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夫と子供と暮らす岸辺野裕里(松たか子)は、姉未咲の葬儀で未咲の娘・鮎美(広瀬すず)と再会する。鮎美は心の整理がついておらず、母が残した手紙を読むことができなかった。 裕里は未咲の同窓会で姉の死を伝えようとするが、未咲の同級生たちに未咲本人と勘違いされる。そして裕里は、初恋の相手である小説家の乙坂鏡史郎(福山雅治)と連絡先を交換し、彼に手紙を送る。 |
回想シーン
姉 未咲(みさき・広瀬すず)
妹 裕里(ゆり・森七菜)
乙坂鏡史郎(神木隆之介)
乙坂は裕里の初恋の人だが、彼は未咲が好きである。
現在
姉 未咲(亡くなっている)
娘-鮎美(広瀬すず)
妹 裕里(松たか子)
娘-颯香(そよか,森七菜)
乙坂鏡史郎(福山雅治)
事前情報で広瀬すずと森七菜が二役ということはわかっていた。主役は大人になった裕里なのか... と思っていた。なにかすごく地味なのだ。これはややネタバレになるが、「裕里の小さな世界に、ちょっと波風が立ったひと夏のものがたり」という視点で見ると、あるテーマが浮かんでくる。
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私たちの未来には無限の可能性があり、数え切れないほどの人生の選択肢があると思います。
<中略> 他の誰とも違う人生を歩むのです。
これは高校時代生徒会長を務めた未咲が、卒業生代表として答辞に書いた言葉である。
大人になった裕里や鏡史郎は、その言葉が意味することを、経験から理解している。「可能性も選択肢も、思い通りにならない。でも、選択の繰り返しで現在があり、自分たちは生きている」ということを。
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大人になった裕里の周りの人たち
裕里の夫・岸辺野宗二郎は漫画家。庵野秀明が演じている。やや自己中な人物。男女一人ずつ、子どもがいるお父さん。娘の颯香は中学生。息子の瑛斗は小学生。
宋二郎は同窓会から戻った妻に、鏡史郎からの連絡が来ていることに気がつく。妻の浮気を疑う。なお、裕里は専業主婦ではない。図書館司書(のような仕事)をしている。
あることから疎遠になった姉未咲は、亡くなっている。その姉の一人娘・鮎美(広瀬すず二役)と、姉の葬儀で再会する。
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裕里から乙坂への手紙が引き起こした小さな事件
裕里は乙坂に住所を教えていないのだが、彼は卒業アルバムから住所を調べ、手紙を出している。高校在学時の住所、実家である。四半世紀ほど前、卒業アルバムには住所が掲載されていた。
乙坂が送った手紙を、葬儀後祖父母宅に身を寄せていた鮎美と颯香が見つけてしまう。そして、
乙坂→裕里→乙坂
鮎美・颯香→乙坂→鮎美・颯香
二通りの手紙のルートができてしまう。
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実写でもこんなにきれい
これは批判ではない。強調しておく。
風景がきれいなのは新海誠作品だけではない。OPの清流、鮎美の葬儀の行われたお寺、仙台市の様子。きれいさが半端ではない。
人間くささ、ダメさ加減
未咲の元夫・阿藤(豊川悦司)と乙坂が居酒屋で話しをする。阿藤は乙坂にとっては仇敵とも言える存在。阿藤は現在サカエ(中山美穂)という女性と同居している。三人三様のダメさ加減がすごい。
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細かいなあ
未咲は卒業式答辞を乙坂に推敲してもらい、二人きりで卒業式会場でリハーサルをする。そしてその原稿を卒業式で読み上げるところ。2つのシーンで未咲のスカート丈がちょっとだけ違った。
宮城県仲多賀井(なかたがい)高校は、実在した宮城県白石高校の旧校舎を用いて撮影している。現在は統廃合で取り壊されたとのこと。
名前は「仲違い」からだろう。姉妹間のことだろうか。
乙坂が住所を調べるために広げた卒業アルバム、「宮城県仲多賀井高等学校」と標記されていた。宮城県は県立でも県立とつかない。
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惜しいなあ
卒業式のシーンが「無限の可能性があり」なら、もっと華やかでもと感じた。実際の卒業式ならば紅白幕もあるし、保護者席もある。でも、回想シーン。未咲の目線で考えれば、自分、仲間に集約される。あれでいいのかな。
阿藤と乙坂のシーンの1カット。阿藤の雰囲気が違う。
ラスト近くで鮎美と颯香が乙坂を見送る雨のシーン。夏の終わり頃の設定だが、梅雨時だと思う。
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2020年1本目が「ラストレター」
もしも僕が20代ならば、見ない作品だろう。
本作は下手をすると、平板なものがたり構成とか、そもそも、裕里が同窓会にわざわざ出向くのはおかしい。同窓会の主催者か会場に電話をすれば、誤解は起きなかったなどと批判されそうな感じがする。すずと七菜がかわいいだけの作品と言われる可能性もある。確かにすずと七菜はかわいいかもしれないが、本質は違う。
現在の年齢で本作に出会う。正直な感想として、受けた感覚・衝撃は強烈で残酷である。当たり前のことだが、僕にも18歳の時があり、僕の未来にも無限の可能性や、数え切れないほどの人生の選択肢があったと思う。そう信じたい。無数の選択の結果、他の誰とも違う人生を歩み、現在がある。過去を振り返り、悔やむこともある。可能性も選択肢も、思い通りにはならず、現在(いま)を生きている。それを認識しているからである。自覚があるから、感覚・衝撃が強烈で残酷なのだ。それでも生あることは、素晴らしいことだ。その自覚もある。
鑑賞中そんなことを考えた。そして、少し息が苦しくなった。
ラストで乙坂も裕里も鮎美も颯香も、それぞれ小さな一歩を踏み出すことができている。ものがたりの中の人たちにも、何かの救いがあるように思えた。