バーチャル母は、ホンモノなのか?
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工場で働く、石川朔也(池松壮亮)。
独身、母(田中裕子)と同居。
その日、母から「大切な話をしたい」と言われるのですが、帰りが遅くなってしまいます。
帰り道、豪雨で氾濫しそうな川べりにたたずむ母を目撃。
そして不意に母の姿が消えてしまいます。
母を助けようと川に飛び込んだ朔也は、昏睡状態となり、
それから一年後に目覚めます。
そして、母が“自由死”を選択して死亡したことを知ります。
たった一年の間に、変貌している世界。
朔也の勤務先の工場はロボット化のため閉鎖。
やむなく朔也は、“リアル・アバター”の仕事に就きます。
それは、カメラを搭載したゴーグルを装着し、
遠く離れた依頼人の指示通りに働く、というもの。
でもそれは、いつもまともな依頼者とは限らないのです・・・。
そしてまたそんな頃、朔也は仮想空間に任意の人間を作るという
VF(バーチャル・フィギュア)の存在を知り、母を作ってもらうことにします。
生前の母のあらゆるデータを制作者に提供することによって、
ゴーグルを装着すればまるで生きた本人そのものがその場にいるように見えて、
話をすることもできるのです。
その母のデータ提供に協力してくれたのが、母の親友だったという三好(三吉彩花)。
三好は住むところがないというので、朔也は同居を提案。
バーチャル母を含めて3人の暮らしが始まります・・・。
近未来が舞台ではありますが、もうそれは未来ではなく
現在であってもおかしくないくらいですね。
まずは自由死とは・・・。
自分の意志で命を絶つことが「権利」として認められる、というようなことかな?
そうすると、遺族に給付金があって、税金でも優遇されるとか。
今の老齢化社会の対策ですかね?
希望すれば安楽死も。
そんなことがあってよいのかという批判はもちろんあるでしょうけれど、
私はちょっと魅力を感じたりもします・・・。
しかし、問題はそこではなくて、デジタルが人の生活にどこまで食い込んで、
人間性を剥奪していくのか、あるいはそうではないのか、ということ。
朔也は、あの日母が何を自分に言おうとしていたのか、
そしてなぜ自由死を選んだのかということを聞きたくて、母のVFを作ったのでした。
これまでのデータの蓄積で作られた「母」。
それは本当に母そのものの思考をするのか?
しかし、母そのものとはいったい何なのか?
VFの母は、自分が思っていた母とは違うようでもあるのだけれど・・・。
母の本心とは・・・?
というテーマではあるのですが、本作は、
三好の本心、そして朔也自身の本心も曖昧になってくるという罠がありますね。
ぐるぐる、色々と考えてしまう作品なのでした。
地味に、豪華キャストが出演してます。
三吉彩花さんが、三好彩花役って・・・?
リアルアバターの仕事は、真っ先にブラックバイトの餌食になりそうですよね・・・。
<シネマフロンティアにて>
「本心」
監督・脚本:石井裕也
原作:平野啓一郎
出演:池松壮亮、三吉彩花、水上恒司、仲野太賀、田中泯、綾野剛、妻夫木聡、田中裕子
末恐ろしさ★★★★☆
満足度★★★★☆