幸福か不幸かを決めるのは自分自身
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築21年の三階建て一軒家を購入し、一階部分を店舗用に改築。
美容師の美保理にとって、これから夫の譲と暮らすこの家は、夢としあわせの象徴だった。
朝、店先を通りかかった女性に
「ここが『不幸の家』だって呼ばれているのを知っていて買われたの?」
と言われるまでは――。
わたしが不幸かどうかを決めるのは、他人ではない。
『不幸の家』で自らのしあわせについて考えることになった
五つの家族をふっくらと描く、傑作連作小説。
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うつくしが丘にある三階建て一軒家。
この家に住む人々の物語です。
一番始めのエピソードは、築21年のこの家の一階部分を理髪店として改築し、移り住んできた夫妻。
ところが庭にある大きなびわの木は不吉だと言われ、
また、近所に住むらしい人は、ここは「不幸の家」だといわれているなどと言う。
それを聞いてすっかり落ち込んでしまう、美保理。
しかし、この家の隣に永く住む老婦人は言うのです。
びわの木は実がたくさんなっておいしいし、
葉もお茶にしたりやけどの薬になったり、お風呂に入れてもいいし、
役に立つことばかり。
そして確かにこの家に住む人は短い期間でまた越していってしまうことが多いけれど、
どの方も「不幸」そうではなかった。
それぞれの事情があったと思うけれど、それが不幸なわけではないでしょう、
という。
そんな話を聞くだけでも心が晴れていくような気がする美保理なのです。
多分それと同じように、不幸かどうかなんて人が決めることではなくて、
自分の考え一つなのだろうと、思えてきます。
さて、物語はこの家に住んだ人々のことを一話ずつ時間を遡りながら描いていきます。
それぞれの家族のそれぞれの事情。
そのことが語られて行きます。
家族の不和のこと、DVのこと、不妊治療のこと・・・
確かに大変なことは多いけれど、
それでもそれぞれが自分なりの答えを出して、前へ進んでいった。
家は、すなわち人生の舞台でもあるのです。
最後に、庭のびわの木の苗が植えられたエピソードがあるのもしゃれています。
びわの木はずっと人々を見守ってきていたのでしょう。
実は、うつくしが丘の「幸福の家」のお話でした!
「うつくしが丘の不幸の家」 町田そのこ 創元文芸文庫
満足度★★★★☆