女はたくましく生きていく
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日本未公開作品。
チェーホフの戯曲「かもめ」の映画化です。
とは言っても、その題名だけは聞いたことがあるような気もするけれど、
実際には見たことも読んだこともない、未知の作品。
イリーナ(アネット・ベニング)というベテラン舞台女優が、
拍手喝采のうちに舞台を降りると、
兄が危篤であるということを聞き、急ぎ田舎へ戻る、
という所から話は始まります。
田舎に集う人々。
実はイリーナがここを訪れるのは2年ぶりで、
その2年前の出来事こそが本作のストーリー。
イリーナは有名作家ボリス(コリー・ストール)と愛人関係で、同行しています。
イリーナの息子コンスタンチン(ビリー・ハウル)は作家志望の青年。
この地にニーナ(シアーシャ・ローナン)という恋人がいます。
ニーナは女優を目指しており、敬愛するボリスに会えたことで舞い上がっています。
そして、ボリスの成熟した男の魅力にひかれ、女優志望にもますます火がついていく。
彼女の眼中に、もうコンスタンチンはありません。
ニーナに捨てられ、自己の作家としての才能も信じ切れなくなった
コンスタンチンは自殺を図りますが・・・。
その場は、命を取り留めたコンスタンチン。
一方ニーナは、女優を目指してモスクワへ出て
ボリスと共に暮し始めるのですが、それもつかの間・・・。
ニーナがボリスに恋をして、自分の夢を語るシーンが印象的です。
若く、みずみずしくてキラキラと輝いている。
どんな未来をも切り開いていけそうな自信に満ちている。
けれど、時というのは残酷なもので、結局ボリスとはうまく行かなくなり、
女優にはなったものの、有り余る才能というほどのものは無かったようで、
3流のドサ回り女優止まり。
コンスタンチンも、その後物書きとして歩み始めましたが、
酷評を受けたりして落ち込みます。
若く、未来が揚々と広がっているように思えたあの頃・・・。
でも夢は叶わず、苦しみばかりが多い。
そんな時、女はそれでも歯を食いしばり生きようと思う。
けれど男は絶望して生きていく気力さえも失ってしまう・・・。
そういう物語なのかと思いました。
ところで、イリーナとボリスはやり直してまた親密になっているのです。
若き日にあまりにも大それた夢を抱くと、それが破れたときの苦しさが大きい。
けれど、一定年齢の大人は、さして大きな望みも持たず、
とりあえずこのまま生きていければ良いと思っている。
こんな人にとっては相変わらず平穏な年月が流れていく。
これは、あまりにもチャレンジ精神のない日和見的な生き方なのか・・・?
う~ん、とは言っても、多くの人がこうして生きていくのかも知れません。
そうそう、作中もう一人気になる人物がいて、
この屋敷の支配人の娘・マーシャです。
彼女はコンスタンチンを強く愛しているのですが、
コンスタンチンはニーナに夢中でマーシャの気持ちなど考えてみたこともない。
完全なるマーシャの片思いです。
彼女はその自分の愛を葬り去るために、常に黒い服=喪服を着ているのです。
そして、どうしたって自分の思いが叶わないと知ったときには、
思いあまって以前から自分に言い寄っていた貧乏教師と結婚してしまいます。
苦しみの中でも、とにかくまずは生きようとする、
やはりそういう女性像なのかも知れません。
<WOWOW視聴にて>
「かもめ」
2018年/アメリカ/99分
監督:マイケル・メイヤー
出演:アネット・ベニング、シアーシャ・ローナン、コリー・ストール、エリザベス・モス、ビリー・ハウル
人生模索度★★★★★
満足度★★★☆☆
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