雷に導かれる3編
* * * * * * * *
何かと楽しみな吉田篤弘氏作品。
この本は3つの物語からなっていますが、どれも断片的で、起承転結には欠ける気がしたのです。
それなりに引き込まれて、もう少し読んでみたかったと思わせる。
ところが驚いたのは本の最後のところ。
「三つの序章-あとがきにかえて」
・・・とありまして、
なんとこれら3編はある日いきなり3つのタイトルが思い浮かび
3つのストーリーを平行して書いたというのです。
そしてこれらはそれぞれ完結しておらず、いわば第一章・・・序章であると。
続きはそのうちまたお目にかけましょう・・・、
ということで、それぞれ、起承転結に欠けるのはあたりまえだったのですねえ・・・。
ただし、これら三編はいずれも「雷」が登場すること、
一人称と三人称が密かなテーマとなっていること
という共通項があります。
それでいて実に全く別々のストーリーというのも、すごいですね。
「一角獣」は空き地にうち捨てられた自転車をひろうモルト氏のストーリー。
この自転車には何故か角(つの)がある。
この自転車に乗ると、初めて自転車に乗った6歳の頃の自分がよみがえる。
モルト氏とその妹、恋人とその兄。
モルト氏を中心としながら彼らの日常を描いていきますが、
どこか現実離れしたメルヘンのような語り口。
キーワードは「水面下」。
次が表題の「百鼠」
百匹のネズミの話・・・ではなかったですね。
天上で暮らす<朗読鼠>は、
地上の作家が三人称で小説を書く時に、第三の声となってサポートするのが仕事。
ある日担当する作家が急に一人称小説を書き始めてしまい・・・。
この3作中では最もメルヘンっぽい設定ではありますが、
とても象徴的な物語だと思います。
朗読鼠、といっても、ネズミの姿では無いのです。
ここで言う<鼠>とはネズミ色、つまりグレーのことなんですね。
白と黒が混ざった色。
銀鼠、桜鼠、鉄鼠・・・江戸の昔にはたくさんのネズミ色の命名があった。
贅沢を禁じられた当時、許されたネズミ色にほんのひとたらし他の色を加えて、
実に微妙なネズミ色を作り出し、着物を作った。
この百の様々なネズミ色のことを指しているわけです。
この<朗読鼠>くんが、地上に旅するシーンはなかなか印象的ですよ。
最後の「到来」は、最も現実的なストーリー。
大学生の「わたし」と、彼氏の中村屋君、作家のお母さん。
そういう日常を描いていますが、
「わたし」はお母さんの描く女性が
すべて自分の言ったこと、したことがモデルになってしまっていることに嫌悪を感じている。
やわらかな語り口ながら、ちょっぴり苦さもあり、
私としてはこの3作の中では最も続きが気になる作品です。
「一角獣」はその後「小さな男*静かな声」という作品で、
多少姿を変えて長編として完成したそうで、
他の2作は、今後どうなるのか未定とのこと。
是非続きを書き上げていただきたいものです。
満足度★★★★☆
* * * * * * * *
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何かと楽しみな吉田篤弘氏作品。
この本は3つの物語からなっていますが、どれも断片的で、起承転結には欠ける気がしたのです。
それなりに引き込まれて、もう少し読んでみたかったと思わせる。
ところが驚いたのは本の最後のところ。
「三つの序章-あとがきにかえて」
・・・とありまして、
なんとこれら3編はある日いきなり3つのタイトルが思い浮かび
3つのストーリーを平行して書いたというのです。
そしてこれらはそれぞれ完結しておらず、いわば第一章・・・序章であると。
続きはそのうちまたお目にかけましょう・・・、
ということで、それぞれ、起承転結に欠けるのはあたりまえだったのですねえ・・・。
ただし、これら三編はいずれも「雷」が登場すること、
一人称と三人称が密かなテーマとなっていること
という共通項があります。
それでいて実に全く別々のストーリーというのも、すごいですね。
「一角獣」は空き地にうち捨てられた自転車をひろうモルト氏のストーリー。
この自転車には何故か角(つの)がある。
この自転車に乗ると、初めて自転車に乗った6歳の頃の自分がよみがえる。
モルト氏とその妹、恋人とその兄。
モルト氏を中心としながら彼らの日常を描いていきますが、
どこか現実離れしたメルヘンのような語り口。
キーワードは「水面下」。
次が表題の「百鼠」
百匹のネズミの話・・・ではなかったですね。
天上で暮らす<朗読鼠>は、
地上の作家が三人称で小説を書く時に、第三の声となってサポートするのが仕事。
ある日担当する作家が急に一人称小説を書き始めてしまい・・・。
この3作中では最もメルヘンっぽい設定ではありますが、
とても象徴的な物語だと思います。
朗読鼠、といっても、ネズミの姿では無いのです。
ここで言う<鼠>とはネズミ色、つまりグレーのことなんですね。
白と黒が混ざった色。
銀鼠、桜鼠、鉄鼠・・・江戸の昔にはたくさんのネズミ色の命名があった。
贅沢を禁じられた当時、許されたネズミ色にほんのひとたらし他の色を加えて、
実に微妙なネズミ色を作り出し、着物を作った。
この百の様々なネズミ色のことを指しているわけです。
この<朗読鼠>くんが、地上に旅するシーンはなかなか印象的ですよ。
最後の「到来」は、最も現実的なストーリー。
大学生の「わたし」と、彼氏の中村屋君、作家のお母さん。
そういう日常を描いていますが、
「わたし」はお母さんの描く女性が
すべて自分の言ったこと、したことがモデルになってしまっていることに嫌悪を感じている。
やわらかな語り口ながら、ちょっぴり苦さもあり、
私としてはこの3作の中では最も続きが気になる作品です。
「一角獣」はその後「小さな男*静かな声」という作品で、
多少姿を変えて長編として完成したそうで、
他の2作は、今後どうなるのか未定とのこと。
是非続きを書き上げていただきたいものです。
満足度★★★★☆