父親だけど「父」ではない
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シャイア・ラブーフが自らの経験を元に脚本を手がけ、
主人公の父親役で出演という話題作。
ハリウッドで活躍する俳優22歳オーティス(ルーカス・ヘッジズ)は、
泥酔して車を運転し、事故を起こします。
そして更生施設へ送られ、彼にはPTSDの兆候があると診断されるのです。
戦争に行ったわけでも、大きな事故に遭ったわけでもないのに・・・と、彼は愕然としますが、
彼は自己の過去の記憶をたどってみるのです。
特に、父親のこと・・・。
12歳オーティス(ノア・ジュプ)は、すでにハリウッドで人気子役として仕事をしていました。
そのマネージャー役をしているのが父ジェームズ(シャイア・ラブーフ)。
父は癇癪持ちで、思うように事が運ばなければ怒鳴り散らします。
実のところ、彼には前科があり、無職で、アルコール依存症でもある
(ただし、この時点では禁酒を続けています。)
オーティスはその父に気を使い、常に顔色を見ているようでもあります。
そして、そんな父子を周囲の人々が心配げに見守っています。
ジェームズは、実のところ息子の収入で生活していることに引け目を持っていたのではないかと思います。
だから余計に、すべては自分が仕切っている、自分が支配していると思おうとしていた・・・。
この頃、この父子はモーテル暮らしなんですね。
いくら子役でも、オーティスはそれなりの収入を得ていただろうと思えるのですが・・・。
そんなところも、父親の変なプライドが透けて見えます。
作中ではオーティスが暴力を受けているような状況ではなかったのですが、
この、恐るべき父親の圧力・支配力は、やはり心の傷になり得るのかもしれない、と思えるのでした。
でも家族というのは不思議です。
それでもやはり父親だから、オーティスは父を嫌いだとは思っていないし、
もっと愛されたいと思っているのです。
自分が父に支配されているとは思っていない。
この圧倒的支配力は、父親というよりもむしろグレートマザー的のような気がします。
ジェームズが「父」であれば、いつか息子は彼に反発するか乗り越えるかするものですが、
ジェームズは「乗り越える」べき「父親」になり得ていない。
ジェームズ自身が父親にも大人にもなりきれていないのでは・・・と、そんな風に思いました。
そんなことなので、オーティスは「父子の相克」を経ずして、ただただ支配されていた。
そこで生じた問題なのかもしれません・・・。
TVや映画で活躍する子役は、成長後いろいろな意味で苦労するという話はよく耳にします。
それは本人の問題でもあるけれど、
その家族もまた、人気者でお金持ちの子どもがいることでねじれていく、
そういう問題もあるのだろうなあ・・・。
ストーリー自体は割と単調で起伏がないのですが、
色々と世間をお騒がせしたシャイア・ラブーフさんのルーツがここにある
と思うとなかなか興味深い作品です。
<シアターキノにて>
「ハニーボーイ」
2019年/アメリカ/95分
監督:アルマ・ハレル
出演:ノア・ジュプ、ルーカス・ヘッジズ、シャイア・ラブーフ、FKAツイッグス
トラウマ度★★★★☆
満足度★★★☆☆
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