「春のオルガン」 湯本香樹実 新潮文庫
小学校を卒業した春休み、少女トモミの物語。
小学校の卒業後、中学の入学前、という微妙な時期がポイントなのですね。
子供と大人の合間、思春期のほんの入り口。
このような時期をうまく捕らえています。
この春休み、トモミはほとんど弟のテツと行動を共にします。
のらねこをさがしたり、ガラクタ置き場のバスに寝泊りしたり・・・。
こういうことは、実際、コドモがすることなのですが、その「子供」体験をなぞりながら、そのことに訣別していくのかも知れないと思いました。
両親の不和、祖母の亡くなったときの記憶、隣家とのトラブル・・・
決して、愉快なことばかりではない身の回りとどのように折り合っていくのか。
答えを見つけながら、子供から大人へ、脱皮していく、そんなさまが描かれています。
この中で、好きだったのは、猫おばさんでして・・・。
毎日、野良猫たちのために、食べるものを運んでいたのですね。
まあ、普通の人から見れば変人と映るかも知れない。
けれど、トモミとテツは、おばさんの人柄に触れ、えさやりを手伝うことによって何かの救いを見出していく。
一人暮らしのおばさんのこれまでの人生とは・・・?
とても知りたい気がしますが、この本ではそれは語られません。
両親の不和のこととか、隣の家のおじいさんのこととか・・・、
結果がないままに本は終わってしまうのですが、決して悪い方にはいっていない。
そのように予感されるなんだかステキなストーリーでした。
・・・やっぱり私は誰が書いたにせよ、少年少女の出てくる話は基本的に好きですね・・・。
まだ固まりきらない、瑞々しい感覚がそこにあるので・・・。
こればっかりは、もう自分では取り返しがつかないし、
せめてストーリーの中だけででも、味わいたい・・・と思ったりします。
満足度★★★★
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