映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「キネマトグラフィカ」古内一絵

2022年06月22日 | 本(その他)

映画業界の形態は変わったけれど

 

 

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あの頃思い描いていた自分に、いまなれているだろうか――
老舗映画会社に新卒入社し、“平成元年組”と呼ばれた六人の男女。
今はそれぞれの道を歩む彼らが、とある地方映画館で思い出の映画を鑑賞しながら、
二十五年前に起きた“フィルムリレー”に思いを馳せる。
フィルムはデータに、劇場はシネコンに……
四半世紀の間に映画の形態が移り変わったように、
映画と共に生きた彼らの人生もまた変化していった。
働く人すべての心を熱くする、傑作エンターテイメント。

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映画会社に入社した6人の男女の物語。

映画会社というと、つい映画製作のことを思い浮かべてしまいますが、
本作はそうではなくて、主に映画の営業畑のこと。
これまでになかった題材です。

しかも時代は平成初期。
単館の映画館で、フィルムの映画を上映していて、
そしてまもなくシネコンやデジタル作品に移り変わっていくという
狭間の時期なんですね。
映画はビデオのレンタルが全盛となり、映画館としては大変厳しい状況です。

 

私も本作で初めて知りましたが、35ミリフィルムの作品、
2時間くらいのものだとその総重量は30キロにもなるのですって!! 
それを貸し出す先の映画館までは通常は運送業者が運ぶわけですが、
25年前のある時、手違いで同作品の予約が重なってしまい、
彼ら自身でスケジュールすれすれのフィルムリレーをすることに。

 

物語は同窓会的に久々に集まった彼らの、
25年前当時のこと、そして現在のことを交互に描き出します。
中でも、この会社で女性初の営業職についた咲子さんのストーリーに私は感じ入ってしまいました。
仕事ができなければ「女だから」と言われ、
やりすぎれば「女のくせに」と言われる。
女性であることの足かせやら重圧やら、
並みの男性以上の苦労を強いられるということで、
それでも頑張り抜いた25年後の咲子さんに拍手!!ですね。

 

札幌の街でも私が当ブログを始めた頃にはまだ単館映画館があって、
けれどシネコンもできて、どんどん映画館が閉館に追い込まれていった・・・
そんな時代の変遷をまさしくこの目で見てきました。
かと思えば、コロナ禍でまたあおりを受けて、
リニューアルオープンしたサツゲキさんがまた何やら危機的状況に陥ったりして・・・。
映画業界、厳しいですね・・・。

私も今や半分以上は配信サービスにお世話になっているけれど、
でも映画館で見る映画は格別です。
これからも、お世話になります!

私の興味のど真ん中を行く本作、面白く読みました。

 

「キネマトグラフィカ」古内一絵 創元文芸文庫

満足度★★★★☆