映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ライオンのおやつ」小川糸

2020年06月02日 | 本(その他)

死を受け入れることは、これまでの生を受け入れること

 

 

* * * * * * * * * * * *


余命を告げられた雫は、残りの日々を瀬戸内の島のホスピスで過ごすことに決めた。
そこでは毎週日曜日、入居者がもう一度食べたい思い出のおやつを
リクエストできる「おやつの時間」があった―。
毎日をもっと大切にしたくなる物語。

* * * * * * * * * * * *

癌で余命宣言を受けた雫が、残りの日々を過ごすために
瀬戸内海の島のホスピスを訪れるところから物語は始まります。
失意と恐れ。絶望。多分そうしたものでいっぱいのはずではありますが、
彼女を迎えたのは思いのほかのどかで静かな島の光景。
そして決しておし付けがましくなく入居者を見守ろうとするホスピスの人々。
決して奇跡が起こったりはせず、雫は静かに運命を全うしていくわけですが、
徐々に自分の「死」を受け入れていくさまが丁寧に描かれています。

 

このホスピスの名前が「ライオンの家」。
ライオンは百獣の王であり、彼を襲う敵はいない。
だからライオンの生活は安全で、安心。
怖いものはない。
そうした意味をこめてこの名前がついているわけです。
そのようなライオンの心持ちで、旅立っていけるように。
そしてここでは週に一度、入居者一人のリクエストによる「おやつ」が出ます。
その人の、これまでの人生の中で一番心に残っているおやつ。
それは有名店のお菓子というのではなくて、
子どもの頃お母さんがよく作ってくれた素朴なお菓子だったりするのですが・・・。
さて、雫が食べたいと思うのはどんなものでしょうか?

大好きだったおやつのこと。
病気のことを告げられなかった育ての父親のこと・・・
自分の人生を愛おしく思うことは同時に死を受け入れることにつながっているように思います。
つまり、死を受け入れることは、これまでの生を受け入れること。
この島で過ごすことで、雫は自分の生を受け入れることができたのでしょう。

 

私は常より癌で死にたいと思っていまして、
こんな本を読むとますますその思いを強くしてしまいます。
こんな風に美しく平和な島でならなおさら・・・。
ただし、現実となったら、決してこの雫さんのように穏やかな心持ちではいられず、
もっとジタバタするのだろうなあ・・・。
本作はほとんどおとぎ話なのかもしれません。
でも、通常の半分ほども長くはない人生に、どのように満足して旅立てるのか・・・。
彼女自身と周囲の人々の思いは深く私の胸にも広がって、涙が止まりませんでした。

美しい物語です。

「ライオンのおやつ」小川糸 ポプラ社
満足度★★★★☆



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2 コメント

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Unknown (翡翠)
2020-06-02 19:55:09
こんばんは(*^-^*)

うちの祖母は99歳で
天寿を全うしました。

死亡診断書には、老衰と
書かれていましたが、
実際は、大腸がんを
患っていました。

見つかったのは、亡くなる3か月前で
相当な大きさにも かかわらず
特に苦しさもなくお腹が
ちょっと痛いかなという程度でした。

私も(寿命が)そろそろかな~と
笑いながら、病院の隣にパン屋が
出来たから買って来てと言ったり
マイペースでした。

今 お腹が空いてないから
晩御飯は、後で食べるよ~
それが最後の言葉でした。

心も乱さず、穏やかな最期でした。
私も祖母のように天寿を全う出来たら
良いなと思っています (^^)






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Unknown (たんぽぽ)
2020-06-04 09:42:25
翡翠さま
99歳ですか!!
そして穏やかに天寿を全う。
本当に、私もそのような最期を理想としているのですが、
こればっかりは思うようにはなりません。せめて長く寝たきりにならないようにと、
適度に運動を心がけています・・・。
ご丁寧なコメント、いたみいります。
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