たちに助けられ、生きる気力を取り戻していきます。
そして自らの磨き上げた剣の腕を頼りに、撮影所で斬られ役として生きていくことに。

そして順調に進み始めた新左衛門の新たな人生。
そんな時、彼に思わぬ出会いが訪れます。

 

さて、新左衛門と同時に落雷に討たれた長州藩士はどうなったのか、
そんなところも本作の重要なポイントです。

また、新左衛門が消えた後に、
故郷会津藩がたどった悲惨な運命を知ったときの彼の心境。

まったく偶然に起こったタイムスリップではありますが、
自分が時を超えてこんなところで生きている意味をも探ることになる新左衛門。

現代の撮影所近辺の人々が、ほのぼのと新左衛門を受け入れてくれるところが救いでもあります。
新左衛門は記憶喪失になってしまった、というテイでこの地に住み着いているのです。

特別にタイムスリップなどというSFになじみのない方でも、
すんなり受け入れられるストーリーだと思います。

ラストの緊迫感もよし。

映画は予算をかければよいというモノでもないのがよく分ります。

時代劇は今、確かに斜陽かもしれないけれど、
人の心の有り様は今も昔も変わらないので、
きっとまた一回りして、流行るときが来るのではないかな? 
月9で時代劇ラブストーリーなんていかが・・・?
あ、すでに今年の大河ドラマは平安ラブストーリーだったな。

<サツゲキにて>

「侍タイムスリッパー」

2024年/日本/131分

監督・脚本:安田淳一

出演:山口馬木也、冨塚ノリマサ、沙倉ゆうの、峰蘭太郎

武士の生き様度★★★★☆

満足度★★★★★


アネット

2024年12月07日 | 映画(あ行)

愛か、狂気か

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ロック・オペラ・ミュージカル(?)
兄弟バンド、スパークスが執筆したオリジナルストーリーをベースにしているとのこと。

それがもう、斬新でユニークで衝撃的って、
うーん、うまい表現が見つかりませんが、とにかく、
映画表現の世界もここまで来たかという、一見の価値がある作品。

スタンダップコメディアンのヘンリー(アダム・ドライバー)と
一流オペラ歌手のアン(マリオン・コティヤール)が出会い、恋に落ちます。
そして間もなく2人の間に女の子・アネットが誕生。
幸せいっぱいのはずなのですが、ヘンリーは愛に閉じ込められているように感じ始める。

ヘンリーのトークショーはあまりにも話が過激で乱暴なために客が離れていき、
一方アンの人気はますます上昇。
次第にすれ違う心を埋めるかのように、船の旅に出た家族ですが、
ある嵐の夜に事件が・・・。

大波に翻弄される雨で濡れた船の甲板で、
狂ったように踊る男女のシーンはなんとも危うく恐ろしく、印象的でした。

まだ赤子のうちに母を亡くしてしまったアネット。
しかし、そのアネットに奇跡が。
なんと美しい声で歌い始めたのです・・・!

 

実は、生まれたときからアネットは「人形」のすがたで描かれているのです。
なんの予習もなしで見始めたので、ここのところでまず驚きました。
もちろん登場人物たちには、生身の赤ん坊に見えているのです。
でも最後まで見て行くとその意味が分ります。

赤ん坊であるのに、歌をうたう。
その並みではない奇跡の子どもを表わしているということもあるのでしょうけれど、
それよりもアネットは、ヘンリーの思いのままに使われる「操り人形」
という意味を含んでいると思われます。

ヘンリーはお金儲けのためにアネットを歌わせ、興行で大もうけをするのです・・・。

そんなアネットが、終盤に父ヘンリーを断罪するときにのみ、
生身の人間の姿となります。
この時に初めてアネットは己の意志を強く持つということ。
それまでは、父の操り人形であったというわけで・・・。

ファンタジーであるような、寓話であるような・・・、
そう、怪談でもあるかな。
けれどとても現実的でもあります。

恐るべし。
映画の新たな可能性を見たような気がしました。

ほんの少しですが、古舘寬治さんや水原希子さんが出てきたのも嬉しかった!

 

<Amazon prime videoにて>

「アネット」

2020年/フランス・ドイツ・ベルギー・日本・メキシコ/140分

監督:レオス・カラックス

脚本:ロン・マエル

出演:アダム・ドライバー、マリオン・コティヤール、サイモン・ヘルバーク、
   デビン・マクダウェル、古舘寬治、水原希子

音楽性★★★★☆

ミラクル度★★★★☆

満足度★★★★★


奇跡をつむぐ夜

2024年12月06日 | 映画(か行)

お節介な善意は、自分のためでもある

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実話をもとにしています。

ケンタッキーの小さな町で暮らすシャロン(ヒラリー・スワンク)。
離婚後ひとり息子を育てていたものの、うまく愛することができず、
今はほとんど音信不通。
美容師の仕事をしながら、ままにならない人生を悔やみ、
アルコール依存症となっています。
そんな彼女が新聞のある記事に注意をひかれます。

5歳の少女が母親を亡くし、そして肝移植が必要な病と闘っている、という。

その父、エド(アラン・リッチソン)は妻を亡くし、
娘2人を育てて行かなければならず、
しかも下の娘は肝移植をしなければ残りわずかな命といわれている。
今のままでも治療費は払えず、借金が膨らむばかり・・・
という悲惨な状態にあるのでした。

シャロンは、ほとんど押し売りのように、エドの元を訪ねて援助を申し出ます。
シャロンのために募金をし、エドの債務の整理をしようとする。
エドは、人からの施しなど受けたくないと思うタイプの人で、
シャロンの申し出をことわっていたのですが、
しかし、このままではどうにもならないことも事実。
シャロンの強引さにも負けて、受け入れていきます。

さてしかし、あまりにもエド一家への助力にのめり込んでいくシャロンに、
彼女の友人が言いますね。
「その行為自体が、依存なんじゃないの?」と。
うまく息子を愛せなかったから、代わりにシャロンを愛したい、助けたいと思う。
誰かの役にたって、人から必要な人間だと思われたい・・・。
彼女の今の状態はアルコール依存と根っこは同じなのかも知れません。

でも、アルコール依存はなんの役にも立たないけれど、
この度のことは確実にエド一家への助力にはなる。
今さら止められないのです。

そんなある日、ようやく肝移植のドナーがみつかって、
至急病院のある地までいかなければならない。
しかしよりにもよってケンタッキーに吹雪が・・・。
さて、どうなる・・・?

本作の感動は、シャロンのお節介すぎる善意のことはもちろんあるのですが、
それ以上に、地域の人や様々な人に波及していく善意の輪にあるわけで・・・。
事実にもとにしていると聞けば、実際泣いてしまいます。

感動作でした。

 

<Amazon prime videoにて>

「奇跡をつむぐ夜」

2024年/アメリカ/116分

監督:ジョン・ガン

出演:ヒラリー・スワンク、アラン・リッチソン、ナンシー・トラビス、
   タマラ・ジョーンズ、エイミー・アッカー

お節介度★★★★★

満足度★★★★☆