もうかれこれ15年ほど前になるけれども、友人の結婚式に出席するため初めてシンガポールを訪れたとき、マレー鉄道に乗車した。
その区間、わずかにシンガポールから海峡を超えたジョホールバールまでの1区間。
シンガポールの地下鉄ではなく、モノホンの鉄道に乗ってみたくて日本から一緒に出かけていた友人数人を誘っての乗車だった。
マレー鉄道。
まずはその南端、シンガポール駅の人気の少なさにびっくりした。
立派な駅なのに利用者が少ないため、閑散とまではいかないけれども日本のターミナル駅と比べると随分対照的な駅なのであった。
それでもポッカの自動販売機でなにやらメチャ甘なジュースを買って駅のベンチに腰を掛けると様々な思いが駆け巡った。
「この鉄道がアジア版オリエント急行の終着駅か」
とバンコクからシンガポールまで走っていた豪華列車の旅を夢想したり、
「銀輪舞隊とは別に、ここに列車で到着した日本軍もおったんやろか」
と第二次世界大戦のシンガポール攻略戦を想像したり、
「国際列車、初めて乗るけどどんなんやろ」
と、初めて列車で国境を越えるという体験に胸ワクワクしていた。
そんなマレー鉄道に乗り込んでユックリユックリ走り始めると、もうそんな夢想はどこへやら。
線路両側の熱帯並木に気を取られ、すっかり鉄路の旅人に変わっていたのであった。
尤も、そんな鉄道の旅もわずか数十分で終了。
ジョホール水道を渡るとすぐにジョホールバール駅に到着。
下車した。
駅前は当時工事中で、大成建設の看板がかかり、駅前の横断歩道の信号機は日本の中古信号機と思われる人の図が描かれた日本と全く同じ信号機。
やれやれ、日本の影響の強いこと。
それでも駅周辺をてくてく歩き、小さなショッピングセンターで涼をとってからバスでシンガポールに戻ってきた。
ジョホールバールの駅で印象的だったのは、イミグレーションカードを書く代書屋が多数店を構えていたことで、
「字の書けない人が大勢マレーシアからシンガポールに行くんだな」
と、これもまた現地に行かなければ知りえない貴重な体験になったのであった。
そのマレー鉄道も先日終点がシンガポールからジョホールバールに変わった。
シンガポール国内の鉄路が廃止されてしまったからなのであった。
あの日、車窓から流れこんできた涼やかな風は、もう体験することはできないのだ。
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