映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「グラスバードは還らない」市川憂人

2021年05月13日 | 本(ミステリ)

一大スペクタクル!

 

 

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マリアと漣は、大規模な希少動植物密売ルートの捜査中、
得意取引先に不動産王ヒュー・サンドフォードがいることを掴む。
彼にはサンドフォードタワー最上階の邸宅で、
秘蔵の硝子鳥や希少動物を飼っているという噂があった。
捜査打ち切りの命令を無視してタワーを訪れた二人だったが、
あろうことかタワー内の爆破テロに巻き込まれてしまう!
同じ頃、ヒューの所有するガラス製造会社の社員とその関係者四人は、
知らぬ間に拘束され、窓のない迷宮に閉じ込められたことに気づく。
傍らには、どこからか紛れ込んだ硝子鳥もいた。
「答えはお前たちが知っているはずだ」というヒューの伝言に怯える中、
突然壁が透明になり、血溜まりに横たわる社員の姿が…。
鮎川哲也賞受賞作家が贈る、本格ミステリーシリーズ第3弾!

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市川憂人さんのマリアと漣のシリーズ第3弾。

大規模な希少動植物の密売ルートの捜査というところから物語は始まるのですが、
今回メインとなる科学技術は、ガラスの屈折率。
ガラスの屈折率を操ることで、どんなことができるのか、というのがキモです。

しかしそのことが問題になるのは割と最後の方。
なんといっても、超高層ビルの爆破・火災事故に巻き込まれ、
これまで最大の危機一髪を迎える“無駄に美人”のマリアのところが、見所であります。

 

このストーリーの舞台は1983年年末から1984年年始にかけてのU国N州M地区。
・・・つまりニューヨークはマンハッタンを想像させるわけですが、
ここで起こる超高層ビルの爆破事件とその少し後に起きる大崩壊という、
私たちにはおなじみの大スペクタクルが繰り広げられるのです。
時も事情も全く別ではありますが、
そのビルにマリアがいるというわけで、これはもう、目が離せない。

本作はシリーズ前作の設定や出来事がそのまま踏襲されており、
飛行船「ジェリーフィッシュ」が飛び交う世界。
ここでも大きな役割を占めています。
青いバラが登場するのもご愛敬。

 

さて、そのビルの最上階で関係者全員の死体が発見される。
まさに、「そして誰もいなくなった」状態。
そこは完全な密室状態で、自殺とみられる痕跡は皆無。
犯人は一体どこへ消えたのか?
というのがメインの謎であります。

ストーリーとしては、確かにたっぷり楽しめました。
けれど、大富豪の「悪趣味」や、革新的科学技術、殺人計画、偶発性・・・
どれをとってもあまりにもあり得なさそうなのが引っかかります。
これはもう、SFをも超えてファンタジーの域でしょうか。

 

図書館蔵書にて(単行本)

「グラスバードは還らない」市川憂人 東京創元社

満足度★★★☆☆


世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ

2021年05月12日 | 映画(さ行)

闘争の人生から

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南米、ウルグアイ第40代大統領、
その質素な暮らしぶりから「世界で最も貧しい大統領」とも称された
ホセ・ムヒカ氏のドキュメンタリーです。

ホセ・ムヒカ氏、この写真だけ見るとなんとも柔和そうなおじさんなのですが、
実は波瀾万丈な人生をたどっています。

極貧家庭に育ち、左翼ゲリラとして権力と戦い、
13年に及ぶ拘留生活を体験しているのです。
若い頃には富裕層から金品を強奪、また時には銀行強盗などもした。
そして貧民層へそれを分かつことも・・・。
実のところ犯罪者でもあったわけですが、
その強い思想、信念を貫き通し、ついには大統領にまでなる、と。
これまでに受けた銃弾は十数発にもなるとのことで、これには驚かされます。
そのうちの一つの傷はかなり重く、今も脾臓がないのだとか。

なんという壮絶な人生。
そして、自らが権力の座に就いたときにはたいていの場合
その権力の座を利用して私腹を肥やしていくものですが、
彼は変わらず質素な生活を続け、畑を耕す。
ちなみに奥様も若き日からの同士であり、
年老いた今も、若かりし日の美貌を彷彿とさせるステキな方です。

貧民層のために住宅を建てたり、学校を作ったり、
ようやく彼が本当にやりたかったことをやりとげているように思えます。
大統領自ら子どもたちに農作を教えるなんて、スバラシイ。

かつての刑務所の建物を利用し、ショッピングモールができており、
かつてそこに収監されていたムヒカ氏がそこを訪れる等というシーンもありまして、
これもまた驚くばかり・・・。

 

日本も含めて、多くの資本主義国家、そこで暮らす私たちも、
時にはこんな社会のことを見つめ直してみるのもいいのかも。

 

<WOWOW視聴にて>

「世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ」

2018年/アルゼンチン・ウルグアイ、セルビア/74分

監督:エミール・クストリッツァ

出演:ホセ・ムヒカ、ルシア・トポランスキー、エレウテリオ・フェルナンデス=ウイドブロ、マウリシオ・ロセンコフ

 

闘争の人生度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


イーダ

2021年05月11日 | 映画(あ行)

亡き人への鎮魂の旅

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第87回アカデミー賞(2015年)外国語作品賞受賞作。
歴史の波に翻弄されたポーランドを舞台とした、全編モノクロ作品。

60年代初頭、孤児として修道院で育った少女・アンナ(アガタ・チェシェブホフスカ)。
まもなく修道女となる予定です。
その前に、唯一の肉親である叔母と過ごすようにと言われ、
アンナは叔母の住む町へ。
そしてアンナは初めて会った叔母・ヴァンダから、
自分の名が本当はイーダ・ベルンシュタインで、ユダヤ人であることを明かされます。

両親は何故自分を捨てたのか、そして両親はどうなってしまったのか・・・? 
その秘密を探るため、イーダはヴァンダと共に旅に出ます。

モノクロの映像は、ロードムービーとなる部分でも、
まるで修道院の中であるかのような静謐さを感じさせます。
叔母は実は人に恐れられるほどの敏腕検察官として仕事をしていますが、
酒とたばこ、男に溺れる寂しくすさんだ生活をしていたのでした。
だからイーダを引き取るという選択もあったのですが、
彼女はそれを拒み、イーダに対してもさほどやさしさを見せません。

両親がユダヤ人と言うことで、その末期もおよそ想像が付くわけですが、
ここで彼らに襲いかかったのはドイツ軍ではなく、地元の人々なのです。
人々はそんな過去を忌まわしいものとして忘れ去りたく思っており、
両親のことを尋ねるイーダとヴァンダに対して口が重いのです。
ヴァンダにとっては自分の見てきた出来事であり、今のすさんだ生活の元もここにある。
そしてヴァンダはイーダの両親の行方を捜すことに、
もう一つの目的を秘めていたのです。
今再び封印してきた忌まわしい記憶と向き合い、
そしてもう一つのある事実を確認したとき、
そこで彼女は生きる意味を失ってしまう・・・。

この旅は結局、亡き人への鎮魂の旅。
なんともやりきれない物語です。

けれどそれまでイーダは、他にすべがなく、仕方なく修道女になろうとしていました。
でも今、彼女は流されてそうなるのではなく、自分の意志で道を選び取る。
そこが光り輝いていました。
それはちょっぴり私の期待した方向とは違うのですが、
逆に苦難の道と思えるのです。
本作においてはやはりこれが正解なのかも。

 

<WOWOW視聴にて>

「イーダ」

2013年/ポーランド・デンマーク/80分

監督・脚本:パベウ・パブリコフスキ

出演:アガタ・チェシェブホフスカ、アガタ・クレシャ

歴史発掘度★★★☆☆

静謐度★★★★☆

満足度★★★★☆

 

 


「熱帯」森見登美彦

2021年05月10日 | 本(その他)

物語の迷宮

 

 

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汝にかかわりなきことを語るなかれ――。
そんな謎めいた警句から始まる一冊の本『熱帯』。
この本に惹かれ、探し求める作家の森見登美彦氏はある日、
奇妙な催し「沈黙読書会」でこの本の秘密を知る女性と出会う。
そこで彼女が口にしたセリフ「この本を最後まで読んだ人間はいないんです」、
この言葉の真意とは? 

秘密を解き明かすべく集結した「学団」メンバーに神出鬼没の古本屋台「暴夜書房」、
鍵を握る飴色のカードボックスと「部屋の中の部屋」……
幻の本をめぐる冒険はいつしか妄想の大海原を駆けめぐり、謎の源流へ!

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本作は「熱帯」という一冊の謎の本にまつわる物語。

誰もこの本を最後まで読んだ人がいないというのです。
続きを読みたくても、どこの書店に古本屋にも、ネットの情報にも引っかからない。
この本を読んだことがあるという人々はいつしか集まり、
その内容について覚えていることを話し合うようになります。
しかし始めの方は皆なんとか思い出せるのですが、
途中からは誰も思い出すことができない。
そもそも誰も最後まで読んでいない。
読もうとしてもある日突然本が消え去っていた・・・?

 

次第に私たちは物語の中に引き込まれ、
そして、自分のいる物語上の位置を見失っていく。
誰が語り手の場面なのか。
どの話とつながっているのか。
過去、未来、現在、そして己の立つ位置があやふやになり、幻惑されていきます。

 

本は単なる文字の連なりに過ぎないけれど、
いつしか自分自身が「本を読んでいる自分」から離れて、
どこか遠くの異界にワープしているような・・・
そんな気になることが確かにありますね。
私がいちばんそんな風に感じたのは、栗本薫さんの「グインサーガ」でした。
よく心がノスフェラスの砂漠をさまよったりしたものです・・・。

そんな感覚を、森見登美彦さんが物語に仕立て上げた本なのであります。

 

この本は多分、しっかりと起承転結として完結していないと納得できない人には、
満足しにくいのではないかと思います。
なんだかよくわからないけれど、幻想的な雰囲気が好き、と思える人なら、マル。
私はどちらかというと前者なので、
正直、すごく面白かったとは思えなかったのですが・・・。

図書館蔵書にて

「熱帯」森見登美彦 文藝春秋

満足度★★★☆☆

 


透明人間

2021年05月09日 | 映画(た行)

現代の透明人間

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異様に支配欲・独占欲の強い天才科学者エイドリアン(オリバー・ジャクソン=コーエン)に
束縛された生活を続けていたセシリア(エリザベス・モス)。
ある日ついに脱出を図り成功しますが、その後エイドリアンは自殺。
莫大な財産の一部を彼女に残します。
ようやく安心できる生活に戻った・・・と思ったのもつかの間、
セシリアは周辺に何者かの気配を感じるようになります。

あの粘着質の夫が自殺なんかするわけがない。
光化学の研究をしていた彼は、姿を見えなくする何かを開発したのではないか。
彼女はそのように確信を深めます。
そしてその何者かは、彼女の周囲の者に危害を加え始めますが、
彼女が暴力を振るったと周囲の人は思うのです。
目に見えない何者かがやったことだと言っても信じてもらえず、
セシリアは精神の異常を疑われてしまいます・・・。

なかなか恐ろしい展開。
この濡れ衣を晴らすのはなかなか難しそうです。

昔は「透明人間」になるためには薬品を飲んでいましたよね。
でもあれ、周囲にその存在を知られないためには素っ裸にならなくてはなりません。
寒いし、その正体が現れる時にかなりみっともない・・・。

しかしこの場合は、最先端の光化学で開発したスーツを着用するのです。
光の屈折をどうにかこうにか(?)するのでしょう、多分。
全身タイツみたいなものなので、万一その透明性能が損なわれても、
その時点ではまだ誰なのかわからないというところもミソですね。

ラストはやはり今様のヒロイン。
うん、今時の女性はこうでなくては。
女は弱いなんて思い込んでいるとしっぺ返しを食らいますよ。

 

<Amazonプライムビデオにて>

「透明人間」

2020年/アメリカ/122分

監督・脚本:リー・ワネル

出演:エリザベス・モス、オリバー・ジャクソン=コーエン、オルディス・ホッジ、ストリーム・リード

 

男の執着度★★★★★

満足度★★★☆☆

 


シェイクスピアの庭

2021年05月08日 | 映画(さ行)

帰還したシェイクスピアを迎える女たち

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シェイクスピアの晩年を描きます。

1613年6月、「ヘンリー8世」上演中のグローブ座が火災により焼失。
ウィリアム・シェイクスピア(ケネス・プラナー)はこれを機に、ロンドンを去り、
20年ぶりに故郷、ストラットフォード・アポン・エイボンへ帰ってきます。

そこでは妻(ジュディ・デンチ)と独身の次女が暮らしています。
長女はすでに嫁いでいますが、同じ町にいます。
しかし、20年も帰らなかった夫・父の帰還に戸惑いを隠せません。

そしてシェイクスピアには一人息子がいたのですが、病で夭折しています。
その時シェイクスピアは多忙で、その葬儀にすら出席していませんでした。

そして今、17年前に逝った最愛の息子を悼むため、庭を造ろうと思い立ちます。

シェイクスピアは、ロンドンにあれば、偉大な詩人であり劇作家である彼を知らぬ者はなく、
誰からも賞賛され、敬われる立場であったでしょう。

ところが、家族の前では寄る辺のないただ一人の老人になってしまうのです。
妻は彼を寝室には入れず、客室に通します。
娘婿は、さっそく遺産相続の心配を始める。
町の人々はもちろん彼の名声を知ってはいるけれど、
宗教上のことから詩だの演劇だのは浮ついた遊びくらいにしか思っておらず、
あまり歓迎していない様子・・・。

どうにも身の置き所のない彼が、庭造りを始めるというのも納得。

葬儀には来られなかったけれど、
シェイクスピアは一人息子には少なからず期待をしていたのです。
それはもちろん、跡継ぎとして。
そして息子にも詩の才能がありそうなことを知って誇らしく思っていた・・・。

しかし娘たちは、女には「結婚して子どもを産む」以上のことを期待されていないことを悟っており、
弟ばかりが父にかわいがられることを、理解しながらもやりきれない思いでいたのです。

そしてなんと、妻も、娘も字が読めません。
かろうじて長女だけは読めるのですが。
これこそが、女に教育など必要ない、男子さえ生めば良い、
そういう当時の風潮を如実に表しています。

本作は、シェイクスピアの物語というよりも、この女性の立場を前面に描かれており、
そういう意味では極めて現代にマッチした作品なのです。
実は次女は字が読めないながらも詩を作っていて、
その詩を弟が書き留め、シェイクスピアがそれを目にしていた・・・という真実。
そうした意外な展開も興味深い、いい作品だと思います。
ケネス・プラナーが監督にして主演。

<WOWOW視聴にて>

「シェイクスピアの庭」

2018年/イギリス/101分

監督:ケネス・プラナー

出演:ケネス・プラナー、ジュディ・デンチ、イアン・マッケラン、
   キャスリン・ワイルダー、リディア・ウィルソン

時代性★★★★☆

満足度★★★★★


「金春屋ゴメス 異人村阿片奇譚」西條奈加

2021年05月07日 | 本(SF・ファンタジー)

時は近未来、日本領土内「江戸国」の続編

 

 

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ときは近未来、ところは日本領土内、鎖国状態の「江戸国」。
上質の阿片が海外に出回り、江戸国は麻薬製造の嫌疑をかけられる。
極悪非道で知られる長崎奉行ゴメスは、異人たちが住む麻衣椰(マイヤ)村に目をつける。
辰次郎が想いを寄せる女剣士朱緒の過去が絡み合い、事態は思わぬ展開を見せるが――。
「日本ファンタジーノベル大賞」大賞受賞作の続編、待望の文庫化!
『芥子の花―金春屋ゴメス―』改題。

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西條奈加さんの「金春屋ゴメス」シリーズ第2作です。

月に人が移住して住んでいるという近未来。
そうした近代文明に背を向けて、
江戸時代同様の生活を送ろうという人々が集まり建国した「江戸国」。
前作で、日本からこの「江戸国」にやって来た辰次郎は
そのまま長崎奉行ゴメスの元で働いています。

 

そんなところに起きた事件は、
江戸国が麻薬製造の嫌疑をかけられたため、その麻薬の流出元を探ろうとする物語。
これが驚きのスペクタクルな展開を見せまして、
もう、私的にはやんややんやの喝采状態。
なんて痛快なストーリーでありましょう!

 

続編というのは大抵前作の二番煎じで期待ほど面白くないということも多いのですが、
今作については断然一作目よりこちらの方が面白いです。
まあ、前作は、この物語の設定自体を説明していかなければならないし、
何しろ著者のデビュー作でもある、ということで仕方ないのですけれど。
そしてシリーズものは、舞台設定も登場人物もしっかり把握済みなので、
すんなりストーリーに入っていけますし。

単行本にはなかった「ゴメスおまけ劇場」というのが文庫版には付加されているので、
それもお得です。
ゴメスのむちゃくちゃぶりがなんとも楽しい!

 

しかし本作2006年にでて、残念ながらその続きは出ていないのですね。
続きが読みたいな~。

 

「金春屋ゴメス 異人村阿片奇譚」西條奈加 新潮文庫

満足度★★★★★

 


白ゆき姫殺人事件

2021年05月06日 | 映画(さ行)

報道が一人歩きして

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私は湊かなえさんに苦手感があって、本作、見ていませんでした。
でもまあ、見るとやはり面白いですね。

日の出化粧品の美人社員、三木典子(菜々緒)が、何者かに惨殺されます。
そして典子と同期入社の城野美姫(井上真央)に疑惑の目が向けられ、
TVのワイドショーでは美姫の会社の同僚や、かつての同級生、故郷の人々や家族を取材。
噂が噂を呼んで、報道やネット上でも無責任な話が飛び交い始め・・・。

そもそもの疑惑報道の元は、赤星(綾野剛)なのです。
赤星の元恋人・里沙子(蓮佛美沙子)が、典子や美姫と同じ会社に勤めており、
彼女の話を聞いた赤星が、そのまま即ツイッターに書き込んでいった為に起こった騒動。

典子は見るからに美人で、気が利いて、何をやってもそつがない優秀なOL。
一方、城野美姫は、まさに「お城のお姫様と」いう名前に完全に負けていて、
地味~な存在。
こんなことが、人々の憶測をかき立てたのですね。
だがしかし、元々は里沙子1人の「想像」にしか過ぎなかったのですが・・・。

全然絵空事には思えないストーリーでした。
作中のワイドショーの光景も、いかにも実際にありそうな作りでした。
本作では、報道や世間の噂に惑わされず、
警察が地道に捜査を続けていたということが救いです。

事実がわかってみれば、実はスーパーOLと見えていた典子も、
決してそうではなかった・・・。
まるで夢から覚めたよう。
真実は決してテレビのニュースやネットの上にはない。
と、心してかかった方が良いのかも。

 

<WOWOW視聴にて>

「白ゆき姫殺人事件」

2014年/日本/126分

監督:中村義洋

原作:湊かなえ

出演:井上真央、綾野剛、蓮佛美沙子、菜々緒、貫地谷しほり、染谷将太、生瀬勝久

思い込みの怖さ★★★★☆

意外性★★★.5

満足度★★★★☆

 


ザ・ゴールドフィンチ

2021年05月05日 | 映画(さ行)

これぞ、「物語」

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13歳の少年テオは、メトロポリタン美術館で爆破テロに遭い、母を亡くします。
天涯孤独となった彼は、裕福な同級生の家に身を寄せますが、
新たな生活になじみ始めた頃、行方をくらましていたアルコール依存症の父が迎えに来ます。
その後も運命に翻弄されながら波乱に満ちた人生を歩むテオ。
彼が心のよりどころにしていたのは、
あの日、破壊された美術館から持ち出した名画
「ゴシキヒワ(ゴールドフィンチ)」だった・・・。

 

名画の行方を追う物語でありながら、
テオの少年期から青年期までの人生を描く物語でもあるのが興味深いところです。

 

母を亡くした少年が、裕福な家庭の美しい母親(ニコール・キッドマン)に憧れを抱き、
やがてその家の家族として受け入れられようとする寸前、父親が現れる。
本来それは幸運な出来事であるはずが、全く余計なことでした。
父は別の女性とど田舎の寂れた街に暮らしており、
テオはニューヨークの親しい人々と別れ、そこに引き取られることになるのです。

 

その地でできた友人は、確かに気のいいやつではありましたが、
これがまた家庭に問題があるせいか、盗みや麻薬をテオに教授します。
やがて父親が借金のために、テオの母親がテオのために残した財産を
横取りしようとしていたことが発覚。
テオは家を飛び出し再びニューヨークへ。
けれどそんな時、彼を受け入れてくれる人がいたりするのが嬉しい。

青年期のテオ(アンセル・エルゴート)の恋模様やビジネスの手腕、
これもまた波乱含みで、全然飽きません。
しかし彼がずっと大切に持ち続けていた名画が実は・・・というところが驚き。

これぞ「物語」ですな。

 

<WOWOW視聴にて>

「ザ・ゴールドフィンチ」

2019年/アメリカ/149分

監督:ジョン・クローリー

原作:ドナ・タート

出演:アンセル・エルゴート、オークス・フェグリー、アナイリン・バーナード、
   フィン・ウルフハード、ジェフリー・ライト、ニコール・キッドマン

物語性★★★★★

満足度★★★★☆

 

 


「金春屋ゴメス」西條奈加

2021年05月04日 | 本(SF・ファンタジー)

「江戸国」と流行病

 

 

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近未来の日本に、鎖国状態の「江戸国」が出現。
競争率三百倍の難関を潜り抜け、入国を許可された大学二年生の辰次郎。
身請け先は、身の丈六尺六寸、目方四十六貫、
極悪非道、無慈悲で鳴らした「金春屋ゴメス」こと長崎奉行馬込播磨守だった!
ゴメスに致死率100%の流行病「鬼赤痢」の正体を
突き止めることを命じられた辰次郎は――。
「日本ファンタジーノベル大賞」大賞受賞作。

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西條奈加さんのデビュー作にして日本ファンタジーノベル大賞受賞作。
ファンとしてはやはりこれは読んでおかなくては、と思いまして。
ファンタジーということで、何やら型破りな設定なのです。

 

近未来の日本で、「江戸」が独立したという・・・。
その昔の「江戸」が土地ごとタイムスリップしてきたというのではなく、
近代文明を拒否した人々が、電気のない江戸時代の生活をしようと
「江戸国」を立ち上げたと言う。
そんな物好きな・・・とも思いますが、
例えばアメリカにおけるアーミッシュのように、
昔ながらの自給自足の生活に憧れるというのはわかります。
テーマパークなら観光客で賑わうところですが、
この「江戸」は鎖国体制を敷いていて、
ごく特別な許可を得たわずかな人しか出入国はかないません。

 

と、説明ばかり長くなりましたが、
本作は大学生の辰次郎が入国を許可され、江戸入りするところから始まります。
彼はこの江戸で生まれたのですが、幼少時に大病を患い、
江戸内では治療が難しいと、泣く泣く両親が江戸を離れて日本へ移住していたのでした。
江戸を一度離れると再び入国できないという決まりがあったのです。

実はその幼い辰次郎がかかった病が問題で、
なんと近年江戸でまたその病が発生したという。
致死率ほぼ100%。
なのになぜ辰次郎は生き残っているのか。
そういう謎を解いていく物語です。

ところで、題名の「金春屋(こんぱるや)ゴメス」というのはお奉行様のこと。
辰次郎はこのお奉行の元に世話になることになったのですが、
巨大で横暴でほとんど怪物めいた人物。
大丈夫なのか、辰次郎・・・・。

 

なんともこれがデビュー作とは信じられない、楽しい作品なのでした。
ファンタジーにして時代小説でもある。
なるほど、西條奈加さんのいかにもこれは原点なのですね。

 

本作には続編もありまして、さっそく読むことにしましょう!

「金春屋ゴメス」西條奈加 新潮文庫

満足度★★★★☆

 

 


ニューヨーク 親切なロシア料理店

2021年05月03日 | 映画(な行)

お互いに手を差し伸べ合うことができれば・・・

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マンハッタンで創業100年を超える老舗ロシア料理店、ウィンター・パレス。
かつての名店ではありますが、今では古いばかりで料理の味もひどい。
店を立て直すため、刑務所から出たばかりのマーク(タハール・ラヒム)が雇われます。
この店の常連アリス(アンドレア・ライズボロー)は、
他人のために尽くすことを使命のように感じている変わり者。
そして、クララ(ゾーイ・カザン)は、夫の暴力から逃れるため、
2人の子どもを抱えて家出を決行したものの・・・。

ロシア料理店が何度も出てくる舞台ではありますが、
本作中で「親切」と言うべきなのは、アリスです。
看護師をしながら、教会で悩める人々のセラピーを開き、
ホームレスたちのために食事を供する。
こんな彼女が救ったのがクララ母子でもあります。
アリスはどこでも完璧で感謝されている。
しかし頑張っても頑張っても困っている人が次々に現れる。
自分自身は数年前に離婚してから孤独な毎日。
そんな日々を埋めるかのように人のために尽くしているようにも思われますが・・・。
頑張りすぎて彼女は疲れ果ててしまうのです。

そして本作中で最も気持ちが沈んでしまうのが、クララ。
専業主婦で収入の手段も持たない彼女が、
子どもたちに暴力を振るう夫から逃れ、ニューヨークにやってくる。
夫の父を頼っては見たもののあっさりと断られ、
さっそく路頭に迷ってしまう。
お金もなく、泊まるところもない。
ついにはレストランのパーティーに紛れて料理を盗んで来たりもする。
でも彼女は警察に通報されることを最も恐れている。
なぜなら彼女の夫こそが警官だから・・・。

周囲の人には警官の夫が暴力を振るうと言っても信じてもらえないのでは?
と彼女は思うのです。
そして、警察に通報されればすぐに夫が駆けつけてきて連れ戻されることになる・・・。
いや全く、こんな状況の人をどう助ければいいのか、私も途方に暮れます・・・。

でも、いるんですよね、ニューヨークにも、
こうした人々に手を差し伸べてくれる人が。

アリスもそうだし、マークもですね。
どんな職についてもすぐにクビになってしまい、
ついには家賃を払えず部屋を追い出されてしまうジェフ(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)も。

自身が困った立場に陥った人ほど、困った人には優しくなれるのかもしれません。
自分の身に重ね合わせることができるからでしょう。
可能な限り互いに手を差し伸べ合うことができれば、
世の中はもう少しマシになるかもしれません。

このロシア料理店のオーナー(ビル・ナイ)がいい感じです。
黄昏れて、半分人生を投げていながら、
積極的にとは言わないまでも困った人に手を差し伸べることを厭わない。
こんな風に年をとりたいと思わせる人。
本作がアメリカ作品ではない、というのもユニークなところ。

 

<シネマ映画.comにて>

「ニューヨーク 親切なロシア料理店」

2019年/デンマーク・カナダ・スウェーデン・ドイツ・フランス/115分

監督・脚本:ロネ・シェルフィグ

出演:ゾーイ・カザン、アンドレア・ライズボロー、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、
   タハール・ラヒム、ジェイ・バルチェル、ビル・ナイ

親切度★★★★☆

満足度★★★★☆

※映画.comのサイトから映画を見ることができるようになりましたね!
有料ですが、少し新しいものも見ることができるので、ありがたい取り組みだと思います♡
本作、さっそく利用して拝見しました。


15年後のラブソング

2021年05月02日 | 映画(さ行)

新たな人生の道を見つける二人

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イギリスの港町、サンドクリフ。
アニー(ローズ・バーン)は恋人ダンカン(クリス・オダウド)と長年一緒に暮らしています。
もう腐れ縁ではあるけれど、それでも平穏な日々。

ダンカンは90年代、舞台の途中で突然姿を消してしまった伝説のロックスター、
タッカー・クロウ(イーサン・ホーク)に心酔し、
彼を褒めちぎるブログ記事を書いています。
そんな記事の理解に苦しむアニーは、批判的なコメントを書き込んでしまうのですが、
そんな彼女の元に、タッカー・クロウ本人からのメールが届くのです。

タッカー・クロウを神のように仰ぐダンカンを尻目に、
アニーが密かにタッカー・クロウとメールを交わし、やがて実際に会うようになる、
と言うシチュエーションがとても面白い。

タッカーは、以前からダンカンのブログを知っていたけれど、
自分を手放しに褒めちぎり、かってな憶測を繰り広げることを
馬鹿馬鹿しく思っていたのでしょう。
そんなところへいかにも正直でまっとうな意見をアニーが言っているので、
気になったようなのです。

タッカーは音楽も人生も捨てて、元妻の家のガレージを借りて細々と生活していました。
そんな彼が、人生の夢もチャレンジも忘れて日々をただ無難に過ごすアニーを
もどかしく思うようになる。
それはアニーが自分と重なっているように見えたからなのかもしれません。

30代~40代。
まだまだ人生をやり直すには遅くない!

 

<WOWOW視聴にて>

「15年後のラブソング」

2018年/アメリカ・イギリス/97分

監督:ジェシー・ペレッツ

出演:ローズ・バーン、イーサン・ホーク、クリス・オダウド、
   アジー・ロバートソン、リリー・ブレイジャー

 

人生再生度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


「赤い部屋異聞」法月倫太郎

2021年05月01日 | 本(ミステリ)

こだわりの名品たち

 

 

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日常に退屈した者が集い、世に秘められた珍奇な話や猟奇譚を披露する「赤い部屋」。
新会員のT氏は、これまで九十九人の命を奪ったという〈殺人遊戯〉について語り始める。
少しも法律に触れない、安全至極な殺人法とは――
そして恐るべき身の上話ののち、仰天の結末がT氏を待ち受けていた!(「赤い部屋異聞」) 
乱歩の名作をアレンジし、どんでん返しのつづら折りが見事な表題作ほか、
都筑道夫のホラー短編を下敷きにした“決して最後まで読めない本”の怪異譚「だまし舟」(書き下ろし)など、
マニアであれば二度おいしい、絶品揃いの全九篇。

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法月倫太郎さんの短編集。
それぞれの一作が、特定のテーマに基づいて編まれた
アンソロジーへの一篇として書かれたもので、
従って通常の作者の発想の枠から逃れたという感があり、
ユニークな作品揃いです。
それで、一篇ごとに著者の「裁断されたあとがき」が付いているのも嬉しいところです。

私が好きだったのは・・・

 

「まよい猫」

探偵のもとを訪れてきた身なりもかまわない女性は、
まるで中年男性のような口調で「私の飼い主」を探して欲しいという。
彼女がさしだしたその「飼い主」だという写真は、彼女本人が写っていた・・・。
猫と飼い主の体が入れ替わってしまったらしいという事件なのですが・・・。

 

「葬式がえり」

ミステリというよりホラーです。
侍が家に帰ると奥方が三つ指をついて「お帰りなさいませ」と迎える。
それから、その侍は屋敷から一歩も外へ出ず、日に日にやつれていき、
ついには首をつって死んでしまう。
「何事も起こっていない」のに、どうしてこうなるのか・・・?
何が怖いかって、それは・・・。

 

「迷探偵誕生」

もしも、どんな難事件も間違いなく解決してしまう
驚異的推理能力があったとしたら・・・というお話。
それはさぞかし、快感に違いないのですが・・・。
人は果たしてそれで満足できるのか、ということなんですね。

 

<図書館蔵書にて>

「赤い部屋異聞」法月倫太郎 角川書店

満足度★★★★☆