映画と本の『たんぽぽ館』

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「ブラザーサン シスター・ムーン」恩田陸

2012年06月12日 | 本(その他)
放し飼いで、とりとめのない学生時代

ブラザー・サン シスター・ムーン (河出文庫)
恩田 陸
河出書房新社


                * * * * * * * * * *


高校時代の友人、楡崎綾音・戸崎衛・箱崎一のザキザキトリオ。
同じ大学に進みましたが、さほどの接点はないまま、それぞれの学生生活を過ごします。
三人三様、本と映画と音楽に費やす青春、
その思いを描いています。


この作品、多分に著者の自伝的要素が大きいのです。
特に、冒頭の綾音さんの語りの部分は、
小説家になるなんて思いもしなかったという著者の学生時代が、かなり色濃く反映されています。

「自意識過剰なのにコンプレックスの塊で、
やっとプライバシーを手に入れたのに人恋しく、
何者かになりたくてたまらないのに、足を踏み出すのは恐ろしかった。」


という文章にぎくりとしました。
まるで私自身の学生時代の事のようです。
こんな思いをくぐり抜けて来た著者に、なんだか勝手に親しみを覚えたりして。


次にはジャズに打ち込む衛。
これは著者とは別物・・と思いきや、
なんとこれも著者の学生時代が反映されているとのことで驚きました。
衛はベースなのですが、恩田陸さんは、アルトサックスをやっていたそうです。
う~ん、今まで割りと恩田陸さんの本は読んでいたつもりなのですが、
彼女がアルトサックスをやるなんていう雰囲気を感じたことがなかったので、意外に思いました。
多才な方なんですねえ・・・。
それでコンプレックスの塊だなんて、
私と同じなどと思ってしまったのが恥ずかしくなってしまいます。


最後の一は映画なのですが、この人物に特にモデルはいないとのこと。
・・・つまり著者も映画はよく見ていたということなのでしょう。
「ブラザーサン・シスタームーン」は1972年、イタリア映画。
このストーリー中ではこの3人が一緒に見に行った映画ということになっています。
私も、この題名には記憶があるのですが、たぶん見たことはないですね。
(今度絶対見よう!!)


人生の中で、放し飼いで、なんだかとりとめのない不思議な時代。
楽しくはあったけれど、苦しくもあり、自分でもその意味をはかりかねている・・・
そんな感覚を、見事に凝縮していたと思います。


「ブラザー・サン シスター・ムーン」恩田陸 河出文庫
満足度★★★★☆