映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

映画大好きポンポさん

2022年06月12日 | 映画(あ行)

映画作りとともに成長する青年

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映画作りを題材としたアニメです。

 

大物プロデューサーの孫で、自身もその才能を受け継いだポンポさん。

ですが、主人公はポンポさんではなくて、
その元で制作アシスタントを務める青年・ジーン(声:清水尋也)です。
元々映画が大好き。
内気で孤独なジーンは、これまでどれだけ映画に心を慰められたことか・・・。

ある時、ジーンはポンポさんに初めて15秒の映画CMを任され、その楽しさに目覚めます。
そしてその後、ポンポさんから新作映画「MEISTER」の脚本を渡され、
監督を務めるようにと言い渡されます。
しかも主演は伝説の俳優と呼ばれる超実力派マーティンで、
しばらく休業していた彼の復帰作になるという・・・。
相手役のヒロインは新人女優ナタリー。
いよいよ波瀾万丈の撮影がスタートします。

さて、波瀾万丈とはいいますが、撮影は案外トントン拍子。
キャスト、スタッフ、その他の条件に恵まれ、
納得のいくシーンを撮ることができて、クランクアップ。
しかし、ジーンは次の編集のところですっかり行き詰まってしまうのです。

撮りためたシーンをすべてつなげば14時間。
でもそれを2時間程度にまとめなければなりません。
どのシーンにも愛着があって、そう簡単には切り捨てられない・・・。

確かに、私たちはクランクアップですべて終了、めでたしめでたしと思いがちですが、
その先がまた大変なんですね。
しかもポンポさんは2時間以上の映画なんてダメだ!と常々言い放っています。
いやあ、分かる。
150分とか180分という作品は私もちょっと見るのをためらってしまうのです。
それだけ長時間拘束されるのは、身体的にも生活上でもちょっとしんどい。
紆余曲折を経た長編小説の映画化等の時には、
割愛しすぎて味気なくなってしまうと言うことがありますけれど・・・。
そこはもう思い切って上・下に分割してしまうとかですね、
とにかくあまり長いのは私的には歓迎できません。

本作の舞台となるのは、映画の街ニャリウッド。
ジーンは内気で生きる意欲もなくしているような青年なのですが、
ポンポさんは彼の目に光がなくて、映画がなければ社会不適合者であるような彼を見込んで、
助手に採用したという、
分かるような分からないような設定なのですが・・・。
でもまあ、彼が次第に自信を取り戻し、スタッフたちとの関係を築き、
そして自分の思いを押し通すすべをも身につけていく、
こうした成長の姿はなかなか心地よいです。

映画好きな方にオススメ。

 

<WOWOW視聴にて>

「映画大好きポンポさん」

2021年/日本/90分

監督・脚本:平尾隆之

原作:杉谷庄吾

出演(声):清水尋也、小原好美、大谷凜香、加隅亜衣

 

映画愛度★★★★★

青年の成長度★★★★☆

満足度★★★.5


犬王

2022年06月10日 | 映画(あ行)

ロックな平家物語

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壇ノ浦の海辺で暮らす少年・友魚(ともな)は、
都から来た男たちに頼まれて、海底に沈む三種の神器の一つである宝剣を引揚げます。
そしてその剣を直に見てしまったために、盲目となってしまった。
友魚はやがて琵琶法師となり、平家物語を語り歩く旅をするようになります。

さて一方、都の近江猿楽の比叡座の家に一人の子ども(犬王)が生まれます。
が、まるで妖怪めいた異形。
全身を衣で包み、仮面をかぶって成長していきます。

やがてこの二人が出会い、互いの才能を開花させ、
人々を魅了する曲や踊りを披露するように・・・。

ということで、なんと本作、ミュージカルアニメです。
しかもロックの。
そして得心のいくステージを踏むと、犬王の体の一部が、美しい体に変わっていくのです。

南北朝~室町時代に奏でられるロック。
熱中する民衆。
手拍子、ダンス。
ナイスです!!

しかし、自由に歌いダンスを繰り広げる彼らに、
権力者・足利義満のほの暗い影が迫って来る・・・。

こんなことなので、本作は全くのフィクションかと思いきや、
「犬王」という能楽師は実在して大人気を博したそうで、
その彼がモデルなんですね。
まあ、もちろん異形の人とかロックはフィクションですけれど。

犬王が歌うのは「平家物語」。
それは琵琶法師・友魚の影響ではありますが、
でもそれは一般に語られる「平家物語」ではなく、
別口から聞いた「平家」の物語。
滅び去った平家のものたちの真の叫びをくみ取ったものなのです。

原作は古川日出男さんの「平家物語 犬王の巻」。
あの、先日私が読んだ「平家物語」の現代文訳をされた方ですね。
多分あの後「平家物語」の余韻のままに描いた作品なのでは、と想像します。
だから今度きっと原作も読んでみたい。

犬王の声はロックバンド「女王蜂」のボーカル、アヴちゃん。
私は存じていませんでしたが、さすがプロのボーカリスト。
歌がホントーに素晴らしかった。
映画見ててもスタンディングしてノリノリになってみたかったです!!

脚本は今をときめく野木亜紀子さんですし、
声優も大御所俳優が取りそろえられています。
見ないと損!!

<シネマフロンティアにて>

「犬王」

2021年/日本/97分

監督:湯浅政明

原作:古川日出男

脚本:野木亜紀子

出演(声):アヴちゃん、森山未來、柄本佑、津田健次郎、松重豊

ロック度★★★★★

平家物語愛度★★★★★

満足度★★★★★

 


さがす

2022年06月09日 | 映画(さ行)

たくましい少女に拍手!!

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大阪の下町。
中学生・原田楓(伊東蒼)は父・智(佐藤二朗)と2人暮らし。



父が「指名手配中の連続殺人犯を見た。捕まえたら300万円もらえる」と言っていた翌朝、
忽然と姿を消してしまいます。

警察に届け出てもほとんど相手にされず、楓は自力で父の行方を探し始めます。
そして、とある日雇い現場の作業員名簿に父の名前を見つけた楓。
現場に行ってみると、その人物は父とは違う全く知らない男(清水尋也)だった・・・・。
しかし後に楓は気づくのです。
その男は、あの、指名手配中の連続殺人鬼ではないか・・・!?

そこから物語は一変し、今度は父から見た物語。
つまりはここまでの謎の解答編ではありますが、しかしこれはそう単純な話ではない。

妻(楓の母)が不治の病となり、生きることに希望を見いだせずにいて・・・。
なんとものんきそうなお父さんでしたが、
実はこの妻の苦悩を共に背負っていたというのが少し前の話。
その父と、まさしくサイコパスの山内が出会ってどうなるのか・・・。
思いがけない展開に言葉をなくします。

そうではあっても、少女は強くたくましい。
楓にコクる男の子を従えた少女の冒険としてみても面白いのです。
そして彼女のまっすぐさが、本作の陰湿な部分を清めてくれるような気がします。
伊東蒼さん、そして佐藤二朗さんの演技力、コンビネーションのよさに圧倒されます。

ラストのところで2人が卓球のラリーをするのですが、
これがずっと正確に続くんですよ、互いに長いセリフをいいながら。
すごいです。
圧巻です。

<WOWOW視聴にて>

「さがす」

2022年/日本/123分

監督:片山慎三

出演:佐藤二朗、伊東蒼、清水尋也、森田望智、品川徹

 

ミステリアス度★★★★☆

サイコパス度★★★★☆

少女のりりしさ★★★★★

満足度★★★★☆

 


「ミステリと言う勿れ 5」田村由美

2022年06月08日 | コミックス

人生こんなに悩んだことがあっただろうか

 

 

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坂で転がり落ち、検査入院することになった整。
その病院で出会った謎の美少女・ライカの言葉に導かれて動く内に、
整は不穏な都市伝説に遭遇する。

子どもを救う“炎の天使”とは一体――!?

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整くんが検査入院した病院で知り合った謎めいた美少女ライカ。
そして、おかしな縁で時々話をするようになった“カエル”こと陸(ろく)さんとの話になります。

親に虐待を受けている子どもが壁にある印を書くと、
天使が来て親を炎で殺してくれる・・・
そんな物騒な都市伝説めいた話がネットで話題になります。
そしてその話とよく似た事件が実際に数件起こっている。
どうやら陸さんがその事件に関わっているらしい・・・と、
TVドラマにもあったエピソード。
でも陸さんが慕っている香音人(かねと)青年が実は・・・!
という所は、ドラマを見ていても全く想像もつかなかったところで、
このストーリーには驚かされました。

 

散々虐待を繰り返した親をどうするのか。
「天使」は、その判断を子ども自身に委ねます。
しかし、整くんはそれこそが子どもへの虐待だという。
子ども自身が親を殺すことを天使に依頼し、それを天使が実行したとしても、
結局子どもには「自分が親を殺した」という思いが残ってしまう。
そしてその思いが以後ずっと自分を苦しめる。
そんな苦しみを背負い続けてきて、
すでに精神崩壊寸前のところにいたのが陸さんであるわけです。

親による児童虐待は、本作の底辺にずっとある大きなテーマなのでしょう。
心に刺さるエピソードです。

 

さて、本作中で気になった整くんの言葉。
「土下座」を強要する人について。

「本当に土下座でいいんですか?
だって土下座ってただの動作だから。
簡単でお金もかからなくて、心がこもってなくてもべつなこと考えてても
できることなんですけど。
土下座に意味があると思うということは、
あなたはそうしろと言われるのがすごくイヤなんだということですね」

 

最近の、記者会見で土下座して見せた某社長を思い出してしまいました。
その姿を見ても全く心に響きませんでしたが、それは整くんが言うとおりですね。
私はむしろ、こういうことをする人は、
きっと何かことがあるたびに、相手に土下座を強要する人なのではないかと思った次第。

 

また、ライカに「ちょっとしたクリスマスプレゼントの交換をしよう」と言われた整くんは、
いったいライカさんに何をプレゼントしていいものやら、悩みに悩んでしまうのです。

悩みすぎて息も絶え絶えになってしまう。
「人生こんなに悩んだことがあっただろうか」
こんなだから、整くんが大好きです!!

でもこのときライカにもらった赤いオーナメントが
結局整くんを救うことになるわけで、
全く、ストーリー作りがうまいなあ、と感嘆させられるのでした。

 

そして、小学校の教師を目指す整くんは
「僕はいつもいろんなことに気づきたいと思っています。
僕のクラスに陸さんがいたら、家で何かがおこっていることに必ず気づくと思います。
僕のクラスに香音人さんがいたとしたら、その異変に絶対気づきます」
と、強くきっぱりと言い切ります。
確かに彼は、人が気づかないようなことにきちんと気づく
(気づきすぎてウザいと言われるくらい)ヤツなので、
この言葉は単なる希望的観測ではないのです。
本当に、教師になって欲しいなあ、整くん。

 

「ミステリと言う勿れ 5」田村由美 フラワーコミックスα

満足度★★★★★

 


トップガン マーヴェリック

2022年06月07日 | 映画(た行)

リアルに年月をおいての続編

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大ヒットした1986年「トップガン」の続編であります。
およそ35年を経て、続きが見られるとは・・・! 
コロナ禍で公開もずいぶん延期されていて、待ちに待ったという感じですね。

アメリカ海軍エリートパイロット養成学校、トップガン。
伝説のパイロット、マーヴェリック(トム・クルーズ)が、教官として帰ってきます。
ある重要任務のために特別に集められたより抜きの訓練生たちと共に、
不可能に挑みます。
そんな訓練生の中に、かつてマーヴェリックとの訓練飛行中に命を落とした
相棒グースの息子・ルースター(マイルズ・テラー)がいて・・・。

35年を経ても、マーヴェリックの中にはあの時の親友の死が大きく心を占めているのですね。
それだから、数々の功績を持っているにもかかわらず、
昇進に背を向け、今も現役に身を置いている。
だからこそ、この「続編」が成り立つのです。

そして、今が続編を作る最後のチャンスだったのかも知れません。
最近の戦闘機は無人化の傾向にあり、有人飛行は時代遅れのもになりつつあるとか・・・。
そして、トム・クルーズの年齢のこともありますしね。

何しろ本作のために、トム・クルーズを始め他の俳優たちも
自ら戦闘機に実際に乗り込んで撮影。
CGではなくリアルに飛行しているという、ほとんど常識外れともいえる撮影です。
でもその甲斐あってか、ものすごい迫力のある描写。
戦闘機の爆音の音響効果もスゴイ。
戦闘機などにはそもそも興味も理解もない私ですが、
それでも圧倒され、まさしく手に汗を握るというような状況になってしまいました。

また、ラスト付近でマーヴェリックの機が敵国で墜落。
え~、どうするのよ。
脱出には成功して命は助かったものの、いったいこの窮地をどう乗りきるのか。
こんな杞憂もなんのその、あっと驚く逆転劇でテンポ良く進んでいきます。
ここのところはむしろミッション・インポッシブルか?と思ってしまった。
心憎いところに音楽も入りますしねえ。
これでもかというくらいに、映画を見る人の心をゆさぶり、くすぐる作品になっていると思います。

少し前に、本作の予習的に「トップガン」の方を久々に見たのですが、
こちらは実のところ、今見るとストーリーが薄っぺらい感じがしました。
特に、ラブストーリーの部分が。
けれどこの度の続編でそんなところも払拭。
皆様も、あえて前作は見なくてもいいと思います。
まあ、ツルツルピカピカのトム・クルーズは一見の価値はありますが。

 

最近ほとんど人間ドラマを中心に視聴している私ですが、
やはりこうした映画の醍醐味を味わう作品も悪くはないなあ、と思います。

 

<シネマフロンティアにて>

「トップガン マーヴェリック」

2022年/アメリカ/131分

監督:ジョセフ・コジンスキー

出演:トム・クルーズ、マイルズ・テラー、ジェニファー・コネリー、
   ジョン・ハム、グレン・パウエル、モニカ・バルバロ、エド・ハリス

迫力★★★★★

トム・クルーズの魅力度★★★★★

満足度★★★★★

 


17歳の瞳に映る世界

2022年06月06日 | 映画(さ行)

女であることの痛み

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17歳高校生のオータム(シドニー・フラニガン)は、
ある日自分が妊娠していることを知ります。
ペンシルベニア州では未成年者は両親の同意がなければ中絶手術を受けることができません。
オータムのイトコで親友でもあるスカイラー(タリア・ライダー)は、
オータムの異変に気づき、お金を工面し、
中絶に両親の同意が必要ではないニューヨークへ2人で向かうことにします。
2人の少女の勇敢な旅。
しかし、ほとんどお金もなく、これがなかなか苦難の旅。

アメリカでは宗教上のためでしょうか、
妊娠中絶は日本におけるそれよりもずいぶんハードルが高いように思います。
ただそのため、養子縁組の制度は充実しているように思えますが。

 

良くあるこうした作品では、不意の妊娠に戸惑った少女が
苦悩を乗り越え勇気を持って出産をする・・・という運びが多いのですが、
本作は違うのです。

まずこんな時には、やはりお腹の子の父親が登場するものですよね。
まずはその相手と相談するのではないか?
ところがオータムにはその選択はハナからないようなのです。
そして親にも言えない。

だからとにかくお金がないのです。
しかも中絶するには若干時期が遅くなっていたので、
始めに行った病院では手術ができず、紹介された次の病院へ。
そして、手術の前準備が必要なので二日がかりになってしまう。
ホテルに泊まるようなお金もなくて、
病院で前金を支払ったら帰りの旅費までなくなってしまった・・・!! 
全く、無鉄砲な少女の様子にハラハラしてしまいます。

オータムはひたすら無表情を通しているのですが、
病院で手術前のカウンセリングを受けるシーンがあります。

自身の性に関する質問事項に
「一度もない/めったにない/時々/いつも」の4択から答えるというもの。
カメラはずっとオータムの表情だけを長回しでとらえ続けます。
そして
「パートナーに暴力をふるわれたことは?」
「性行為を強要されたことは?」
という質問のところで、思わず涙がこぼれ嗚咽するオータム。
結局この質問に彼女は応えることができないのですが、
それはすでに答えているのと同じですね。
つまり彼女は相手にそのような扱いを受けたあげく妊娠した、ということなのです。
相手に相談するとか、生みたいという意志がなかったことに納得です。

そこで私は思い当たったのですが、相手はあの、
イヤーな感じの義父(母のパートナー)なのではないかと・・・。
作中答えはないのですが、あながち無理な想像ではないと思います。
母親にも相談できなかったわけですから。

スカイラーは、オータムよりも見た目がちょっとカワイイので、
男性からイヤな目つきで見られてしまうことも多いようです。
でも結局彼女は帰りの旅費を稼ぐために、
そのことを利用せざるを得なかった・・・。
危険を承知で。

女であることの痛み。
ズバリ、それこそが本作のテーマでありましょう。
女であるが故に、こんなにも生きづらい。

ですが、まだ17歳。
この痛みを知った彼女たちは、きっともっとたくましくなって生きていくのでしょうね。
そうであって欲しいです。

 

<WOWOW視聴にて>

「17歳の瞳に映る世界」

2020年/アメリカ/101分

監督・脚本:エリザ・ヒットマン

出演:シドニー・フラニガン、タリア・ライダー、セオドア・ペレリン、
   ライアン・エッゴールド、シャロン・バン・エッテン

女の痛み度★★★★★

満足度★★★★☆


クライ・マッチョ

2022年06月04日 | クリント・イーストウッド

老人と少年の旅

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クリント・イーストウッド作品はまずほとんど公開時に見ているのですが、
本作はまた、コロナ自粛で見そびれていました。
さっそく配信が始まって、ありがたい。

本作は1975年、N・リチャード・ナッシュによる小説の映画化です。

かつてロデオ界のスターとして一世を風靡したマイク・マイロ(クリント・イーストウッド)。
落馬事故をきっかけに落ちぶれていき、今は家族もいません。
ある日マイクは、元雇い主からメキシコにいる息子ラフォを連れてくるように依頼されます。
彼の息子ラフォは13歳。
母親と共に暮らしていて、息子を父親に渡すことは拒否しているので、
無理に連れてくれば誘拐になってしまいます。
しかし、マイクは元雇い主に恩もあるため、
なんとかその希望を果たそうとメキシコへ旅立ちます。

 

さて、ラフォはろくに愛情を与えてくれない母との暮らしよりも
アメリカの牧場暮らしを望み、自分の意志でマイクと同行することに。
アメリカ国境を目指す、親の愛を知らない不良少年と
ヨレヨレカウボーイの、二人連れロードムービーとなります。



ところが移動シーンはそう長くはなくて、
車が故障し、とある田舎町に長く逗留することに。
この町で、マイクは馬の調教を手伝ったり、動物の健康相談に乗ったりして
人々に慕われるようになっていきます。
そして思わぬロマンスも・・・。
ラフォも乗馬を習ったりしてのびのびした毎日を過ごします。

ラスト、もうあまり先が長くないと思われる老人と、
これからの人生が待ち受ける少年の、
それぞれの決断が、納得できます。

ラフォが闘鶏のために飼育していたニワトリの名前が「マッチョ」で、
この旅の間、彼は常にマッチョを引き連れています。
こうしてみるとニワトリもなかなか愛らしいではありませんか。

クリント・イーストウッド監督はこの時点で91歳。
まだまだ主演として荒馬も乗りこなす格好良さ。
ちょっと前屈みでとぼとぼ歩くシーンはリアルではなくて演出なのでしょうか? 
こうなったら、長寿監督のギネス記録に挑戦するつもりで、
今後も活躍していただきたいものです。
本作は、まさにクリント・イーストウッドのためにあるようなストーリーでした。

 

<Amazon prime videoにて>

「クライ・マッチョ」

2021年/アメリカ/104分

監督:クリント・イーストウッド

出演:クリント・イーストウッド、エドゥアルド・ミネット、ナタリア・トラベン、ドワイト・ヨーカム

 

イーストウッドらしさ★★★★★

満足度★★★★.5

 


「勿忘草の咲く町で」夏川草介

2022年06月03日 | 本(その他)

心臓が動いてさえいればいいのか

 

 

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生きることと死んでいることはどう違う?
現役医師が描く高齢者医療のリアル

美琴は松本市郊外の梓川病院に勤めて3年目の看護師。
風変わりな研修医・桂と、地域医療ならではの患者との関わりを通じて、
悩みながらも進む毎日だ。
口から物が食べられなくなったら寿命という常識を変えた「胃瘻」の登場、
「できることは全部やってほしい」という患者の家族……
老人医療とは何か、生きることと死んでいることの差は何か?
真摯に向き合う姿に涙必至、現役医師が描く高齢者医療のリアル! 

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夏川草介さんの医療小説といえば「神様のカルテ」があります。
同じく若き医師を主人公として、なぜまた別の作品が必要なのか、
ということについて巻末解説で佐藤賢一氏も述べていますが、
つまり「神様のカルテ」は医療を駆使して患者を治す物語。
でもこちらは高齢者医療をテーマとしていて
高齢者がいかに死と向き合うのかということが問題となっているのです。
地方の病院のほとんどは高齢者医療を行っているという実態。
本作で研修医・桂正太郎の勤務する安曇野にある病院も、
自宅や施設ですでに寝たきりであるとか、かなり痴呆が進んでいる
という高齢者が体調を崩して運び込まれてくる、というようなことがほとんど。
このような場合に、難しい手術や胃瘻などの処置が必要なのか・・・?
という大きな問題が立ち塞がります。

 

人が生きるとはどういうことなのか。
歩けることが大事なのか。
寝たきりでも会話さえできれば満足なのか。
会話もできなくても心臓さえ動いていれば良いのか・・・。
いまの社会は、死や病を日常から完全に切り離し、
病院や施設に投げ込んで、考えることそのものを放棄している。

 

まさしく、その通り。

常々、自分は体も動かず、ほとんど何も考えられないような状態で、
胃瘻で栄養だけ流し込まれて生き続けるのだけはイヤだ、
などと思っている私には、非常に考えさせられる物語なのでした。

このシリーズも、ぜひもう少し続いて欲しいと思います。

 

「勿忘草の咲く町で」夏川草介 角川文庫

満足度★★★★☆

 


「凍てつく太陽」葉真中顕

2022年06月02日 | 本(ミステリ)

戦中の北海道で

 

 

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昭和二十年、終戦間際の北海道・室蘭。
逼迫した戦況を一変させるという陸軍の軍事機密をめぐり、
軍需工場の関係者が次々と毒殺される。
アイヌ出身の特高刑事・日崎八尋は「拷問王」の異名を持つ先輩刑事の三影らとともに捜査に加わるが、
事件の背後で暗躍する者たちに翻弄されていく――。
真の「国賊」は誰なのか?
かつてない「戦中」警察小説!

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終戦間際の北海道、陸軍の軍事機密を巡る殺人事件ということで、
私は重い社会派ミステリかと思って読み始めましたが、
これはエンタテイメントですね。
すなわちすごく面白い!!

著者は北海道出身ではないようなのですが、
昭和二十年の室蘭や札幌の町の様子がリアルに描かれているのには驚きました。
その頃の札幌市役所がどこにあったのかなんて、私でも知らなかった・・・。

 

主人公日崎八尋はアイヌとのハーフで、特高の刑事。
特高、すなわち今で言う公安、治安維持・思想犯などを取り締まる部署。
というといかにもきな臭い。
しかし彼は自分らは皇国の臣民であるという思想にどっぷりつかっていて
疑問にも思いません。

序章では、室蘭の製鉄所の飯場に潜入し、朝鮮人たちと共にタコ部屋に寝起きし、
重労働に耐えるという過酷な任務に当たっています。
そして、そこから以前脱走した者の手口を探るのですが、
日崎は気のいい同僚ヨンチョンをだまして共に脱走しようと持ちかけるのです。
その企ては成功し、脱走の手口を判明させると共に、
脱走犯ヨンチュンを逮捕という成果を揚げるのです。

人をだまして逮捕・・・。
しかし彼は「お国のため」のこの仕事に疑問を持ってはいません。
う~む、物語の主人公としてこれでいいのか、と思うところですが、大丈夫。

日崎はその後、アイヌを忌み嫌う拷問王・三影刑事に殺人犯の冤罪を着せられて、
なんと網走の刑務所に送られてしまう・・・!
思いがけず、過酷な運命の渦に巻き込まれていく日崎は、少しずつ変わっていきます。

そしてそこで出会うのがなんと・・・!

 

いやあ、物語ですねえ・・・。
また、陰謀の中心には「ウラン爆弾」がありますよ。
時代的スリルもたっぷりです。
文句なく面白い。

 

図書館蔵書にて(単行本)

「凍てつく太陽」 葉真中顕 幻冬舎

満足度★★★★.5


リング・ワンダリング

2022年06月01日 | 映画(ら行)

過去に息づいていたものたち

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漫画家を目指す草介(笠松将)は、絶滅したニホンオオカミを題材に作品を描いていますが、
肝心のオオカミをうまく表現できないでいます。
ある日草介は、バイト先の工事現場で、いなくなった犬を探す女性・ミドリ(阿部純子)と会います。

転んで怪我をしたミドリを彼女の家の写真館まで送り届けるのですが、
なにか、いつもの風景とは異質なものを感じる草介。
そしてその後、彼がまた同じ場所を訪ねてみると・・・!

草介がミドリに導かれて行ったのは、時の狭間の場所。
実は草介はミドリよりも前に、彼女の弟に会っているのです。
なんだか古風なカメラを抱えた少年。

写真館の主・ミドリの父(安田顕)は、
カメラは供出したとか、弟は田舎に行っているとか、
草介には不可解なことを言うのですが、見ている私たちにはピンときます。
何より、先に登場した弟や、ミドリ、そしてその父母の服装だけでも、現在のものとは違う。
デザインとか、材質とか、変わらないように思えても実際は結構違うものですね。
カメラの供出、弟の疎開。
そう、草介が迷い込んだのは、戦時中の草介の住む同じ町。

 

神社で樹齢1000年を超えそうなご神木を眺めながら、
なぜか地続きで自分の家に帰ってきて、また日常をたどり始める草介。
でもその時は自分がタイムスリップしてきたことには気づいていないのです。

しかし、またその写真館の場所に行ってみると、そこには新しい写真館が建っている。
あの時に会ったミドリとその両親はもういません。

過去に実際にあった日常、温かな人の暮らし。
でもそれはもう2度と取り返すことはできない。
ニホンオオカミも人も、それについては同じなのかも知れません。

また、草介の描く漫画も一部実写化となっていまして、
絶滅寸前となっているニホンオオカミを追う猟師のストーリー。
明治末期くらいでしょうか。

それなので本作には、明治と戦時中の昭和、そして現在、
3つの時代が描かれています。

ニホンオオカミが生きていた時代を思う草介は、
同じ場所で生きていた様々な人々や動物たちの息吹を感じ取ったのでしょう。

そして、ラストシーンにおもわぬ仕掛けがあって、ハッとさせられるのですが、
つまり自分たちは気づいていないけれども、過去生きていたものたちは実はすぐそばにいて、
今も私たちは彼らに見守られながら生きている。
・・・そんなことなのかも知れません。

 

何やら近頃、笠松沼にハマりかけている私でした。
「TOKYO VICE」の将さんにはシビれます。

 

<サツゲキにて>

「リング・ワンダリング」

2021年/日本/1032分

監督:金子雅和

出演:笠松将、阿部純子、安田顕、片岡礼子、品川徹

 

ミステリアス度★★★★☆

過去生きたものへの愛★★★★☆

満足度★★★★★