映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ヒトラーのための虐殺会議

2023年12月09日 | 映画(は行)

狂気に飲み込まれた末

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第二次世界大戦時、ナチス政権が1100万人のユダヤ人絶滅政策を決定した
「バンゼー会議」の全貌を、アドルフ・アイヒマンが記録した
議事録に基づいて映画化されたものです。
従って、ほとんど現実に行われたとおりであろうと思われるのですが、
だから余計に恐ろしい・・・。

1942年1月20日。
ベルリン、バンゼー湖畔に建つ大邸宅にナチス親衛隊と各事務次官が集められ、
「ユダヤ人問題の最終的解決」を議題とする会議が開かれます。
国家保安部代表、ラインハルト・ハイドリヒを議長とする高官15名と秘書1名。
ユダヤ人の移送、強制収容、強制労働、計画的殺害について・・・。
ほとんど異論なく淡々と90分で終了するこの会議。

大筋は軍部ですでにできあがった内容(と言うか、すでに実行を始めている)を、
一応、お役人方に図り、了承を得て決定した、
という体裁を整えるための会議のように見受けられます。
にしても、お役人方からもほとんど反論はなく、
ほんの少し倫理について言及する人もいたのですが、
「この際、倫理のことなどに触れるな」と軽くいなされて終わってしまいます。
要はどれだけ効率的にユダヤ人を輸送し、死に至らしめて、絶滅させるか
・・・それが「ユダヤ人問題の最終解決」なのです。

こんなことが一会議室で、ビジネスライクに語り合い決定されてしまうことの恐ろしさ。
まるで絵空事のような話ですが、
これがことごとく実行されているというのがまた恐ろしい・・・。
そして、ユダヤ人から没収した財産の話になると皆色めき立つ
と言うのもとてつもなくイヤラシイですね・・・。

いったいどうやったらここまで殺人を正当化できるのか。
まさしく、ヒトラー恐るべし。

<Amazon prime videoにて>

「ヒトラーのための虐殺会議」

2022年/ドイツ/112分

監督:マッティ・ゲショネック

出演:フィリップ・ホフマイヤー、ヨハネス・アルマイヤー、
   マキシミリアン・ブリュックナー、マティアス・ブントシュー

歴史発掘度★★★★★

残虐度★★★★★

満足度★★★★☆


山のトムさん

2023年12月08日 | 映画(や行)

ナチュラルな暮らし

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WOWOWのオリジナルドラマです。
石井桃子さんが戦後宮城県鶯沢で送った
開墾生活を題材に綴った回想記を元にしたもの。

 

東京で暮らしていた文筆業を生業とするハナ(小林聡美)が、
田舎で生活を始めた友人トキ(市川実日子)の元にやって来ます。

トキは小学生の娘とともにここへやって来て、
近所の人に教えてもらいながら農業を始めているのです。
ハナは、中学を卒業したばかりの甥っ子・アキラとともに、
しばらくここで野菜作りを手伝いながら共に暮らすことに。

古い家なので、近頃ネズミが出て困っていて、
子猫を飼うことになり、トムと命名。
4人と一匹の田舎暮らしが始まります。

原作は少し古い時代の話のようですが、本作は現在。

アキラの事情は詳しくは説明されませんが、
どうやら中学で不登校となり、高校進学もやめて、叔母に伴ってここへやって来たようです。
彼は慣れない田舎暮らしで、戸惑いもあるようですが、
彼なりに仕事を手伝い、ヤギの世話などもするようになって
少しずつ心の成長を遂げて行くようではあります。

が、本作中で意欲を取り戻して将来の進路を決意、
などというところまでは描かれません。
ですが私は、そこがいいなあと思います。
周囲の人も彼のことをあれこれ詮索はしないし、
あるがまま、気が向けばここを出ていってもいいし、
やりたいことが見つかればやってみればいい。
学校とか就職とか、一般の枠にあえてはまる必要はない、というのがいいです。

 

野菜を作り、鶏を飼い、ヤギを飼って、ネズミはネコに任せて・・・。

のどかな田舎暮らしに見えるけれど、実際は大変だろうなあと思います。
野菜作りは自分の家で食べる分くらいのようでしたし、
趣味ならともかく、それで生活は成り立つのか?
そこが知りたいところではあったのですが・・・。
ま、現実的なことはこの際考えないことにして・・・。

ほっこり田舎暮らし。
心が和みます。

 

子猫は抱っこするとネズミを捕らなくなるので、絶対に抱っこしてはダメ、
と地元の人に言われるのですが、
可愛い盛りの子猫を抱っこしないでいられるわけがありません。

皆それぞれ、こっそり抱っこして楽しんでしまったのですが、
トムは無事ネズミをとるようになりました!!
めでたし!

 

「山のトムさん」

2015年/日本/116分

(WOWOWドラマW)

監督:上田音

脚本:群ようこ

出演:小林聡美、市川実日子、光石研、高橋ひとみ、もたいまさこ、伊東清矢

 

ナチュラルな暮らし度★★★★★

満足度★★★☆☆


ベネデッタ

2023年12月06日 | 映画(は行)

奇蹟か、狂気か・・・?

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17世紀、レズビアンで告発された実在の修道女、ベネデッタ・カルリーニの
数奇な人生と、彼女に翻弄される人々を描きます。

実在の人物というところに、驚いてしまいますが・・・。

17世紀、イタリア、ペシア。
6歳でテアティノ修道院に入ったベネデッタは、純粋無垢のまま成人しています。
ある時、修道院へ逃げ込んできた若い女性バルトロメアを助け、
いつしか秘密の関係を持つように・・・。

そんな頃ベネデッタは、何もしないのに手・足に深い傷を負い血を流すという
「聖痕」を受け、イエスの花嫁になったと見なされ、修道院長に就任。
民衆からも聖女とあがめられ、強大な権力を手にします。

おりしも、空には彗星が現れ、都市ではペストが大流行。
混乱の町で、なおも権威を持つベネデッタですが・・・。

ベネデッタは幼少の頃から奇跡のような言動をする子供ではありました。
そのまま長じたのはよいとしても、いきなり世俗にまみれた女と関わり、愛欲を覚えてしまう・・・。
そしてある日「聖痕」が現れ、野太い声でキリストの声を伝える・・・。

これは奇跡なのか、それとも狂気なのか・・・。

思い込みだけで、自らの身が傷つき出血することなど本当にあるのか・・・? 
現代のわたし達はそんな奇跡が本当にあるとは到底思えないのですが、
神の摂理こそが真実と思う当時の人々ならば、聖痕もありなのかも。

けれどそれは一歩間違えば「魔女」の仕業として、処刑される危険も・・・。
ジャンヌ・ダルクのことも思い起こされます。
その真偽を判断するのは、時の「権力」で、
権力者において都合がよいか、悪いか、
つまりはそういうことで決定されてしまうわけで・・・
こわいですねえ・・・。

作中は彼女が自作自演で傷をつけた可能性も残しつつ、
神の奇蹟と同性愛のことがもつれ絡まって、
なんとも言えぬ雰囲気を生み出していました。

小さなマリア像があの行為に使われるというのが、なんとも隠微で冒涜的。

ベネデッタに修道院長の座を奪われたのが、シスターフェリスタ。
彼女は修道院長の座にありながら、神とか奇蹟には懐疑的。
ベネデッタのレズビアン行為を目撃し、中央へ訴えに行きます。
作中では最も「人間的」。
同じく修道尼であった娘の自殺や、
自ら感染しこの地にペストを運び入れてしまったこと・・・など、悲劇続き。
この人こそ救われるべきように思えますが、神は力を貸したりしません・・・。
さすがのシャーロット・ランプリングの名演技でした。

 

<WOWOW視聴にて>

「ベネデッタ」

2021年/フランス/131分

監督:ポール・バーホーベン

脚本:デビッド・バーク、ポール・バーホーベン

出演:ビルジニー・エフィラ、シャーロット・ランプリング、ダフネ・パタキア、
   ランベール・ウィルソン、ルイーズ・シュビヨット

 

歴史発掘度★★★★☆

狂女度★★★★☆

奇蹟度★★★★☆

満足度★★★★☆


怪物の木こり

2023年12月05日 | 映画(か行)

サイコパスの弁護士?!

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2019年第17回「このミステリがすごい!」大賞受賞作の映画化です。

斧で相手の頭を割り、脳を奪い去るという、連続猟奇殺人事件が発生。

弁護士・二宮彰(亀梨和也)もまた、この同一犯らしき男に襲われ、
殺されかけるのですが、間一髪、
かろうじて頭を強打しただけで、犯人は逃走。

さてところが実は、二宮の本性は犯人を上回るほどのサイコパス。
友人の医師・杉谷(染谷将太)と共に、
幾度も残虐な殺人を犯していたのでした・・・。

一方、警視庁の天才プロファイラー・戸城(菜々緒)は、
なぜこの犯人が二宮を標的にしたのかを調べ始めます。
この連続殺人の被害者にはある共通点があった。
それは30年ほども前の出来事に起因して・・・。

主人公は残虐非道なサイコパスということで、
さてこれではいかに亀梨くんといえども共感は持てないし、どーするんだ・・・?
と思いながら見て行ったのですが、なるほど~と思える展開。
なかなかうまくできています。

ネタばらし覚悟で少しだけ言ってしまえば、
その30年ほど前に、脳にチップを埋め込んで情動に影響をおよぼすという研究をしていた
マッドサイエンティスト(?)がいた、ということで・・・。

「このミス」らしい物語でした。

二宮が弁護士としてどのような仕事をしていたのか、
もう少し詳しく見てみたかったです。
亀梨くん、やっぱりカッコイイ

中村獅童さんの迫力もハンパないです。

<シネマフロンティアにて>

「怪物の木こり」

2023年/日本/118分

監督:三池崇史

原作:倉井眉介

脚本:小岩井宏悦

出演:亀梨和也、菜々緒、染谷将太、吉岡里帆、中村獅童

 

サイコパス度★★★★☆

ミステリとしてのひねり度★★★★☆

満足度★★★★☆


「くもをさがす」西加奈子

2023年12月04日 | 本(その他)

異国での貴重な体験・・・ 

 

 

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『くもをさがす』は、2021年コロナ禍の最中、
滞在先のカナダで浸潤性乳管がんを宣告された著者が、
乳がん発覚から治療を終えるまでの約8 ヶ月間を克明に描いたノンフィクション作品。

カナダでの闘病中に抱いた病、治療への恐怖と絶望、
家族や友人たちへの溢れる思いと、時折訪れる幸福と歓喜の瞬間――。

切なく、時に可笑しい、「あなた」に向けて綴られた、誰もが心を揺さぶられる傑作です。

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西加奈子さんの、乳がん発覚から治療を終えるまでのノンフィクション。

ところがこれが、カナダ滞在中、
しかも2021年コロナ禍の最中ということで、
日本にいて治療するよりもかなり大変だったように見受けられます。

よくぞ、頑張りました! 
思い切りねぎらって差し上げたい気持ちでいっぱいです。

 

カナダでは医療費がすべて無料、
外国人の滞在者でも健康保険に加入していれば同様とのことで、
それは確かに素晴らしい。
それならやはりカナダでの治療は正解・・・と、言いたいところですが、
ことはそう簡単ではありません。
どこか具合が悪ければまずかかりつけ医師か
それがない場合は、ウォークインクリニックでまず症状を見てもらい、
しかるべき専門医への紹介状を書いてもらう。
自分で直接専門医にかかるということはできません。
しかしまず、その第一段階の診察予約を取るのが大変。
それからまた検査やら専門医の診断までにやたらと日数がかかり、
待っている間にもどんどんガンが大きくなっていったりするのです・・・。
そして、結局手術は両胸の全摘出ということになるのですが、
なんと日帰り手術!! 
日本ではとても考えられませんよね。
そんなことが可能だとは・・・。

コロナ禍という特殊事情もあったのかもしれませんが、
つまり医療費をできる限り切り詰めるために、
ムダな入院は極力させないということになるのでしょう・・・。

著者はそれでもカナダの医療システムに従い、
手術やその後の抗がん剤、放射線治療に耐えました。

それにはご主人と周囲の友人・知人たちの大いなる手助けや応援が力になったようです。
持つべきはよき隣人であります。

簡単には帰国もままならないという状況の中で、
ものすごく貴重な体験をされたと思います。
無事快癒してよかった・・・。
しみじみと健康なことはそれだけで素晴らしいと思いますね。

図書館蔵書にて

「くもをさがす」西加奈子 河出書房新社

満足度★★★★☆

 


僕が愛したすべての君へ

2023年12月02日 | 映画(は行)

母と共に暮らすことを選択した少年

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「君を愛したひとりの僕へ」のもう一対のアニメストーリー。

両親が離婚し、母と暮らす高校生、高崎暦。

ある日、クラスメイトの瀧川和音から突然声をかけられます。
自分は85番目の平行世界からやって来た。
そしてその世界で、自分と暦は恋人同士だった、と。

突然のことに戸惑ってしまう暦ですが、そんな和音にいつしか惹かれていきます。
そのまま付き合いを進め、同じ研究者の道を歩み、結婚した二人ですが・・・。

「君を愛したひとりの僕へ」では7歳の時に両親が離婚し、
父と暮らすことを選択した暦。
そして本作では同じ時に母と暮らすことを選択した暦。
大きく二つの分岐点で変わってしまったふたりの人生を描き出しているわけです。
同じ「暦」でも名字が違うのは、
母と暮らすことになって、母方の姓に変わったからなんですね。

それで本作は始めの方、暦と和音のラブストーリーになっていて、私はそこのところが好きでした。
ちょっとツンケンしている和音が、だけど乙女でかわいらしい・・・。

それで本作は、意外なことにほとんど“栞”が登場しません。
冒頭で、あの交差点にたたずむ例の“栞”と、
年老いて体も衰えた暦が出会うシーンがあるのみ。
そしてその答はラストシーンで明かされますが・・・。

いやあ、正直私はこの平行世界の入り込み方について、
なにがどうなってそうなっているのか、よく分かりませんでした。
雰囲気は伝わりましたが・・・?

それにしても結局どの平行世界に生きるにしても、
正解というのはないのだなあ・・・と思います。
こちらで愛犬が死んでしまって、あちらの世界へ行ってみれば、
犬は元気だけれどおじいさんが亡くなっていた・・・。

耐えがたい悲しみや不幸を避けるために別の世界へ行ったとしても、
そこでもいつかはまた同様なことが起こる。
どんな選択をしようとも、いいことばかりで埋め尽くすことはできない。

時の流れの果ての死の間際に「いい人生だった」と思えればラッキー、
くらいのものかもしれません。

今回は、宮沢氷魚さん、橋本愛さん、蒔田彩珠さんの声を
それと意識しつつ楽しみました!

 

<WOWOW視聴にて>

「僕が愛したすべての君へ」

2022年/日本/98分

監督:カサヰケンイチ

原作:乙野四方字

出演(声):宮沢氷魚、蒔田彩珠、橋本愛、田村睦心、水野美紀、余貴美子、西岡徳馬

 

(2作の総括として)

パラレルワールド堪能度★★★★☆

二作の絡み合い度★★★★★

満足度★★★.5


君を愛したひとりの僕へ

2023年12月01日 | 映画(か行)

父と共に暮らすことを選択した少年

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本作は、「僕が愛したすべての君へ」と2作同時にアニメ映画化されています。
平行世界を行き来する世界。
同じ名を持つ二人の少年が、それぞれの世界でひとりの少女と恋に落ちますが、
この二作、見る順によって結末が変わるという・・・?

ということで、とりあえず、本作を先にみました。

両親が離婚し、父と暮らす小学生・日高暦。
父の職場で佐藤栞という少女と出会います。
暦と栞は互いに惹かれ合いますが、やがて親同士が再婚することに。
二人は兄妹になるわけですが、これでは二人の未来はないと思い込み、
兄妹にならない運命が約束された平行世界へ駆け落ちすることに・・・。

 

暦の父と栞の母は、「平行世界」を行き来できるようにする研究を続けているのです。
研究所にはそれが可能となる試作機が設置されています。

それを使ってみようとする暦と栞。
暦は両親の離婚の際に父と暮らすことを選択しました。
でもあの時、母と暮らす選択をすれば、栞とは出会わない。
だから二人が兄妹になってしまうこともない、と考えたわけです。

しかし、二人の平行世界への移動は成功したかのようではあったのですが、
その刹那に悲劇が起こる・・・。

悔やんでも悔やみきれない悲劇。

パラレルワールドがテーマではありますが、純粋な少年少女の「愛」もまたテーマの一つ。
とある選択による人生の分岐。
そこから永久に続く未来・・・。

切なくもあるストーリーのもう一つの形も、ぜひ見届けなくては・・・。

ところで、吹き替えをされているのが、宮沢氷魚さんと蒔田彩珠さんだったとは、
ぜんぜん気づきませんでした。
おなじみのアニメ声優さんではないな・・・というのは気づいたのですが。

 

<WOWOW視聴にて>

「君を愛したひとりの僕へ」

2022年/日本/98分

監督:カサヰケンイチ

原作:乙野四方字

出演(声):宮沢氷魚、蒔田彩珠、橋本愛、田村睦心、水野美紀、余貴美子、西岡徳馬