<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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山手線に乗っていて、「石川光陽写真展」という展示会の吊り広告が目に止まった。
セピア色の古そうな写真。
辰野金吾が設計した有名な東京駅の赤レンガの駅舎前を走る都電。

現在の写真ではないことは間違いない。

このような昔の写真の写真展、というのは私の最もお気に入りのジャンルの展覧会。
はじめ東京都写真美術館の展覧会の広告かな、と思ったが、違った。
鉄道歴史展示室での展覧会の広告なのであった。

東京汐留にある鉄道歴史展示室。

「♪汽笛一声新橋を~、はや我が汽車は離れたり~」

と鉄道唱歌の冒頭で歌われている、あの新橋駅の遺跡の上に建っている博物館が展示室。
ともあれ、東京駅にも近い新橋にある博物館なので、大阪へ帰るまでに時間があれば寄ってみようと思った。

このように興味あることで「寄ってみよう」と思っていると、どういうわけか寄って見る時間ができるもの。
もしこれが仕事の「寄ってみよう」だとなかなか時間ができないのが不思議ではある。

ということで、大阪へ帰る1時間ほど前に地下鉄を新橋で下車して鉄道歴史展示室へ立ち寄った。



石川光陽という人は、本業は警察のカメラマンであったそうで、写真が特殊技術であった当時、その腕前は半端ではなかった。
その半端ではなかった腕前は事件の記録にとどまらず戦前戦後の東京の姿を愛情を込めて写し出しているのだ。

作品は幾つかの分野に分けて展示されていたが、総じて面白いのは東京都民の何気ない日常を警察官の目ではなく、一人の東京都民として写していることだった。

桜咲き誇る大通りを走る都電。
交通整理をするおまわりさん。
銀ブラする市民。
歌舞伎座に立ち寄る進駐軍。
などなどなど。
中でも通りでおしゃべりに興じている高校生の写真が印象的だった。
彼女たちのカメラに投げかける笑顔が現代のそれと寸分変わらず、健康的で、自由闊達そうなのが、なによりも印象的なのであった。
まさかそれが昭和一桁時代の写真であるとは。
後ろに広がる東京の街並みが現代であれば、彼女たちも今の高校生だと説明しても、だれも「嘘でしょ」と言わないくらい、自然に現代的なのであった。

しかし、私にはこの展覧会でもっと衝撃を受けた展示物があった。

それは資生堂パーラーのメニューなのであった。

そこには、当時は東京や大阪くらいでしかお目にかかれない洋風メニューが価格と共に書かれ、当時の文化を想像させる。
山本夏彦が「誰か戦前の昭和を知らないか」と語った、あの世界がメニューの中に広がっていたのだ。

そのメニューには飲み物の他にサンドイッチのセットがリストされていて、それぞれが面白い。

タマゴサンドやハムサンドは今でも一般的だが、驚いたのは「キャビアサンド」や「フォアグラサンド」のあることで、これはもし現代でもあれば、かなり高直なものになることは間違いない。
卵サンドやハムサンドが50銭程度なのに対して、キャビアサンドは1円50銭。

資生堂パーラーで楽しむ人達の生活水準も噛み締めることのできた展覧会なのであった。




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