映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「やがて満ちてくる光の」梨木香歩

2023年07月13日 | 本(エッセイ)

自然と向き合って

 

 

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作家として、旅行者として、そして生活者として
日々を送るなかで、感じ、考えてきたことーー。
読書に没頭していた子ども時代。
日本や異国を旅して見た忘れがたい風景。
物語を創作するうえでの覚悟。
鳥や木々など自然と向き合う喜び。
未来を危惧する視点と、透徹した死生観。
職業として文章を書き始めた初期の頃から近年までの作品を集めた、
その時々の著者の思いが鮮やかに立ちのぼるエッセイ集。

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梨木香歩さんの新旧エッセイを凝縮した貴重な一冊。
私、やはり梨木香歩さんの自然と向き合って物事の本質を見極めるような、
そんなエッセイにいつも心惹かれるのであります。

 

★生まれいずる、未知の物語

キノコは目に見えない「菌糸」として繋がり合っているのがスタンダードな状態で、
たまたま何かの異常事態で外に出てきたのが「キノコ」。
人間も同じで、死ぬということも、キノコがまた菌糸に戻るように、
また「ひとつ」に戻っていくことかも知れない。

・・・生物が歳をとると、なんとなく輪郭がぼやけていくような気がする。
クリアな個から、だんだんぼやけていって、
「ひとつ」になる準備をしているのかな、と。

著者は「境界」のことをよく口にしますが、これもそんな話と繋がっているのかも知れません。
自己と他者の境界が次第にぼんやりとして、一つになっていくのが死なのだ、と。
なんだかそう考えると「死」もなかなか豊穣であるような気がする・・・。

 

 

★記録しないと、消えていく『家守綺譚』朗読劇講演

かなり前の話だと思われるのですが、著者が『家守綺譚』の朗読劇を鑑賞したときの話。
その時の演者が佐々木蔵之介さん、市川亀治郎(現・四代目市川猿之助)さん、佐藤隆太さんの三名。

著者はこのとき、舞台が次元の違う深みへと醸成されるような、
ものすごい奇跡の瞬間を見て、いたく感銘を受けたというのです。
それは、その舞台と役者、天候や観客の意識など
あらゆる要素が絡んで生み出した奇跡の瞬間であった、と。
ここに猿之助さんの名前が出てきたのにもビックリ。
もう戻ってはこないのでしょうか・・・。

 

★永遠の牧野少年

今、NHK朝ドラのモデルとなっている牧野富太郎氏の話であります。
氏の半生はまあ、およそドラマで見ていた通りなのですが、
その先のところで驚いた!!

彼の妻は、苦労続きで13人も子供を産み、
食うに困ってとうとう「待合」まで始めてひたすら彼の研究を支え続けた、とあります。
待合などとずいぶんふんわりとした表現ですが、
やはりちょっと怪しげな、そういうことですかね。
さて、ドラマではどうなるのか分かりませんが、
子供13人って、そこまでひどいとは思わなかった・・・。

夜寝る暇もなく研究していたようだけれど、やることはやっていたわけね・・・。
いやあ、なんというか、牧野富太郎氏は尊敬すべき人物と思っていましたが、
フェミニズム立場からは、ちょっと夢が覚めた感じです・・・。

 

★風の道の罠―――バードストライク

知らなかった意外な話。

風力発電の大きなプロペラは、再生可能エネルギーの代表格のように思っていたのですが、
オジロワシなどがぶつかり翼をもがれるなどの事故、
すなわちバードストライクが多発しているというのです。
そもそも風力発電施設は風の通り道に作る物。
そこは猛禽類などさまざまな鳥たちが風の力を利用して通る道でもある。

人の都合で作った物が鳥たちの大きな脅威になっているというのは、なんとも残念な話です。
なんとかこの脅威を減らす方向で研究が進むといいなと思います・・・

 

・・・と、色々と示唆に富む梨木香歩さんのエッセイは、
やはり今後も大切に読みたいと思います。

「やがて満ちてくる光の」梨木香歩 新潮文庫

満足度★★★★☆