怪異よりも恐いもの
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当代一の影絵師・富右治に大店から持ち込まれた奇妙な依頼とは(「化物蝋燭」)。
越してきた夫婦をめぐって、長屋連中はみな怖気を震うがその正体は?(「隣の小平次」)。
名手が江戸の市井を舞台に描く、切なく儚い七つの大江戸奇譚集。
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木内昇さんの、江戸を舞台としたちょっぴり不思議で恐い短編集。
表題の「化物蝋燭(ばけものろうそく)」は、影絵師・富右治に奇妙な依頼が舞い込みます。
菓子屋の屋敷の怖がりの男を追い出すために、夜中に影絵で脅してほしい、と。
不審な話だと思いながらも、その依頼を引き受けて、
夜毎屋敷に通うようになる富右治。
でもその依頼は、老舗菓子屋の跡継ぎの問題も絡んでいて・・・。
となると陰惨な後継ぎ争いに巻き込まれてしまう話?とも思えるのですが、
実はそうではなくて、
いろいろな人の真摯で温かな思いが絡み合った事情が次第に見えてきます。
怪異=恨みや恐怖ではなくて、人間らしい思いのこもったものもあるわけだなあ
・・・と思いました。
特に本巻は、そういう話が多いと思います。
ところがそんな中で、私が一番恐いと思ったのは「幼馴染み」
おのぶとお咲は幼い頃からいつも一緒にいた幼馴染み。
おのぶは積極的で勇ましい性格。
一方お咲は内気で人見知りが激しく、そして色白でカワイイ。
それなのでいつもおのぶがお咲をかばうような関係になっていったのです。
お咲の父親は飲んだくれのどうしようもない男ですが、
ある時かまどにかけた大鍋をひっくり返した事故で亡くなってしまう。
やがておのぶは、お咲とともに同じ店へ奉公に出ます。
これも、お咲が見知らぬところに一人で働きに入るのは難しかろうと、
おのぶが考えたから。
しばらくすると、おのぶには恋人ができるのですが、
お咲が、今はまだ他の人に知られない方がいいから自分が仲立ちをする、と言います。
おのぶは、会う日や場所などをお咲から相手に伝えてもらうようにするのですが・・・。
信頼できるかわいらしい妹分と思っていたお咲は、
実はとんでもない闇を抱えていた・・・。
それも、彼女には「悪意」の自覚がないのです。
人の気持ちを推し量るようなことはなくて、あくまでも自分自身のため。
そして、それが悪いこととは思わず、
大抵のことはにっこり笑えば周囲はみんな許してくれる・・・。
こんな人物とは関わりたくないものです。
まさに、怪異よりも人の心の方が恐い・・・。
「化物蝋燭」木内昇 朝日新聞出版
満足度★★★★☆
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