無関心なのか、無関心を装っているのか
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これはちょっと覚悟を決めてから見なければ・・・という作品。
まず「関心領域」とは。
アウシュビッツ収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するために、
ナチス親衛隊が使った言葉、とのこと。
本作は、まさにその関心領域内のことを描いています。
アウシュビッツ強制収容所と壁一枚隔てた屋敷に、
収容所所長とその家族―妻と5人の子どもたちーが暮らしています。
屋敷は、広くて清潔。
明るく、快適。
広い庭にはプールもあって、妻が草花を植えて楽しんでもいる。
しかし、塀の向こうからひっきりなしに銃声や悲鳴が聞こえてくるのです。
でも、ここでは誰もそれに気を止めず、というか聞こえないフリをして、
平和で豊かな日常生活を楽しんでいるのです。
銃声は聞こえないけれど、小鳥のさえずりは聞こえていて注意を払う・・・。
この豊かな生活に最も執着しているのは所長の妻。
彼女は塀の向こうで何が行われているのか、しっかり理解しています。
時にはユダヤ人から奪った衣服などを近所の奥さんたちと分け合ったりもする。
歯磨き粉の中に宝石が隠されていたなどという体験談も、
井戸端会議のほんの一つの話題にしか過ぎません。
おそらくこの妻は、これまであまりいい暮らしをしてきていない。
だからこの降って湧いたような豊かな生活を絶対に手放したくないと思っているのです。
夫が異動となりこの地を離れることになっても、
あえて上層部に願い出て、家族だけこの家に住み続けることができるようにと嘆願するくらい。
しかも驚くべきことにそれが通ったりする。
この暮らしのためなら、塀の向こうから聞こえる音などなんの問題もないと思っているのです。
いや思おうとしているのか。
・・・少なくとも本作上では、彼女はユダヤ人の苦しみを想像してみようとすら思っていない・・・。
人は本当にこんな風になれるのか?
苦しい物語です。
けれど現実に、日々爆撃に怯えながら生活している人や
満足に食料も得ることができない人々がこの地球上に間違いなく存在します。
そのことを私たちは知っているけれど、何もせず、何もできず、
結局は自分の満足を求めて生きているわけで。
それはこの家族とそう変わらないのではないか・・・。
色々と考えさせられます。
<Amazon prime videoにて>
「関心領域」
2023年/アメリカ・イギリス・ポーランド/105分
監督:ジョナサン・グレイザー
原作:マーティン・エイミス
出演:クリスティアン・フリーデル、サンドラ・ヒュラー
無関心度★★★★★
執着度★★★★☆
満足度★★★.5
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