先に登場した寺脇氏の周辺
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日常の謎の名手・北村薫による自選集!
表題作「遠い唇」のその後とは――?
コーヒーの香りで思い出す学生時代。
今は亡き、姉のように慕っていた先輩から届いた葉書には、
謎めいたアルファベットの羅列があった。(「遠い唇」)
など、2019年に刊行した全7篇に、
「遠い唇」の主人公・寺脇と、
『飲めば都』にも登場する女性編集者・瀬戸口まりえが
出会う場面を描いた「振り仰ぐ観音図」、
そして二人が再会し、句を介して関係が始まっていく様子を描いた
「わらいかわせみに話すなよ」の計2篇を加え、
ここに完全版として刊行!
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本巻、北村薫氏の短編集なのですが、
「遠い唇」は、2019年に同じく角川文庫で出ています。
それがなぜこの度また新刊として発売されているのか?
それは表題作「遠い唇」の主人公・寺脇と女性編集者・瀬戸口まりえが登場する話が、
2篇、本巻には加えられているためです。
「遠い唇」はちょっとドキドキするくらいにロマンチックかつ郷愁を誘うストーリー。
大学教授の寺脇が、学生時代の先輩・長内のことを思い出します。
ふと懐かしくなって古い書類を入れた箱の中から
長内先輩から来たコンパの通知のハガキを取り出す。
そしてその通知面を縁取るように、
アルファベットが暗号のように書き込まれているのに気づきます。
それを受け取った当時、寺脇は本人に「なんです、あれ?」と聞いたのですが、
長内先輩は「何でもないわ。いたずら書き」と答えた。
そしてその後間もなく、長内先輩は若くして亡くなってしまったのでした。
それっきり、忘れ去っていたことなのだけれど・・・。
数十年を経た今、寺脇はこれを暗号と見て、解き明かしてみる。
すると、思いも寄らない言葉が浮かび上がる・・・。
今となってはどうにもならない、しかも亡くなってしまった人の思い。
鮮烈で、そして切ないです。
というわけで、なかなか印象深いこの寺脇氏の近辺を、
著者は急に描き続けてみたくなったようです。
そして、この話は「遠い唇」と同じ本に是非とも収めたい、と。
そのことについては本巻の「付記」として詳しく書かれています。
物語の成り立ちが思い測られて、とても興味深いです。
寺脇氏とまりえさんのこれからの物語も、
またいつか読んでみたい気がします。
「遠い唇 北村薫自選日常の謎作品集」 北村薫 角川文庫
満足度★★★★★
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