映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ハリーとトント

2010年04月04日 | 映画(は行)
アメリカ横断。老人と猫のロード・ムービー。

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ハリーとトント [DVD]

20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

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72歳、もと教師のハリーが
愛猫トントと共にアメリカ大陸横断の旅をするロード・ムービーです。
ニューヨーク。
亡き妻と共に暮らした我が家。
その古い家は区画整理で取り壊しになってしまいました。
とりあえず近所の長男の家に行ったものの、どうもなじめない。
長女のいるシカゴへ行ってみることにします。

ところが猫を連れてでは、飛行機もバスもどうにも具合が悪い。
とうとう中古車を買ってドライブの旅。
しかし実は運転免許はとっくに期限が切れていたんですけどね・・・。

ハリーはまだ結婚をする前の若い頃、
アメリカ大陸横断の旅を夢見たことを思い出します。
それが今まで出来なかったのは、お金がなかったわけでも時間がなかったわけでもない。
・・・つまり、満ち足りて居たんだな。
そう納得するハリー。


妻に先立たれて、懐かしい我が家は取り壊し。
行き場をなくしたお爺さんが冒険の旅に出る。
なんだか、見たようなストーリーですね。
そう、「カールじいさん」にそっくり。
「カールじいさん」の原点ですね。
相棒の猫は少年へとすり替わり・・・。


ハリーはシカゴからさらに次男の居るロサンゼルスまで行くことになります。
途中ヒッチハイクの若者を拾ったり、昔好きだった彼女を訪ねたり。
ついには自分もヒッチハイクとなりながら、気ままな一人と一匹の旅。
何も急ぐことはない。
彼の子供たちはそれぞれ独立しているけれど、
それぞれに悩みを抱えてもいる。
でも、結局お互い依存関係にはならないんですね。
この辺の感覚がたぶん日本とは少し違う。
けれど、私は、こういうふうになりたいと思います。
彼をつなぎ止めていた入れ物としての家。
そして、家族。
この旅で、彼はこれら一つ一つに別れを告げたのです。


老いて、しがらみを脱ぎ捨て・・・
これはまるで死出の旅だ。
けれどたぶん、この作品はそうした旅立ちを
この旅と重ね合わせているのでしょう。
死に行くことと、この旅が同じようなもの
・・・と思えば死はさほど怖くはない。
むしろ、待ち望みたいくらい。
何者にも寄りかからず、かといって他者を排除するのではない。
相手の人格を尊重することが、
すなわち自分自身をまっすぐに立たせることなんだなあ。
こんなふうに自分も老いて、そして旅立てたらステキだと思います。

1974年/アメリカ/116分
監督:ポール・マザースキー
出演:アート・カーニー、エレン・バースティン、ジェラルディン・フィッツジェラルド、チーフ・ダン・ジョージ