映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ネイビーシールズ 空港占拠

2025年02月14日 | 映画(な行)

孤軍奮闘

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空港占拠。
何やら他のドラマでも見たことがあるけれど、
ちょっと心惹かれるテーマではあります。

 

ポーランドのアメリカ秘密軍事施設が、テロリスト襲撃により壊滅的な被害を受けます。
ネイビーシールズ(米海軍の特殊部隊)のジェイク・ハリス大尉は、
テロの嫌疑がかかるアミン・マンスールをワシントンDCまで移送する任務に就きます。
ハリスは多くの部下をこの度失っていました。

さて、ハリスがマンスールを伴い空港に到着すると、
元米国軍人のジャクソン率いる武装集団が空港を占拠し、
マンスールの奪取を図ります。
マンスールだけが凶悪な爆弾を入れたコンテナの番号を知っているのです。

ハリスはテロを防ぐため、マンスールとその身重の妻を守り、



孤軍奮闘することに。

ヒーローの孤軍奮闘。
周囲は凶悪な敵ばかり。
どう考えても突破できそうにないけれど、突破してしまうのがドラマのいいところ。
ここではこちらの情報が、敵方に筒抜け。
誰かが裏切って情報を流しているのだとしか思えません。
果たして裏切り者は誰なのか、そこも見所です。

ハリスは部下をほとんど殺されてしまったという憤りを感じていて、
通常よりも怒り丸出し。
過度に凶暴なのがちょっと気になるところ。

この死屍累々の空港の後始末はどうするのよ・・・などと、下世話な心配までしてしまう。
こういうドラマの、常のことではありますが。

<Amazon prime videoにて>

「ネイビーシールズ 空港占拠」

2024年/アメリカ/103分

監督:ジェームズ・ナン

出演:スコット・アドキンス、マイケル・ジェイ・ホワイト、アレフシス・ナップ、トム・ベレンジャー

満足度★★.5


ファーストキス

2025年02月12日 | 映画(は行)

運命は変えられるのか

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硯駈(すずりかける)(松村北斗)と、硯カンナ(松たか子)は、
ラブラブの時期を経て結婚しました。
それから15年。
倦怠期に突入し、互いへの関心も薄れて、離婚寸前。
そんなある日、夫・駈が事故で亡くなってしまいます。
どちらにしても別れるはずだったとは思うものの、
気持ちの持って行き場のないカンナ。

そんなある時、カンナは15年前へタイムスリップ。
それは若き日の駈と自分が初めて出会う日。
夜2人が初対面するその直前。
40代カンナは20代駈と対面することになります。
若き日の駆への思いをよみがえらせるカンナ。
そして、15年後に起こる事故から駈を救うことを決意します!

作中のタイムスリップは、現在から15年前の特定の場所、特定の1日にしか行くことができません。
が、繰り返し行くことができるのです。
だから、カンナは必死に何度も何度もやり直し、トライ。
でも現在に戻るとやはりそこには夫の遺影が待ち受けている。
つまり、カンナの試みは失敗。

何度も若き駈と出会うことで、ますます駈を好きになって、
決してあんな事故で死なせてはならないと思うカンナ。

若き駈にとっては、40代のカンナは「おばちゃん」であってもおかしくないのですが、
どうも駈にとっても憎からず感じてしまうものらしい。
そりゃあね、松たか子さんだから、恋愛対象として、ぜんぜんアリですよ!!

カンナは、ついには駈が自分と結婚したのがそもそも間違いだったのではと思い、
大学教授の娘(吉岡里帆)を、駈に勧めたりもするのですが・・・。

なんというか、キュンとさせるところ、ホロリとさせるところ、
さすが坂元裕二さんはツボを良く心得ていらっしゃる。
最後の駈の決断は、まさに涙・・・涙・・・。

かき氷屋さんの行列の後ろにいた女子たちがナイスでした!!

ラブラブの結婚でも、その状態を保っていくことがいかに難しいか・・・
というのも、ほとんど冷や汗もので身にしみます・・・。

タイムスリップという現実離れした出来事を扱いながらも、描き出されるのはやはり人の心。
これぞドラマですよね。

いつも思うのです。
松村北斗くんはいい作品に当たるなあ・・・。
あ、でも今期のTVドラマはあまり良くない・・・
(演技じゃなくて、脚本が)。

<シネマフロンティアにて>

「ファーストキス」

2025年/日本/124分

監督:塚原あゆ子

脚本:坂元裕二

出演:松たか子、松村北斗、吉岡里帆、森七菜、リリー・フランキー

恋愛度★★★★☆

根性度★★★★★

満足度★★★★★


「冬に子供が生まれる」佐藤正午

2025年02月10日 | 本(その他)

読み解くジグソーパズル

 

 

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その年の七月、丸田君はスマホに奇妙なメッセージを受け取った。
現実に起こりうるはずのない言い掛かりのような予言で、彼にはまったく身におぼえがなかった。
送信者名は不明、090から始まる電話番号だけが表示されている。
彼が目にしたのはこんな一文だった。

今年の冬、彼女はおまえの子供を産む

これは未来の予言。起こりうるはずのない未来の予言。
だがこれは、まったく身におぼえのない予言とは言い切れないかもしれない。
これまで三十八年の人生の、どの時代かの場面に、「彼女」と呼ぶにふさわしい人物がいるのかもしれない。
そもそも、だれが何の目的でこの予言めいたメッセージを送ってきたのか。
丸田君は、過去の記憶の断片がむこうから迫ってくるのを感じていた──。


『月の満ち欠け』から七年、かつてない感情に心が打ち震える新たな代表作が誕生。
読む者の人生までもさらけ出される、究極の直木賞受賞第一作!

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その年の7月。
丸田くんはスマホに奇妙なメッセージを受け取ります。

「今年の冬、彼女はおまえの子供を産む」

いかにも唐突なその内容。
丸田くんはまったくそんなことは身に覚えがないし、
第一このメッセージを送ってきた人物が誰なのかも分からない・・・。

 

こんな不思議な出来事から始まる本作。
私は読みながら、まるでジグソーパズルみたいな小説だなあ・・・と思いました。

それぞれの章立てで語られる内容は、時間や場所、登場人物がバラバラ。
だから私たちは、それぞれの章が、全体のどの部分に当たるのか、考えなければなりません。
いや、そもそも全体像が分かっていないので、どの部分という見当も付けにくいのです。
そしてまた、それぞれのピースがよく似ている。

マルセイとマルユウ、そして佐渡くんという幼馴染みの3人の男性が登場します。
特にマルセイとマルユウは「丸田」という名字が同じで、雰囲気もよく似ている。
彼らの共通の友人は、長じた後、どちらがマルセイで、どちらかがマルユウだったのかも
分からなくなってしまっているくらい。

様々な章立ての中で、ただ「丸田くん」と書かれている部分もあって、
注意深く読んでいけば正解は分かるようになっているのですが、
まことに紛らわしい。
けれど、この紛らわしさこそがこの作品のキモなのであります。

 

実は彼ら3人は小学生時代に一つの不可思議な体験をします。
そしてまたその関連で高校生の時に山道で事故に遭う。
それが不思議な人生をたどる元となるのですが・・・。

そして、もうひとりの重要人物は、これもまた彼らと幼馴染みの女性・杉森真秀。
彼女と彼女の母は、野球少年だったマルユウのことが大好きで応援していたのですが、
あの事故以来、マルユウとの交流もほとんど途絶えてしまい・・・。

そう、この真秀こそが「子供を産む」人物なのですが、
詰まるところその子供の父親は一体誰なのか・・・?
考えていかなくてはならない物語。

 

本作で起こる出来事は、現実離れしてはいるのですが、
そのことによる人の心の有り様はリアルに複雑。

ジグソーパズルは最後に一枚の絵として完成はしますが、
その一部のピースは依然としてかすれているかモザイクがかかっているかで、
よく分からないところも多いのです。

でも、すごく納得できて感慨にふけってしまう・・・。

 

著者の前作「月の満ち欠け」も同様の作りでしたが、
私は「月の・・・」が巻き起こす出来事より本作の方が好きです。

 

<図書館蔵書にて>

「冬に子供が生まれる」佐藤正午 小学館

満足度★★★★.5


ナイトスイム

2025年02月08日 | 映画(な行)

何者かが潜む、水中のさらなる深淵

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難病に冒され、早期引退を余儀なくされた元メジャーリーカーのレイ・ウォーラー。
それでもまだ現役復帰の夢をあきらめきれません。

そんな時、水泳が理学療法によいと聞き、中古のプール付き物件を購入。
妻イブ、娘イジー、息子エリオットとともに越してきます。
庭にあるプールは、なぜか15年も使われていなかったようなのですが、
手入れして水を満たし、美しく整います。

しかし、妻や子どもたちは、なにか得体の知れない恐怖をそのプールで感じるようになります。

このプール、水道水ではなく、天然の湧き水で満たされるようになっている
というところがミソなんですね。
地中の奥深くと通じている。
その奥深くに潜む何者かは、通常のホラーに登場するただ「害」をなすものではなくて、
ギブアンドテイクなのです。

何かを強く望む者の欲望に寄り添って、
その代わりに周囲の人物の命を奪う・・・。

この場合、何が何でも元の健康を取り戻したいというレイの欲望が満たされる代わりに、
家族の命を差し出さなければならない・・・ということで。

父親が、自分の子どもの命を犠牲に自身の欲望を満たそうとするなどあり得ない、
と思うのですが、まあつまりその時には、
彼の精神もほとんどその魔物に操られているというわけ・・・。

メジャーリーガーとして活躍したレイは、
ひ弱でとても野球選手には向かないと思われる息子が歯がゆく、
また息子もそのことをコンプレックスに感じている・・・というような伏線も良しです。

 

<Amazon prime videoにて>

「ナイトスイム」

2024年/アメリカ/98分

監督:ブライス・マクガイア

出演:ワイアット・ラッセル、ケリー・コンドン、アメリ・オーファーレ、ギャビン・ウォーレン

 

スリル度★★★★☆

満足度★★★.5


関心領域

2025年02月07日 | 映画(か行)

無関心なのか、無関心を装っているのか

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これはちょっと覚悟を決めてから見なければ・・・という作品。

まず「関心領域」とは。
アウシュビッツ収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するために、
ナチス親衛隊が使った言葉、とのこと。
本作は、まさにその関心領域内のことを描いています。

アウシュビッツ強制収容所と壁一枚隔てた屋敷に、
収容所所長とその家族―妻と5人の子どもたちーが暮らしています。
屋敷は、広くて清潔。
明るく、快適。
広い庭にはプールもあって、妻が草花を植えて楽しんでもいる。

しかし、塀の向こうからひっきりなしに銃声や悲鳴が聞こえてくるのです。
でも、ここでは誰もそれに気を止めず、というか聞こえないフリをして、
平和で豊かな日常生活を楽しんでいるのです。
銃声は聞こえないけれど、小鳥のさえずりは聞こえていて注意を払う・・・。

この豊かな生活に最も執着しているのは所長の妻。
彼女は塀の向こうで何が行われているのか、しっかり理解しています。
時にはユダヤ人から奪った衣服などを近所の奥さんたちと分け合ったりもする。
歯磨き粉の中に宝石が隠されていたなどという体験談も、
井戸端会議のほんの一つの話題にしか過ぎません。

おそらくこの妻は、これまであまりいい暮らしをしてきていない。
だからこの降って湧いたような豊かな生活を絶対に手放したくないと思っているのです。
夫が異動となりこの地を離れることになっても、
あえて上層部に願い出て、家族だけこの家に住み続けることができるようにと嘆願するくらい。
しかも驚くべきことにそれが通ったりする。

この暮らしのためなら、塀の向こうから聞こえる音などなんの問題もないと思っているのです。
いや思おうとしているのか。
・・・少なくとも本作上では、彼女はユダヤ人の苦しみを想像してみようとすら思っていない・・・。
人は本当にこんな風になれるのか? 
苦しい物語です。

けれど現実に、日々爆撃に怯えながら生活している人や
満足に食料も得ることができない人々がこの地球上に間違いなく存在します。

そのことを私たちは知っているけれど、何もせず、何もできず、
結局は自分の満足を求めて生きているわけで。
それはこの家族とそう変わらないのではないか・・・。

色々と考えさせられます。

<Amazon prime videoにて>

「関心領域」

2023年/アメリカ・イギリス・ポーランド/105分

監督:ジョナサン・グレイザー

原作:マーティン・エイミス

出演:クリスティアン・フリーデル、サンドラ・ヒュラー

無関心度★★★★★

執着度★★★★☆

満足度★★★.5