祈りと奇跡の物語
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ノーベル文学賞 受賞第一作
カズオ・イシグロ最新作、
2021年3月2日(火)世界同時発売!
AIロボットと少女との友情を描く感動作。
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時代は近未来でしょうか。
AIロボットである「クララ」は、店のショーウィンドウに立ち、
やがて少女ジョジーの家に買われていきます。
病弱なジョジーとクララは友情を育んでいきますが、
いよいよジョジーが体調を崩していき・・・。
私にはこの世界が、「私を離さないで」の世界と地続きであるように感じられました。
肥大した科学技術がいつしか人の人間性を剥奪し、
それが「当たり前」と見なされている一種残酷な世界。
しかし、クララはAIであるが故に、
人の「理想」ともいうべき人間性、やさしさや純粋性を保っているのかもしれません。
クララらAIロボットは太陽の光エネルギーを充電して作動するのです。
そのためクララは日の光を浴びると元気が出て幸せな気持ちになる。
だから、ジョジーの病も太陽の光を浴びることできっと良くなる、とクララは考えます。
クララにとっては太陽こそが「神」のようなもの。
人とロボットと、「祈り」は同質のものなのだろうか。
「祈り」、それは科学と相容れないものであるならば、
「奇跡」は人とロボットにかかわらず、起こりうる・・・?
「鉄腕アトム」を読んで(漫画ですが)育った私には、
心を持ったロボットはとてもなじみ深く、あっても当たり前のように思えるのです。
AIがうんと発達して複雑な思考を成し遂げることが可能になれば、
「心」も発生するのではないかな・・・。
それにしてもこの世界、詳しい説明はないのですが、
どうやら知能をアップさせる為に、
子どもにある処置を行うということが一種のステイタスになっているのです。
しかし、この処置は健康上にリスクが大きい。
そしてまた、主義や金銭的事情でこの処置を受けなかった者は、
将来の社会的地位を望めない・・・という格差を生んでいる。
カズオ・イシグロ氏はさらっとエグい世界を描き出しますね。
この世界でジョジーの母親が、クララを使ってやろうとしていたことがまた、おぞましい・・・。
「クララとお日さま」カズオ・イシグロ 早川書房
満足度★★★★☆