いつどんなときにも人がいて、懸命に生きている
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朝日、読売、毎日、日経各紙で紹介。
第1回「みんなのつぶやき文学賞」国内編第1位。
「こんな小説、読んだことない」と話題の1冊が、1篇を増補し待望の文庫化!
遠くの見知らぬ誰かの生が、ふいに自分の生になる。
そのぞくりとするような瞬間――岸本佐知子(翻訳家)
学校、家、映画館、喫茶店、地下街の噴水広場、島、空港……
さまざまな場所で、人と人は人生のひとコマを共有し、
別れ、別々の時間を生きる。
屋上にある部屋ばかり探して住む男、
戦争が起こり逃げて来た女と迎えた女、
周囲の開発がつづいても残り続ける「未来軒」というラーメン屋……
この星にあった、誰も知らない34の物語。
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柴崎友香さん、私には初めての作家さんです。
本巻は短編集と言うよりも、ショート・ショートと言うべきでしょうか。
一冊の中に34篇が収められているということはつまり、一作が非常に短いのです。
でもその短いストーリーの表題が、例えばこれ。
「一年一組一番と二組一番は、長雨の夏に渡り廊下のそばの植え込みできのこを発見し、
卒業して二年後に再会したあと、十年経って、二十年経って、まだ会えていない話。」
な、なんと長い・・・。
というか、短いストーリーに長い表題。
すなわちストーリーの要約がそのまま表題。
実際、それ以上に書き記すべき出来事は実際におこらない
といっていいのかもしれません・・・。
ではありますが、その一篇一篇が静かに胸底に沈殿して残っていくような・・・、
そうした味わいがあるのです。
34篇通してのテーマは「百年と一日」の題名が示すとおり、「時間」です。
さらに言えば
時間と、人と、場所。
とある場所に、とある人がいて・・・少しのドラマ。
けれども瞬く間に時は過ぎて、先ほどの人はもうおらずにまた別の人が登場。
そうして時が移り変わっていく。
また時には、その場所は何もない美しい場所であったのが、
開発され賑やかな場となり、しかしまた時の果てにはさびれて何もなくなる・・・。
まるで神の目から見た定点観測でもあるような。
行く川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず・・・。
確かに、無常です。
でも無情ではない。
いつも人の営みがそこにあって、ほんの少し描写のあるその生活のディティールが、
いかにもリアルな人の営みを感じさせる。
いつどんなときでもどこかに人はいて、懸命に生きていると感じさせるものがある。
これまでにない不思議な味わいのある一冊です。
「百年と一日」柴崎友香 ちくま文庫
満足度★★★★★