映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ぼくが生きてる、ふたつの世界

2024年10月08日 | 映画(は行)

聴こえる世界、聴こえない世界

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五十嵐大さんのエッセイ
「ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と
聴こえない世界を行き来して考えた30のこと」
を映画化したもの。

宮城県の小さな港町。
耳の聞こえない両親の元で、愛情を受けて育った五十嵐大(吉沢亮)。

幼い頃には母の“通訳”を務めたりもしました。
しかし、成長すると共に、
周囲から特別視されることに戸惑いやいらだちを感じるようになります。
そして、母を疎ましく感じるように・・・。

20歳。
大は逃げるように上京し、誰も自分の生い立ちを知らない大都会で、
アルバイト生活を始めます。

聞こえない両親の間に生まれた聞こえる子どもを「コーダ」と呼びます。
その特殊な状況で迎える子どもにとっての困難なことについては、
丸山正樹さんの小説に詳しく描かれています。
本作は、まさしくその「コーダ」であるご本人、
五十嵐大さんの体験談なので、リアルなコーダ事情を伺うことができます。

大は生まれたときから両親と共に生活していたわけなので、
ろうの両親のことを当たり前に受け入れて、
普通に話すこともできて、手話もできるのです。
(母親の両親と同居なので、言葉はそちらから覚えたか?)

子どもが泣いていても気づかないこともあって、
子育ては少し大変だったかも知れませんが、
お母さんの一生懸命さに愛情が伝わります。

大が小学生の頃のある日、友人が家に遊びに来て、
大のお母さんの話す言葉が「ヘン」だと言います。
そんなことから、大は自分の母親を恥ずかしいと思うようになってしまいます。
参観日のお知らせのお便りも、親に見せずに捨ててしまいます。

また大は、障害のある両親ということで
自分は世間から「かわいそう」と思われていることにも傷ついてしまいます。
それまで自分のことを不幸だなどと考えたこともないのに・・・。

思春期に入ると大の反抗的態度はますます酷くなっていきますね。
それも仕方のないことかな・・・。
でも私はやはり母親の立場に立ってしまって、
息子の冷たい態度に何も言い返すことができず、
ただただ悲しく困り果ててしまうお母さんを、そっと抱きしめたくなってしまいました。

大は、上京しパチンコ屋のバイトの後、小さな出版社で働くようになりますが、
親と離れ、働き、様々な人と暮らすうちに、彼自身も成長していきますね。

いつしか、自分が母親に放った酷い言葉や態度が
どれだけ母親を傷つけてけていたかが分るようになってくる。

振り返ってみると、本作はコーダの話ではありますが、
実は一般的な家族、子どもと親の関係というのはまったく同じですよね。
決して特殊な話なんかじゃない。

親というのはありがたいものです。
ご両親の結婚前エピソードもステキだったな。

<シネマフロンティアにて>

「ぼくが生きてる、ふたつの世界」

2024年/日本/105分

監督:呉美保

原作:五十嵐大

脚本:港岳彦

出演:吉沢亮、忍足亜希子、今井彰人、ユースケ・サンタマリア、烏丸せつ子、でんでん

 

親の愛度★★★★☆

反抗期度★★★★★

満足度★★★★★


秒速5センチメートル

2024年10月05日 | 映画(は行)

失われた儚く美しい何か

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本作、松村北斗さん主演で実写映画化されるというニュースがありました。
新海誠監督作品でも、これはまだ見ていなかったなあと、慌てて見た次第。

全3話からなる連作短編集となっています。

貴樹と明里は小学校卒業と同時に、明里の引っ越しのために
離ればなれになってしまいます。
とにかく一緒にいることで気持ちが安らいでいた2人でした。
中学になってから、明里からの手紙が届き、
貴樹は明里に会いに行くことを決意します。

しかしその日は雪。
栃木までの列車の旅ではありますが、雪のために運行が遅れに遅れ、
なかなか目的の駅にたどり着きません。
本当に明里と会うことができるのだろうか・・・不安でいっぱいになる貴樹。(桜花抄)

やがて、貴樹も中学半ばで東京から鹿児島の離島に転校し、
そのままそこで高校生になります。
同級の花苗は、中学の頃からずっと貴樹を思い続けていました。
貴樹はいつも優しく接してくれましたが、どうも思い人がいるように思えて・・・。(コスモナイト)

社会人になり、東京でSEとして働く貴樹。
付き合っていた女性とも別れ、会社も辞めてしまいます。
季節が巡って春。
貴樹はある女性に気づき、振り返りますが・・・。(秒速5センチメートル)

 

 

純粋でみずみずしい、少年少女の恋。
けれどそれはあまりにも儚いものでした。

私が思うに、つまりあの時、唇と唇が触れ合うということで、
純粋だった“何か”が壊れてしまったということなのでしょう・・・。
もちろんそれは汚らわしいことではないのだけれど、
まだ名前のない美しい「思い」が、別のものに変わってしまうには十分な出来事だったのでは。
それは、互いに用意していた「手紙」をそれぞれ渡すことができなかった、
そしてその後も、手紙を交わすことは間遠になり、やがて途絶えてしまっていた
ことに現れているように思われるのです。

 

儚く美しいものが壊れ、苦い思いが残る・・・。
でも私たちは成長し大人になって、人生を続けなければなりません。
失われた美しいものは、桜の花びらが散るのを見て、かすかに思い出されるだけ・・・。

切なくも美しい物語。

「コスモナイト」では、種子島が舞台になっていて、
ロケットの打ち上げと思われるシーンがあります。
空へ向かってもくもくと伸び上がっていくロケットの白い航跡。
それを見上げる若い男女。
若い力、これからの人生への期待のようなものを思わせる
忘れがたいシーンでした。

そして、いつものごとく、水と光のなす透明なキラキラ感。
やはり美しいなあ・・・。
これぞまさに新海誠作品、という気がします。

こんな情景を、多分松村北斗さんは完璧に演じて表現してくれるのではないでしょうか。
実写版映画も楽しみです。
でも、松村北斗さんが演じるのは多分「青年期」だと思うので、
それほど出番はないのではないかな・・・?

<Amazon prime videoにて>

「秒速5センチメートル」

2007年/日本/63分

監督・原作・脚本:新海誠

出演(声):水橋研二、近藤好美、花村怜美、尾上綾華


僕の町はお風呂が熱くて埋蔵金が出てラーメンが美味い。

2024年09月28日 | 映画(は行)

歴史や文化を大切にしながら

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富山県射水市。
トオル、アゲル、ヨシキ3人の高校生が、
家族や進路などそれぞれの悩みを抱えながらも、仲良く楽しく暮らしています。

ラーメンが大好きで、風呂屋の熱い湯も捨てがたい。
同級の花凜との会話も心弾みます。
そして今は、コロナ禍で中止していて久々に開催される、
地域伝統の放生津曳山祭を楽しみにしています。

ところが、祭りの会長を務めるトオルの祖父が開催前日に急死。
祭り中止の危機をなんとか乗り越えますが・・・。

トオルは、自分の家や周囲の人々のリゾート開発会社からの借金のことを知ります。
リゾート会社はこのあたりの再開発を計画しているのです。
なんとしても借金を返さなければ、この地域の景観も文化も人々のつながりも壊されてしまう・・・。
トオルたちは蔵で発見した「射水の埋蔵金」という巻物を基に、
埋蔵金を探し始めます。

 

歴史はあるけれど、人口減少が進みさびれていく地方都市。
そんな町の高校生男子の奮闘の物語。
彼らはそろそろ進路も決めなければならないのです。
東京に出るのか。
地元に残るのか。
それとも・・・。

それはともかくも、今は仲間とわちゃわちゃ騒いで過ごしたい。
そんな彼ら3人。

せっかく出演している泉谷しげるさんによるトオルの祖父が、
突如急死というのには驚きました。
こんな場合、祭りは中止という決まりなのですが、
誰よりも祭りの開催を楽しみにしていた祖父の気持ちを大事にしたいと、
祖父はまだ生きていることにしてほしいと医師に頼み込んだりするシーンは
ちょっと切なくも可笑しい。

3人それぞれの家庭の事情とか、今どこにでもありそうな地方小都市の事情が描かれていて、
そしてそれらの現代的指針を見せていく所に好感を持ちました。

たとえ再開発が中止になったとして、それで決して安泰ではない。
自然と人々の暮らしが作り出してきた景観。
人々の絆。
そういうものを大切にしながら、これからもこの地で
人々の安心安全な生活を続けていくためにできることは・・・。
若い人たちがそんなことを考えるあたりに、希望が持てますね。

好きな作品でした。

<Amazon prime videoにて>

「僕の町はお風呂が熱くて埋蔵金が出てラーメンが美味い。」

2023年/日本/110分

監督:本多繁勝

脚本:西永貴文

出演:酒井大地、原愛音、宮川元和、長徳章司、泉谷しげる、丘みつ子、立川志の輔

青春度★★★★☆

郷土を考える度★★★★☆

満足度★★★★☆


ぼくのお日さま

2024年09月18日 | 映画(は行)

憧れと純真と・・・

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わーい、「津野くん」がこんなところで、フィギュアスケートのコーチしてる!!
って、思いました!!

池松壮亮さんは、映画でよく拝見するので、私にはお馴染みの俳優さんなのですが、
テレビの連ドラ出演は「海のはじまり」が始めてだったんですね。
ビックリ。
では普段あまり映画を見ない方には、なじみの薄い俳優さんだったのか・・・!
テレビドラマのおかげで、池松壮亮さんという若手実力派俳優が
広く知られるようになって嬉しい限り。

スミマセン、いきなり余談になってしまいました。

本作は、2024年第77回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で、
日本人監督史上最年少で選出された奥山大史監督作品。

 

 

北国の小さな町。

夏は野球、冬はアイスホッケーをやるのだけれど、
どちらも苦手な吃音の少年タクヤ。
ある日、ドビュッシーの「月の光」で、
フィギュアスケートの練習をする少女さくらに心を奪われます。

さくらのコーチ、元フィギュアスケート選手の荒川(池松壮亮)は、
ホッケー靴のままフィギュアのステップのマネをして何度も転ぶタクヤを目にし、
タクヤの恋を応援しようと思います。
そしてタクヤにフィギュア用のスケート靴を貸して、練習に付き合い始めます。

やがて荒川の提案でタクヤとさくらは、
ペアでアイスダンスの練習を始めることに・・・。

スケートリンクに差し込む柔らかな日の光に、少女が舞う姿が可憐で美しく、
タクヤは心奪われて見入ってしまうのですね。

実はそれと同じ状況で、2人が練習し続けていたアイスダンスを舞うシーンが後にあります。
ほとんど集大成といっていいその会心のできの滑りは、
タクヤの友人1人しか見ている人はいなかったのですが。
息がピッタリと合っていたことは2人も自覚している。
幸せなシーンです。
そして、荒川とタクヤ、さくらの3人で、少し離れた湖のスケートリンクへ出かけて
ひたすら無邪気に遊びながら幸せな時間を過ごす。

しかし、実はその時が3人で楽しく過ごす最後の時。

あっけなく壊れてしまった調和の日々。
それというのも、原因は荒川自身にあったのです。

誰が悪いというわけでもない。
ただ少女があまりにも純粋で無垢だからこそ・・・ということか。

 

荒川は、無垢な少年と少女のまだ恋とも言えないくらいの思いを美しいと思い、
応援していただけだったのですが・・・。

荒川と同居の青年役、若葉竜也さんも好きな俳優さんでして・・・。
だから私にはおいしい作品。

撮影は、我が北海道に点在するいろいろな施設を利用していた感じでした。
まだ解け出していない真っ白でたっぷり積もった雪景色が美しい。

コーチと言う役柄のため、池松壮亮さんはずいぶんスケートの練習を積んだのではないかな?

 

「ぼくのお日さま」

2024年/日本/90分

監督・脚本:奥山大史

出演:越山敬達、中西希亜良、若葉竜也、池松壮亮、潤浩

 

無垢度★★★★☆

満足度★★★★★


僕らはみーんな生きている

2024年08月31日 | 映画(は行)

若い2人と、汚れきった大人たち

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人付き合いが苦手な宮田駿(ゆうたろう)は、環境を変えるため上京。
下町のさびれた商店街にある弁当屋でアルバイトを始めます。
気さくな店主・小玉ゆり子や同僚の小坂由香(鶴嶋乃愛)らに囲まれ、
順調な生活が滑り出したかに見えましたが・・・。

この町は、商店街会長・佐伯順平(渡辺裕之)が牛耳っています。
表面上はいかにも気さくで面倒見がよさそう、
しかし、影では人を人とも思わず、お金のために残忍な計画を企てています。
そのことを、駿と由香が気づいてしまい・・・。

ちょっと不思議な手触りの作品です。

駿と由香は若くてしなやかな心を持っているようです。
こんなさえない町のさえない弁当屋で働いているにしても、
少しは未来に光を見てもいる。
そこは健全な青春物語のようであるのですが、
しかし、回りの大人たちがあまりにも酷い。
商店街会長というのは、もうほとんどヤクザの組長並み。

駿と由香が親しんでいるここの店主・ゆり子は、実は会長の愛人で、
会長に世話してもらった気の弱そうな男を夫としています。
そして、保険金目当てで、夫の毒殺を徐々に進行中・・・。

こちらのノワール部分が、どうにもヤング2人の部分と溶け合わないというか、
何か違和感を覚えるところではありますが、
そこが本作の面白い所なのかも知れません・・・。
私的には微妙・・・。

<Amazon prime videoにて>

「僕らはみーんな生きている」

2022年/日本/116分

監督・脚本:金子智明

出演:ゆうたろう、鶴嶋乃愛、渡辺裕之、桑原麻紀、西村和彦、仁科亜季子

 

悪人度★★★★★

満足度★★☆☆☆

 


ハロルド・フライのまさかの旅立ち

2024年08月20日 | 映画(は行)

いざ、イギリス縦断を徒歩で!

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レイチェル・ジョイスによる小説「ハロルド・フライの思いも寄らない巡礼の旅」の映画化。

私、本作のざっとしたあらすじを見て、あれ?前に見たことある?と思ったのです。
一人の老人がイギリス縦断の旅をする。
私が2年前に見たそれは「君を想い、バスに乗る」で、移動は主に路線バス。
妻を亡くした男性がイギリスの北から南へと旅をします。

でも、それとは違う本作は・・・

ビール会社を定年退職し、妻モーリーン(ペネロープ・ウィルトン)と平穏な日々を過ごしていた
ハロルド・フライ(ジム・ブロードベント)。
そんな彼の元に一通の手紙が届きます。
それはかつてビール工場で一緒に働いていた同僚、クイーニーからのもの。
ホスピスに入院中の彼女の命はもうすぐ尽きるという、お別れの手紙でした。

近所のポストから返事を出そうと家を出たハロルド。
しかし途中で思い立って、800キロ離れた北の地にいるクイーニーの元を目指して、
そのまま手ぶらで歩き始めてしまいます。
ふだんろくに歩いたこともないハロルド。
あっという間に、足はボロボロ、体もヘロヘロ。
そんな時には過去のイヤな思いが蘇って、気持ちまでもが落ち込んでしまう・・・。
でも、救いの手を差し伸べてくれる人もいるものです。
そしてそんな彼のひとり旅のことがSNSで広まり、
道中を同行しようという人々が集まったりもするのですが・・・。

ということで、老人がイギリスを南から北へ徒歩で旅するロードムービー。
さて、でも本作は、取り残された妻の物語でもあるのです。

妻・モーリーンはいきなり手紙をよこしたクイーニーという女性のことを知りません。
夫はなんだか悩みながら返事を書いていて、そして手紙をポストに出しに行ったきり帰ってこない。
一体夫とどういう関係の人なのかと、疑ってしまいますよね。
そもそも、この夫婦、あまりしっくりいっていなかったようなのです。

電話で「クイーニーの所まで歩いて行く」と告げたきり帰ってこない夫。
もう自分のところには帰ってこないのではないか・・・。
1人家に取り残された彼女は、これまでの夫とのよそよそしい関係を後悔しはじめるのです・・・。
そして、2人がこのような冷えた関係になってしまった原因がありました。
それは2人のひとり息子のこと・・・。

長くつらい旅は、自分と家族の過去と向き合う旅。
それは1人残された妻にとっても同様だったのです。

感慨深い作品。

 

<シアターキノにて>

「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」

2022年/イギリス/108分

監督:へティ・マグドナルド

出演:ジム・ブロードベント、ペネロープ・ウィルトン、リンダ・バセット、アール・ケイブ

家族愛度★★★★☆

ロードムービー度★★★★☆

満足度★★★★★


ブルーピリオド

2024年08月13日 | 映画(は行)

芸大入試もまた、ドラマなのです!

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漫画大賞2020受賞の、山口つばささんによる人気漫画の実写映画化です。

 

高校生・矢口八虎(眞栄田郷敦)は、成績も良く、友人付き合いもソツがない、
順調な高校生活を送っています。
しかし周囲の空気を読んで生きる日々に、物足りなさを感じています。

美術の授業で「私の好きな風景」という画題を出され、
一番好きな「明け方の青い渋谷」を描いてみます。
これが思いのほか自分のイメージに近く描き上がっていて、
そして周囲の友人たちにも褒められるのです。
絵を通じて、始めて本当の自分をさらけ出せたと思う八虎。
それから、美術に興味を抱き、のめり込んでいきます。
そして、国内最難関の美術大学、東京藝大受験を決意。
現役生の倍率200倍。
この難関に八虎はどのように立ち向かっていくのか・・・!?

これまで絵に興味もなく、芸大に進みたいなどという級友を馬鹿にすらしていた八虎。
芸大を出たところで良いところに就職できるわけでもなく、お金にもならない。
ムダなこと・・・、と。

でも、自分自身を表現する芸術の意義を見出し、
さらにもっといろいろなことを学びたい、高めたい・・・、
そんな思いで、東京藝術大学受験を決意。
家はさほど裕福というわけではないので、私立の学校ではダメなのです。
芸大入学のための予備校に通うことにして、彼にとってはほとんどゼロからの出発。

自分は天才ではないので、とにかく努力、努力。
・・・青春ですねえ。

彼の周囲の友人たちがまたいいのです。
常に女装している鮎川龍二(高橋文哉)。
一年先輩で先に美大へ進学した森(桜田ひより)。

これぞ天才という腕の持ち主・世田助介(板垣李光人)は、
友人を見下し、親しく交わろうとしない。

彼らそれぞれもまた、いろいろな葛藤の中を生きています。

 

入学の二次試験で八虎が仕上げた作品がすごくステキでした♡
実物を見てみたい。

高橋文哉さんの女の子姿が、素晴らしくカワイイ!!

 

<シネマフロンティアにて>

「ブルーピリオド」

監督:萩原健太郎

原作:山口つばさ

脚本:吉田玲子

出演:眞栄田郷敦、高橋文哉、板垣李光人、桜田ひより、石田ひかり、江口のりこ、薬師丸ひろ子

 

青春度★★★★☆

芸術度★★★★☆

満足度★★★★☆


プルートで朝食を

2024年08月07日 | 映画(は行)

自分らしさのままで生きていく

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舞台は60年代~70年代のアイルランドとイギリス。
双方の関係がうまくいっていない時期ですね。
近くて遠い国。

 

アイルランドに住む青年パトリック(キリアン・マーフィー)は、
教会の前に置き去りにされた捨て子で、
すぐに養子に出されて養母に育てられました。
なぜか化粧やキラキラしたものが好きで、時には女装したりもします。
今でこそ性同一性障害という言葉があって、
そうしたマイノリティへの配慮もされるようになってきましたが、
この時期のアイルランドでは、それはタブー。
養母はこんなパトリックが全く気に入らない。

そして、パトリックは自分の実の母が以前、
リーアム神父(リーアム・ニーソン)の所の家政婦をしていたことを知ります。
つまり、神父が実の父なのか・・・? 
それを問いただそうとしても、神父は何も答えません。
そして、ロンドンで母を見かけた人がいることを頼りに、
家を出てロンドンへ向かいます。

 

ロンドンでは「キトゥン」と名乗るようになったパトリック。

様々な人と出会いながら、自分らしさのままで生きる道を探していきます。
自分を忌み嫌う人もいるけれど、助けてくれる人もいる。
中でもアイルランドでの幼馴染みたちが、キトゥンを勇気づけます。
そんなところに、アイルランドの闘争のことも交えて語られるのが興味深い。

 

 

ちょっぴりコメディタッチ、
つらい立場にありながらもいつも笑顔であろうとするキトゥンが大好きになってしまいます。
中でも父との和解、そして母との邂逅シーンは感動的。

このポスターにもあるとおり、キリアン・マーフィーが演じるキトゥン、美しいですね~。

 

<Amazon prime videoにて>

「プルートで朝食を」

2005年/イギリス/127分

監督:ニール・ジョーダン

原作・脚本:パトリック・マッケイブ

出演:キリアン・マーフィー、リーアム・ニーソン、ルース・ネッガ、ローレンス・キンラン、
   スティーブン・レイ、ブレンダン・グリーソン

性同一障害度★★★★☆

満足度★★★★☆


星の消えた空に

2024年07月26日 | 映画(は行)

誰もが飲み込まれる可能性のある闇

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精神的に不安定な状況を描き出す作品。
見るのがちょっとつらいです。

 

作家ジュリー・デイヴィス(アマンダ・セイフライド)は、
子供向けの絵本を専門にしていて、ベストセラーの常連となっています。
夫イーサンと1歳の娘との生活も順調。
公私ともに順風満帆。
端からはとても幸福そうに見えます。

しかし、彼女の中には自分でも抑えられない不安が渦巻いています。
夫もそのことは気にしていて、いつも彼女の顔色をうかがっているようでもあります。
ジュリーは薬を用いながらなんとか過ごしていたのですが、
第二子の妊娠、出産からまた心は落ち込んでいきます・・・。

 

いわゆる産後鬱の状態を描いていると思われます。
そして作中では根源にジュリーの子どもの頃の忌むべき出来事の記憶がある・・・
というように描かれています。
けれど多分、ジュリーはそのことが自分を苦しめているとは自覚していない。
それは無意識の底から、じわじわとジュリーを犯していく・・・。

 

こんなに可愛い子供がいて、優しい夫もいて、
時には母が育児を手伝いに来てくれて、好きな仕事もあって。
人がうらやむような好条件の元にいながら、
それでもジュリーは孤独で不安に押しつぶされそうになり、
元気なフリをして、やがて自滅していく・・・。

ジュリーは妊娠期、そして授乳期、子供に薬の影響を与えたくなくて、
自らの抗うつ剤を飲むことをやめてしまっていたのでした・・・。

 

 

本作を見る限り、それはもうどうしようもないのだ、
彼女を救う手立てなどないといってるようでもあり、
こちらもまで苦しくなってしまいます。

 

まずは、人はこのような状況に置かれることがある、ということだけでも知ろう。
そういう狙いなのかも知れません。
どう見ても幸せそうに見える人の中にもある闇。
そういうときに、どうすればその人によりそうことができるのか、
それはケースバイケースで、多分その都度、
死ぬほど考えなければならないことでもあるのでしょう。

 

ジュリーの描く夢いっぱいの絵本に対しての彼女の胸の内。
・・・つまりは純粋すぎたのかもしれませんが、切ないです。

 

<Amazon prime videoにて>

「星の消えた空に」

2021年/アメリカ/105分

監督・脚本:エイミー・コッペルマン

出演:アマンダ・セイフライド、フィン・ウィットロック、ジェニファー・カーペンター、
   マイケル・ガストン、エイミー・アービング、ポール・ジアマッティ

心の変調度★★★★★

満足度★★★☆☆


PLAY! 勝つとか負けるとかは、どーでもよくて

2024年07月13日 | 映画(は行)

eスポーツ全国大会を目指せ!

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eスポーツの全国大会を目指す実在の男子学生をモデルにしています。

徳島県の高等専門学校に通う、翔太(奥平大兼)。
学内に貼られていたとあるポスターに目をとめます。
「全国eスポーツ大会メンバー大募集」というもの。
翔太はさっそくそのポスターを作った一学年先輩の達郎(鈴鹿央士)に連絡を取ります。

1チーム3人編成のeスポーツ大会「ロケットリーグ」に出場するためにはもうひとり必要。
そこで達郎は同じクラスのV Tubarオタクの亘(小倉史也)に声をかけます。

最初は全く息の合わない3人。
しかし次第にeスポーツの魅力にハマっていき、
東京で開催される決勝戦を目指すことに。

3人は同じ学校の生徒ながら、ゲームをするときにはそれぞれ自宅にいて、
オンラインで練習ということになります。
もう私の年齢ではそういう所から想像がつかなかったので、
なかなか勉強になります・・・。
地区予選自体もオンラインなので、それぞれ自宅。
亘などはお気に入りのYouTubeを見ながら競技に臨んでいたりして、
そのやる気のなさと来たらハンパじゃありません。

作中のゲームは、車でサッカーをするというナゾ(?)のものなのですが、
見ていたらなんだか面白そうに思えてきました。
亘はゴールキーパー的なポジションなのにやる気がないので、点をとられまくり。
でも他の2人でカバーして守ることもできるので、なんとか勝ち上がっていくのです。

そんなやる気のない亘が、やる気を見せるのは、
これまで友達などできたことがないのに、
いつのまにか達郎と翔太に本音で話すことができるようになっていると気づいてから。

自宅が舞台となるわけなので、翔太と達郎の家族模様も出てくるのですが、
これがなかなか問題ありの家族。
未成年の彼らはそれでもこの家族と付き合っていくほかなく、
そうと思えば気持ちも重いのだけれど、
でもその一方で友人たちとココロ一つに夢を追うことができる
というのが救いにもなっているわけです。

そして、全国大会決勝戦となると今度はオンラインではなくて、東京開催。
付き添い者が必要ということで、学校の先生を拝み倒してついてきてしまう。
それも、いつも授業中に彼らにイヤミばかり言っていた先生。
しかしいざフタを開けると先生は「東京だから」と言って
奥さんまで連れてきて、物見遊山気分全開という展開も傑作!

 

正直、奥平大兼さんと鈴鹿央士さんにつられて見たのですが、
意外と楽しめました。

 

「PLAY! 勝つとか負けるとかは、どーでもよくて」

2024年/日本/122分

監督:古厩智之

脚本:櫻井剛

出演:奥平大兼、鈴鹿央士、小倉史也、山下リオ、花瀬琴音

eスポーツを知る度★★★★☆

今時の青春度★★★★☆

満足度★★★★☆


花腐し

2024年07月05日 | 映画(は行)

文学の香り

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綾野剛さんと柄本佑さん出演ということで気になっていたのですが、
R18+にびびって見逃していました。
いえ、当方立派な大人なのですが、あまり激しいシーンがあるのは
身の置き場がなくなってしまうので苦手なのです。

廃れつつあるピンク映画界で生きる監督・栩谷(綾野剛)は、もう5年も映画を撮っていません。
そんなある日、大家に家賃の支払いを待ってもらうことと引き換えに、
とあるアパート住人を立ち退きさせてほしいと頼まれます。

気が進まないながらアパートに出向いた栩谷。
そこで、かつて脚本家を目指していた伊関(柄本佑)と対面しますが、
意外と話があって、退去の話はそっちのけで話し込んでしまいます。
そして互いに過去に愛した女のことを話すうちに、
それが同一人物であることに気がつきます。

本作の最も特徴的なのは、この2人が生きる現在パートがモノクロ画面。
そして2人が語る、女優志望の女・祥子との過去パートがカラー画面となっているところ。

そして、作中で引用されるのが万葉集の中の一首(読み人知らず)。

春されば卯の花腐し我が越えし妹が垣間は荒れにけるかも

そもそも本作の題名をきちんと読むにはこの万葉集の教養が必要。
花腐(くた)しですね。
恥ずかしながら、私は読めませんでした。

「卯の花腐し」は、5月下旬の長雨、ウツギの花を腐らせるほどの雨、とWikipediaにあります。
そんなわけで、本作、いつも雨が降っています。

栩谷も伊関もかつては映画監督として、あるいは脚本家として、
いつかは何者かになろうと思っていた。
少なくとも、祥子と出会った頃はそうでした。
(時系列でいうと、先に伊関と付き合っていて、
彼と別れた後に、栩谷と付き合うようになったのです。)

しかし彼らは、日々の現実の中でその思いもうやむやになり、
まともにシナリオを書くことも、映画を撮ることもなくなっていく。

だからといってきっぱりやめるでもなく、新たな道を探すでもない。
ただただ過去の夢の残滓の中でぼんやりと漂っている。
ひたすらに怠惰。
・・・そんな状態を、腐り腐臭を放っていると、祥子は思ったのかも知れません。
彼女自身はやはり女優への夢は持ち続けていたのですが・・・。
だから、祥子がその夢を持っている間は、画面はカラーなのですが、
その存在がなくなった現在はモノクロ。
しかも雨。

さすが、芥川賞受賞の原作。
文学の香りのある印象深い作品でした。

<WOWOW視聴にて>

「花腐し(はなくたし)」

2023年/日本/137分

監督:荒井晴彦

原作:松浦寿輝

脚本:荒井晴彦、中野太

出演:綾野剛、柄本佑、さとうほなみ、マキタスポーツ、赤座美代子、奥田瑛二

文学性★★★★★

満足度★★★★☆


バッド・デイ・ドライブ

2024年06月29日 | 映画(は行)

謎の脅迫者に従って

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おなじみ、リーアム・ニーソンによるサスペンス・アクション。
2015年スペイン映画「暴走車ランナウェイ・カー」の英語版リメイクとのこと。

息子と娘を学校に送るために車を走らせた金融ビジネスマンのマット(リーアム・ニーソン)。

「その車に爆弾を仕掛けた。降りてはいけない。通報してはいけない。
これから伝える指示に従わなければ爆破する」

と、謎の着信があります。

車の座席から立ち上がると、爆弾が爆発するように仕掛けられているのです。
おまけに、リモートでも爆発するという・・・。

マットは、その声の主や要求、目的も分らないまま運転を続けます。
そして、行く先々で、同じように爆弾を仕掛けられた車が次々と爆破されていきます。
しかもその被害者はマットの同僚であったことから、
マットは警察から容疑者として追われることになってしまいます。
それでも、子供たちを決して犠牲にしないために、
マットは脅迫者からの指示に応えますが・・・。

仕事一筋で家庭を顧みないマットは、完全に家族から白眼視されていまして、
妻は離婚を考え、反抗期ど真ん中の息子には無視されかけるし、
娘も毛虫を見るような目でマットを見ます。
こんな中でも、なお仕事重視のマットは、
車中から仕事の打ち合わせの電話をかけたりしている・・・。

そんなところへいきなり、爆弾を仕掛けたという脅迫電話。
マットの厳しい戦いが始まります。

いつもながら家族を守ろうとするときのリーアム・ニーソンは強い!

でもこの場合は、ひたすら車の運転をするばかりなので、
あまり彼自身の肉体を駆使したアクションはありません・・・。
さすがにもう、お年を配慮したシナリオなのでありましょう。

すったもんだの末、とりあえず息子と娘の心は取り戻すことができたようで、
良かったですね。

 

<Amazon prime videoにて>

「バッド・デイ・ドライブ」

2023年/イギリス・アメリカ・フランス/91分

監督:ニムロッド・アーントル

出演:リーアム・ニーソン、ノーマ・ドゥメズウェニ、リリー・アヌペル、
   ジャック・チャンピオン、マシュー・モディーン

危機感度★★★☆☆

満足度★★★☆☆


バーナデッド ママは行方不明

2024年06月28日 | 映画(は行)

自分探しに南極へ?

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シアトルに暮らす専業主婦、バーナデッド(ケイト・ブランシェット)。
一流企業に勤める夫と親友のような関係の娘がいて、一応幸せな毎日。

ところが、バーナデッドは極度の人間嫌いで、
隣人やママ友とうまく付き合うことができないのです。
かつて天才建築家として活躍しながら、ある出来事から、仕事を辞めてしまっていました。
どうもそのことが彼女を苦しめているようなのです。

買い物、家事、スケジュール管理などは、メールで依頼するバーチャル秘書に任せきり。
このことがやがて大きな悲劇に発展。
そして、隣人との不和がついに大きなトラブルに・・・。

そんなことですっかり煮詰まってしまったバーナデッドは、
家族の前から姿を消し、南極へ・・・。

実は、家族そろっての南極旅行は娘の希望だったのです。
バーナデッドは承諾はしたものの、船旅中の客同士の付き合いなどが憂鬱だし、
船酔いも考えただけでウンザリ。
なんとか理由を付けて自分は行かないことにしようと考えていました。

ところがいくつかの事件ですっかり落ち込んだバーナデッドは、
せめて南極旅行だけは成し遂げようと、夫と娘に合流するつもりで南極行きを決行。
でも、夫と娘は旅行を取りやめていたのです。
しかしバーナデッドが南極へ行ったことを知って、その後を追います。

でもこの南極への単独行が、バーナデッドにとっては、自分を見つめ直すことに繋がった。
自分が本当に好きでやりたかったこと・・・。
それから目を背けた結果、すべての歯車が狂っていた・・・。

自分からは逃れられない。
自分の本当の気持ちに向き合って、前を向いて歩けば良い・・・。

家族と自分を見つめ直していく、ステキな物語です。

<WOWOW視聴にて>

「バーナデッド ママは行方不明」

2019年/アメリカ/108分

監督:リチャード・リンクレイター

原作:マリア・センプル

出演:ケイト・ブランシェット、ビリー・クラダップ、エマ・ネルソン、
   クリステン・ウィグ、ローレンス・フィッシュバーン

自分迷走度★★★★☆

家族愛度★★★★☆

満足度★★★★☆


ポトフ 美食家と料理人

2024年06月21日 | 映画(は行)

最高の料理とは

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19世紀末、フランスの片田舎。

食を追求し芸術にまで高めた美食家ドダンは、
彼がひらめいたメニューを完璧に再現する天才料理人ウージェニーと共に暮らしています。
親しい友人たちを招いて開く晩餐会は、
2人にとっても友人たちにとっても至福の時。

そんなある時、ユーラシア皇太子から晩餐会に招かれたドダン。
けれど、ただ豪華なだけで退屈な料理にウンザリ。
ドダンは、最もシンプルなフランスの家庭料理ポトフで皇太子をもてなすことを思いつきます。
しかしそんな矢先、ウージェニーが倒れてしまい・・・。

 

本作冒頭にかなり長く調理シーンがあります。
ウージェニーが中心で、時にはドダンも手伝い、
助手の女性はほとんど下ごしらえや簡単な作業、
そしてもうひとり、見学をしている少女。
広い台所を手順を先読みして動き回るウージェニーのその手さばきは、
迷いがなく手早く美しい。
映像に伴って聞こえる水音、鍋をかき回す音、食材の焼ける音・・・
もうこれ、絶対においしいヤツ!と、
見るだけで確信できてしまいます。

素材をどのように調理すればそのおいしさを最も引き出すことができるのか・・・、
そうした探求の結果であるかのような料理の数々。

そして、ドダンやウージェニーとも親しい友人たちが集い、
極上のワインで語らいながら料理を堪能する。
気取ってもったいぶった場所ではなくて、
こうした場で食べることがまた、料理の最後の味付けとなってもいるようで。
憧れます・・・。

さて、ドダンとウージェニーは、ときおり夜にドダンがウージェニーの部屋を訪ねるという間柄。
ドダンは結婚したいと思っているのですが、ウージェニーの答えはノーです。

そこのところが現代風なのですが、
つまりウージェニーは結婚がどれだけ女性の自由を妨げるかをよく分っている。
今のままの方が、2人の関係をうまく維持できると思ったのではないかな?
けれど、ウージェニーの体調悪化によって、彼女の気持ちも変わっていく・・・。

ドダンが作り出すポトフはどんなだったのか?
それを見届けたかった・・・。

 

<Amazon prime videoにて>

「ポトフ 美食家と料理人」

2023年/フランス/136分

監督・脚本:トラン・アン・ユン

出演:ジュリエット・ビノシュ、ブノワ・マジメル、エマニュエル・サランジェ、
   パトリック・ダヌンサオ、ガラテア・ベルージ

 

食欲増進度★★★★★

恋愛度★★★★☆

満足度★★★★☆


プリシラ

2024年05月07日 | 映画(は行)

エルヴィスに見初められて

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エルヴィス・プレスリーの元妻プリシラが1985年に発表した
回想録「私のエルヴィス」を基にした作品。

アメリカ陸軍基地のある西ドイツの地で暮らす14歳の少女プリシラ。
父親が軍人なのです。
当時すでにスパースターであるエルヴィスも徴兵制度により
この基地で兵役に就いており、彼が開くパーティーで2人は出会います。
そして間もなく恋に落ちる。

やがて2人は、プリシラの両親の反対を押し切り、
エルヴィスの実家の豪邸で一緒に暮らし始めます。
華やかで魅惑的な世界。
プリシラはエルヴィスのそばですごし、彼の色に染まって行きます・・・。

本作中エルヴィスのパフォーマンスシーンはほとんどなくて、
弱くて傷付きやすく、また時には癇癪を起こしたりもする、
プリシラから見た生のエルヴィス像が描かれます。

異国の地で出会った2人。
少し前にエルヴィスは母を亡くしていて、若干マザコンらしき所も垣間見えます。
そんな彼が、まだほとんど子どものあどけなさをみせるプリシラに何を思うのか。
そばにいて口出しもせず微笑んですべてを受け入れてくれるような、
そんな存在として「母性」的なものを見出していたのかも。
すり寄って来る女性ならいくらでもいた。
けれど、体の関係なしに安らげる存在としてプリシラを求めたのかな?と。

でもですよ、これはプリシラの物語。
少女が突然スーパースターに言い寄られて、夢中にならないわけがありません。
それはもう、仕方のないこと・・・。

私は紫の上を連想しました。
光源氏に見初められ、幼いうちに引き取られ育てられた、紫の上に境遇がよく似ている。

まるでエルヴィスのものにでもなったかのよう。
彼の好みに髪を染め、メイクをして、彼の好みの服を身につける。
家にはエルヴィスの家族がいて、もちろん使用人もいるので他には特にすることがない。
しかしエルヴィスは仕事に忙しく、ツアーで長期間不在だったりもする。
おまけに、やっと帰ってきたかと思っても、彼は体の関係を持とうとしない・・・。そ
の時すでに14歳ではないプリシラにとって、自分の存在は何なのか?と思ってしまいますよね。

そしてエルヴィスの華々しい女性関係をプリシラは週刊誌や新聞で知ることになります。
プリシラはどこか外へ働きに行こうとしてもエルヴィスが止めていたようです。

そんな長い同居期間の後正式に結婚したのはプリシラ22歳の時。

1人の男のために自分をなくし、囲い込まれた女の物語・・・。
あまりにも一方的で、これが本当に愛なのかな?と思います。

そうは言っても結局女はしたたかなのかも知れません。
7年の結婚生活の後、離婚。
その後彼女は女優として歩み出したりもします。
自分を取り戻すのに遅すぎなくて良かった!!

まだあどけなさの残る少女(なんともかわいらしい!!)から、
自分の道を見つけて歩み出す大人の女性までを演じたケイリー・スピーニーが素晴らしい。

 

<シアターキノにて>

「プリシラ」

2023年/アメリカ・イタリア/113分

監督・脚本:ソフィア・コッポラ

原作:プリシラ・プレスリー、サンドラ・ハーモン

出演:ケイリー・スピーニー、ジェイコブ・エロルディ、ダグマーラ・ドミンスク、アリ・コーエン

略奪度★★★★☆

満足度★★★☆☆