過去に息づいていたものたち
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漫画家を目指す草介(笠松将)は、絶滅したニホンオオカミを題材に作品を描いていますが、
肝心のオオカミをうまく表現できないでいます。
ある日草介は、バイト先の工事現場で、いなくなった犬を探す女性・ミドリ(阿部純子)と会います。
転んで怪我をしたミドリを彼女の家の写真館まで送り届けるのですが、
なにか、いつもの風景とは異質なものを感じる草介。
そしてその後、彼がまた同じ場所を訪ねてみると・・・!
草介がミドリに導かれて行ったのは、時の狭間の場所。
実は草介はミドリよりも前に、彼女の弟に会っているのです。
なんだか古風なカメラを抱えた少年。
写真館の主・ミドリの父(安田顕)は、
カメラは供出したとか、弟は田舎に行っているとか、
草介には不可解なことを言うのですが、見ている私たちにはピンときます。
何より、先に登場した弟や、ミドリ、そしてその父母の服装だけでも、現在のものとは違う。
デザインとか、材質とか、変わらないように思えても実際は結構違うものですね。
カメラの供出、弟の疎開。
そう、草介が迷い込んだのは、戦時中の草介の住む同じ町。
神社で樹齢1000年を超えそうなご神木を眺めながら、
なぜか地続きで自分の家に帰ってきて、また日常をたどり始める草介。
でもその時は自分がタイムスリップしてきたことには気づいていないのです。
しかし、またその写真館の場所に行ってみると、そこには新しい写真館が建っている。
あの時に会ったミドリとその両親はもういません。
過去に実際にあった日常、温かな人の暮らし。
でもそれはもう2度と取り返すことはできない。
ニホンオオカミも人も、それについては同じなのかも知れません。
また、草介の描く漫画も一部実写化となっていまして、
絶滅寸前となっているニホンオオカミを追う猟師のストーリー。
明治末期くらいでしょうか。
それなので本作には、明治と戦時中の昭和、そして現在、
3つの時代が描かれています。
ニホンオオカミが生きていた時代を思う草介は、
同じ場所で生きていた様々な人々や動物たちの息吹を感じ取ったのでしょう。
そして、ラストシーンにおもわぬ仕掛けがあって、ハッとさせられるのですが、
つまり自分たちは気づいていないけれども、過去生きていたものたちは実はすぐそばにいて、
今も私たちは彼らに見守られながら生きている。
・・・そんなことなのかも知れません。
何やら近頃、笠松沼にハマりかけている私でした。
「TOKYO VICE」の将さんにはシビれます。
<サツゲキにて>
「リング・ワンダリング」
2021年/日本/1032分
監督:金子雅和
出演:笠松将、阿部純子、安田顕、片岡礼子、品川徹
ミステリアス度★★★★☆
過去生きたものへの愛★★★★☆
満足度★★★★★