映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「私たちの星で」梨木香歩 師岡カリーマ・エルサムニー

2017年12月14日 | 本(エッセイ)
世界への向き合い方

私たちの星で
梨木 香歩,師岡カリーマ・エルサムニー
岩波書店


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ロンドンで働くムスリムのタクシー運転手や
ニューヨークで暮らす厳格な父を持つユダヤ人作家との出会い、
カンボジアの遺跡を「守る」異形の樹々、
かつて正教会の建物だったトルコのモスク、
アラビア語で語りかける富士山、
南九州に息づく古語や大陸との交流の名残…。
端正な作品で知られる作家と多文化を生きる類稀なる文筆家との邂逅から生まれた、
人間の原点に迫る対話。
世界への絶えざる関心をペンにして、綴られ、交わされた20通の書簡。

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まずは、師岡カリーマ・エルサムニーさんについて。
私はこれまで存じてなかったのですが・・・。
日本人の母とエジプト人の父の間に、東京で誕生。
カイロ大学政治経済学部卒業後ロンドン大学で音楽を学ぶ。
現在、執筆活動の傍ら、NHKラジオ日本でアラビア語放送アナウンサーを務め、
複数の大学で教鞭をとるとのこと。
また、このような多忙な中でも、世界各地を飛び回っているようです。
この方と、梨木香歩さんが手紙を交わしながら、
現在の世界の人々の様相などを奥深い考察を加えつつ語っていきます。


ちょうどこの本を読み始めた時に、
エジブトで300名を超える死者が出たというISによるテロのニュースがありました。
カリーナさんにとっては第二の故郷のエジプト。
ちょうどこの本でもエジプトのテロのことに触れられているのですが、
わりとと状況は落ち着いている、とあります(2016年1月頃)。
それがこの度このようなことになり、
さぞかし胸を痛めているだろうとお察しします。
ところが、日本ではこのことについての報道はほんのおざなりで、
連日、関取のいざこざの話ばかりが繰り返されていました・・・。
情けない、ホント情けないです・・・。


それはさておき、最近日本に限らず世界でも、
自国のことばかりを優先するような「内向きの政治」に変わりつつあるという状況を、
梨木香歩さんはこんなふうに言っています。

「何か道があるはずだと思うのです。
自分自身を侵食されず、歪んだナショナリズムにも陥らない
「世界への向き合い方」のようなものが、私たちの日常生活レベルで。」

言ってみればこの本はそうしたことを紐解いているようです。
こんな時に、まさしく2国間のハーフであるカリーナさんの意識の持ちようが
参考になることは間違いありません。
グローバルでハイブリット。
世界中の混血がもっと進んだら、世の中がちょっぴりステップアップするかもしれません。


「時を超えて縦に繋いでゆく意志的な能動性と、
隣人と横につながっていくオープンな受動性。
しなやかにそのバランスを取る姿勢を大切に・・・。」



「異質を嫌い、同化を謳い、他者を排斥せずにいられない」
このような、今、世界中に蔓延し、猛威をふるうウイルスのような風潮・・・それを、
カンボジアの森が、後から来た建造物を受け入れ、
抱擁し、互いに少しづつ身をよじり、形を崩し、場所を譲り合って行ったようにできればいい・・・


理想論ではありますが、常にそんなことを心の片隅に置いておきたいものだと思いました。
「歪んだナショナリズム」に陥らないように。

図書館蔵書にて
「私たちの星で」梨木香歩 師岡カリーマ・エルサムニー 岩波書店
満足度★★★★☆



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